30.惑星F25②
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君は少し考えた後、アルメンドラの提案を受け入れることにした。
「いいぜ、受けるよ」
そう答えると、アルメンドラは微かに頷いた。
「ご協力に感謝します」
君は顎に手をやりながら、ふと思った疑問を口にした。
「ところでさ、俺の船でその惑星の環境に耐えられるのか?」
アルメンドラは即座に答える。
「確かに惑星F25の大気圏内には暴風が吹き荒れている可能性があります。しかし、あなたの船に搭載されているバリアシステムであれば十分に耐えられると想定されています。船体の強度も問題ありません。ただし、危険がないわけではありません。惑星F25には固有の生態系が築かれており、中には危険な生物も存在します」
君は頷く。
「その辺を理解して仕事をしろ、か。分かったよ」
アルメンドラは淡々と続ける。
「もちろん今から断る事もできますよ」
「いや、別にいいさ。危ないからやめるなんていったら、どんな仕事もできなくなっちまうからな」
彼女は軽く目を閉じて受け入れの意思を示した。
君は彼女のそんな仕草にまた感心する。
──本当に人間みたいだな
思わずそう感じてしまうほど、彼女の振る舞いは自然だった。
◆
アルメンドラは手元の端末を操作しながら、データ収集の詳細を説明し始めた。
「今回の任務は主に映像データの収集です。惑星F25は着陸が不可能なため、飛行しながら船外カメラで惑星の様子を撮影していただきます」
「なるほどね、つまり空中での作業になるわけだ」
「はい。その際、嵐が吹き荒れていない安定した領域でこちらのデータ収集ドローンを放出してください」
そう言って、アルメンドラは小型のドローンのホログラム映像を君に見せた。手のひらサイズの球体で、表面には無数のセンサーが埋め込まれている。
「このドローンは自律飛行しながら、惑星のガス成分や気象データを収集します。収集したデータはリアルタイムで惑星開拓事業団へ送信され、ガス採取しやすいエリアの分析に役立てられます」
君はドローンの映像を興味深そうに眺めた。
「嵐の中でちゃんと動くのか?」
「ドローンには最新の耐久シールドが搭載されています。ある程度の環境下であれば問題なく動作します。ただし、暴風域では機能が低下する恐れがあるため、安定した領域での放出をお願いします」
「了解了解。つまり俺の役目は映像を撮りながら、ドローンを適切な場所で放てばいいんだな」
「その通りです。データ収集とドローンの放出は、将来的なガス採取事業を円滑に進めるために重要なステップです」
「わかったよ」
「期待しています、ケージ」
彼女が君の名前を呼ぶと、君は少し驚いた。
──名前で呼ばれるのは珍しいな
まあたまたまかなどと思いつつ、君はアルメンドラに出発の旨を告げる。
「それじゃ、準備したら出発するよ、紹介ありがとうな」
「承知しました。お気をつけて」
君は軽く手を振り、支社のエントランスを後にした。
──惑星固有の生態系ねえ
ポケットに手を突っ込みながら、君は足取り軽くホテルへの帰路についた。
またぞろみょうちきりんな生物がいたりするのだろうか、と君は少しワクワクしている。
珍しいものにとかく目がない──君という男は、そんなガキっぽい所がどうしても抜けないのだった。




