28. 惑星C66、アロンソ再び
◆
「じゃあね、ケージ、レミー。仕事はうまくいかなかったけれど……あなた達に会えてよかったわ。また一緒に組みましょう、今度は成功させましょうね」
「おう、アサミもレミーもまたよろしくな」
「……また」
君たち三人は宇宙港で別れた。
別れ際にレミーが短く別れを告げた事には君もアサミも驚き、顔を見合わせたり。
まあそういったサプライズはあったが、3人は再開を期して別れた。
ちなみに仕事が失敗した件についてはアサミが船内ですでに報告しており、数日中には沙汰が下ることになっている。
──アサミが言うには全然心配しなくて大丈夫だって話だけどよ
君としてはどうにも心配だった。
それにしても、と君はアサミとしたあんなことやこんなことを思い出す。
実のところ内心モノが役に立つかどうか心配だったのだが、君のモノは君の意思に呼応して力強くそそり立った。
そして驚くべき事に、多少なり快感もあったのだ。
──まあでも、分厚いゴム越しって感じだったけどな。それになんだかむらむらって感じじゃなくて、スイッチを入れる感じだった
それがなんだか君には自分が人間から遠ざかっているような気がして心に影を落とすのだった。
そうしてボロホテルにたどり着いた君は──
「よう、兄さん」
ロビーの薄汚い椅子に座っているアロンソに声を掛けられた。
◆
「おいおい、アロンソの旦那。約束を忘れちまったのか?」
君はそう言って目を細める。
──『兄さんは俺たちの邪魔をする事はない、だから俺たちも兄さんにこれ以上関わらない』
かつてアロンソは君にそう言った。
「俺に色々とアロンソの旦那の邪魔をして欲しいってことかい? 旦那からすれば俺はひょろいモヤシ野郎かもしれないが、俺を敵に回すと結構鬱陶しいぜ。掻いても掻いても収まらない虫さされくらいには」
君がそんなことを言うとアロンソは苦笑しながら詫びた。
「そりゃあ鬱陶しいな、でも安心してくれ。別に組の人間として会いに来たわけじゃねえんだ。あれから俺個人として色々調べてな、兄さんが結構いろんなツテを持っていることを知った。兄さんを敵に回したら俺たちを敵視する連中が結構いるみたいでな。まあようするに、この先うちの組が馬鹿な真似をしても、俺を的にかけるのはやめてくれるようにダチになりにきたってわけだ」
「なんだあそりゃ、都合がいい事言うなぁ。なあミラ、都合がいいと思わねぇか?」
君が腕に抱えるミラに話しかけると、ミラはモノアイをピカピカと光らせながら『はい、ケージ。都合が良い話です。その根拠の説明を希望しますか?』と答えた。
「ガイドbotのお嬢ちゃん、あ~、ミラって言ってたか。ミラさんよ、説明はいらねえよ。俺も都合がいい話だって思ってるからな。でもまあ考えてみてくれよ。俺は結構事情通なんだ、仲良くしておいて損はしないぜ」
「う~ん、アロンソの旦那は……」
「アロンソでいいさ」
「そうかい、じゃあ俺もケージでいいよ。アロンソは何というか、こういう事はしなさそうに見えたんだけどな」
「こういう事ってのは?」
「俺みたいなのと仲良くして、それでいざとなったときは見逃してくれってやつだ。組に忠誠を尽くしてる感じに見えたんだが」
君がそういうと、アロンソは「ああ」と苦笑しながら頭を掻く。
「まあ、そうだな。俺は結構組には忠実だったほうだ。でも、なんつうんだ、忠誠心? そういうのはよ、鍵と鍵穴みたいなもんなんだよ。ピカピカの鍵に立派なドア。スッとさし込んでスムーズに開いたらなんだかイイだろう? あるべき姿って感じがするじゃねえか。それがきちんとした忠誠心のカタチなんだ。でも鍵がどれだけ立派だろうとよ、それまでハマってた鍵穴に糞が詰まってたりしたらうまく開かないだろ? そんなんじゃあ忠誠心の形も歪むってもんだ。忠誠ってのは一方だけじゃあなりたたねえんだ」
「なんとなく分かるけどよ」
「分かりやすいだろ。俺は立派な鍵さ。でも鍵穴に糞がびっちり詰まっちまった。何となくわかってくれたかい? でな、俺はもしケージがダチになってくれるなら、もしかしたら今後ケージが気をつけなくちゃいけない事とか分かった時に、それを教えてやれる。あとは女を紹介したり、安全で非合法なブツを取り扱うバイヤーを紹介したりも出来る」
君は少し考えてからこう言った。
「仲良くするといってもな。俺はなんだったか、ああ、アロンソの組が馬鹿な真似をしてもアロンソに敵対しなけりゃいいのかい? でも別に、そんな約束しないでも、アロンソが本当に関係なければ俺は何も思ったりしないぜ。それでいいならダチ……はまだ早いから、知り合いからはじめようか。何事も順序ってモンが大事だ」
するとアロンソは嬉しそうに笑って言った。
「そうかい、じゃあ俺たちは今日からダチ……いや、知り合いだ。ってことでまず一つ教えよう。もう少ししたら下層居住区全体が荒れてくるぜ。どっかの馬鹿な組がよ、色々と方針を変えたらしい。俺はあんまり酷くなるようならどこか遠い星へ旅行しに行ってもいいかなって思ってるんだ」
「ああ、なるほど。そういう感じか。ふーん、いいよ、分かった。まあ物騒なのは今に始まった話でもないしな、せいぜい注意するさ。じゃあ俺からも何か礼をしなきゃな」
君はそういってポケットをごそごそと漁る。
そして──
「ほら、これやるよ。綺麗だろ?」
小汚い布にくるまれた石を取り出した。
材質は硝子の様で、内部で様々な色の光が反射している。
虹がとろけ落ち、地面に落ちるまでに凝固したようなそんな石だ。
「宝石かい?」
アロンソが石を受け取って、興味深そうに眺めた。
「いんや、ただの石だね。惑星G1011"硝子の星"ってとこでちょろまかしてきた」(7.惑星G1011②参照)
「悪くないな。サイドテーブルにでも飾っておくか、ありがたく貰っておこう」
「大事にしてくれよ、それじゃあ話はこの辺で。ミラを充電しなきゃいけないんだ。ミラ、そうだろ? 腹減ってるんじゃないか?」
『いいえケージ、私は空腹を感じる事はありません。バッテリー残存量21%、通常起動で27時間後に充電が切れます。それまでに充電をしてください』
ってわけだ、と君はアロンソに手をひらひら振って、階段へと向かっていった。
「またな、アロンソ」
「じゃあなケージ」
ケージが去った後、アロンソはロビーの椅子に座りながら暫くまだ何かを考えていたが、やがて去っていった。
※
①惑星G1011
惑星開拓事業団の先遣隊は、惑星G1011についてこう報告している。
『この星の空はまるで硝子のような物質が降り注ぐ奇景を見せている。雨は地に落ちても砕けることがない。また大気に毒性はなく、3日間の滞在中に敵性生物との遭遇もなし。居住適正ランクをBと定める』
②いしころ
実写風