表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/97

29.惑星F25①

 ◆


 君は開拓事業団支社に向かう途中、どこかそわそわしていた。


 直接報告しなくてもいいはずなのに、君はこういう場面で妙に律儀さを見せることがある。


 ポケットに手を突っ込みながら、無意識に歩調を緩め、支社の入り口が見えてくると一瞬立ち止まって深呼吸をする。


 そうして覚悟を決めてエントランスに入って見れば、アルメンドラの冷たいまなざしが針となって、まるで標本にされた虫けらのように君の総身をその場に縫い留めた。


 ただ、別に君を威圧してるという事はない。


 仏頂面が常なのだ。


「誰かと思えばあなたでしたか。本日はどうされました?」


 アルメンドラの質問に君はしどろもどろになって答える。


「やあアルメンドラ、あー……実はだな……。おい、ミラ、頼むぜ」


『はい、ケージ。報告します。惑星D80におけるチュウニドラビルジングの清掃業務は失敗しました。原因は他の開拓団員が上層部の警備システムを作動させたためです。警備ロボット複数体と戦闘になりこれを撃退しましたが、依頼の継続は不可能と判断して撤退しました』


 アルメンドラはそれを聞いて小首を傾げる。


 それは分かっているが、と言わんばかりの仕草だ。


 この人間の様な所作を特に意識することなく出来るというのは、アルメンドラのエモーショナル・ドライブの性能がそれだけ高い事を意味する。


「それは既に報告を受けています。惑星開拓事業団C66人員管理部は、少なくともこの業務に関わった開拓事業団員の依頼失敗を問題なしと判断しています。勿論、失敗の要因となった団員については処分対象ですが、その者たちは既に除籍されており、また、生命活動も停止している為にこれ以上の調査は行われません。本件につきましては既にあなたにも通知が行っている筈です」


 アルメンドラの言葉に君は頷く。


 しかし──


「いやあ、まあな、うん。直接報告しといたほうが覚えがいいかなって思って……」


 君がそんな事を言うと、アルメンドラは関節部からきゅる、と音をたてて再び小首を傾げた。


 それをネガティブに捉えた君は、更に言い募る。


「いやな、中々大変だったんだ、本当に。あの赤い奴がやべえなって。まあでも俺はこう見えても修羅場には慣れてるからさ、こうしてぐいんとやって……跳ねたりね、したわけ。分かる?」


「いいえ、全く。しかしあなたなりに 意を示そうとしたことは理解します」


「そりゃどうも」


 言いながら、君はアルメンドラの人間()()()に舌を巻く。


 ──これが全部プログラムだってんだからなぁ


 彼女はアンドロイドだ。しかしそれを忘れてしまうほど人間に近い所作を見せる。


 君はあらためてアルメンドラを観察した。


 透明感のある青い髪、鋭く透き通る瞳、整った顔立ちの全てが人工物だ。

挿絵(By みてみん)

 なのに、君はアルメンドラを最初に見た時よりずっと彼女が人間らしく見えてしまって仕方がない。


 それはアルメンドラの人間仕草がこなれてきた為か、或いは君が()()()()()()()()()()()()()()()か、この時点では分からない。


「次の仕事の予定はあるのですか?」


 アルメンドラはいつもの冷淡な表情で、君に次の予定について尋ねてきた。


 君は一瞬迷ってから答えた。


「ドンパチやってきた後だしなあ。のんびりした仕事ならいいかもな」


 すると彼女は少し間を置いてから提案をした。


「それなら、データ収集の仕事があります。惑星F25で指定された映像データの収集を行ってほしいという依頼です。興味がありますか?」


「Fね。そう遠くはないな」


「はい。ハイパー・ワープなら1度で移動できる距離です」


 地球政府の管理領域にある全ての惑星にはアルファベットが割り振られている。


 これは地球からの大まかな距離を示し、Aから順に進むごとに距離が遠ざかっていく。


 特別なアルファベット──例えばキラー惑星を示すKなどは一般には使われていないが、その他の文字は単純に距離関係で割り振られている。


 また、アルファベット間の距離はおおよそ300AUであり、惑星Fは地球から約1800AU離れている。


 ちなみに1AUは1天文単位と言い、地球から太陽までの距離、約1億5000万kmである。


 そして、この時代の「遠い」という感覚は、ハイパー・ワープ2回以上──最低でも3000AU以上の距離を指す。


「急ぎの仕事だったりするのかな?」


 君が尋ねると、アルメンドラは首を振った。


「いいえ。しかし手早く済ませていただけるならばそれに越した事はありません」


 この言葉に君はどうにもキナ臭いものを感じ、再度尋ねてみた。


「それって……理由があったりするのかい?」


 アルメンドラは頷き、淡々と詳細な情報を伝え始めた。

 挿絵(By みてみん)

「惑星F25は木星型のガス惑星です。言うまでもなく居住適正ランクはE。居住対象としての価値はありませんが、採取されるガスには一定の有用性が確認されています。しかし大規模な採取事業を展開するためにはまだデータが足りないため、早急な収集が求められています」


 惑星F25は木星の40倍以上の質量を持つ巨大なガス惑星だ。


 地表が存在せず、常に厚いガスの層に覆われている。


 惑星の外観は紫や青、緑のガスが絡み合い、まるで絵画のように美しいがしかし──その内部は非常に過酷だ。

挿絵(By みてみん)

 ガス層は嵐のように渦を巻き、大型の宇宙生物が回遊している。


「どうされますか?」


 アルメンドラの問いに、君は少し思案し──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
「お手を拝借」

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
「蟲毒のハコ」

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ