13.惑星C66、マッチング・システム③
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ちなみに君は外見による区別や差別をしないと言っていたが、これはかなりの少数派と言えるだろう。
多くの者は自分と異なる外見を持つ者に対して忌避感を覚える。
そして外星人というのは青い肌や豚の外見をしているといった程度ではなく、もっと大きな差異がある場合も珍しくない。
例えば『ザイフォルクス』と呼ばれる外星人は、アースタイプのように二足歩行の生命体ではなく、枯木が奇妙に絡まったようなタコの遊泳スタイルを思わせる独特の二重螺旋構造を持つ生命体だ。
彼らには雌雄の区別がなく、繁殖は他の生物と行われる。
そして、その際は繁殖相手の文化や生態を学習する。
学習した上で、極力相手の忌避感情を誘発しないような外見を取り、生殖を目的として交流を図る。
また、彼らは非常に思慮深く温厚で、無差別に他の生物をレイプしてやろうだとかそういう事は考えていない。
更に興味深い点として、生殖の結果産まれた子供にはザイフォルクス外星人の遺伝情報が含まれていないというものがある。
ザイフォルクス外星人は繁殖により遺伝子を残すのではなく、交接相手の遺伝情報を取り込み、自身の遺伝情報を進化させ、分裂することで遺伝情報を残すのだ。
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君はホテルの安いベッドに腰掛け、端末に表示されたマッチング結果を見ていた。
「どんな連中と仕事することになるのかな?」と内心ワクワクしていた君だが、紹介されたのはアースタイプの女とベルトラン外星人の男だった。
ベルトラン外星人を一言で表すなら "植物人間" だろう。
彼らは体毛の代わりに植物由来の繊維で全身が覆われており、光合成でエネルギーを生産する。
アースタイプのような食事は不要だが、水分の摂取を僅かでも怠ると命に関わる。
特に興味を引いたのはベルトラン外星人の男だ。
その理由は単純である。
君は彼のような外星人に会ったことがなかったからだ。
彼らがどのように考え、どんな理由で開拓事業団というヤクザな組織に参加したのか気になってしかたがない。
そのとき、ミラがふわふわと浮きながら君の横に寄ってきた。
君は気づき、「なんだい?」と声をかける。
ミラはモノ・アイを二度、三度と明滅させながら答えた。
『ベルトラン外星人は平和的な種族として知られています。彼らは通常、多種族と交流せず、惑星内で生涯を終えます。しかし開拓事業団で仕事を探すというのは、何か理由があるのかもしれませんね』
"情報を提供する"──……これはガイドボットとしての存在理由である。ミラはそれに基づき行動したに過ぎないが、君にはまるでペットがじゃれついてくるように感じられた。
まるで、構ってくれない飼い主にちょっかいをかけてくる猫の様に。
君はミラのつるりとした金属製のボディを撫でながら、わずかに口元をほころばせた。