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5.遊星X015⑤

 ◆


 ミラの声がコックピットに響く。


『調査開始のための準備を行ってください。ケージ、調査スーツの着用をお願いします』


 君はミラの指示に従い、壁面の収納スペースから調査用スーツを取り出した。これはミラが購入したものではなく、開拓事業団の支給品である。今回は予算の都合で小型レーザースライサーと特殊容器(大型)を購入した。


 このスーツは過酷な宇宙環境に対応するために特別に設計されており、宇宙の放射線や極低温から身を守る高性能な素材でできている。見た目はTHE・宇宙服といった所だ。


 スーツの中は自動で体温を調節するシステムが組み込まれており、サイズフリーだ。着用すると腕と足の部分が自動で体のサイズに合わせて調整されるため、外星人か否かを問わない──……というのが一応の売り文句である。


『調査スーツには生体情報をモニタリングし、危険が迫った場合には自動で警告を発する機能が備わっています。また、スーツのヘルメットには多機能ビジョンシステムが装備されており、夜間モードや熱感知モードの切り替えが可能です。ただし、全体的に性能が低く、激しい動きは避けた方が無難でしょう』


 ミラの説明を聞きながら、君はヘルメットを手に取って頭から被った。


『すべての準備が整いましたら、遊星X015の表面への降下を開始します。それではご安全に』


 ・

 ・

 ・


 接近と着陸は速やかに行われた。


 シルヴァーが遊星X015の表面に降り立ち、君はミラを抱えて大地を踏みしめる。

 挿絵(By みてみん)

 大地といっても一般的に考えられる様な土のそれではない。紫と青が混じった色をしており、君はヘルメットの内部で顔をしかめた。


「気持ち悪いなぁ」


 ひいき目に見て、生肉の汚染物質漬けといった所だ。


 ──廃棄区に住んでる連中ってのは、こんな色の……


 君はついグロテスクな事を考えてしまって、いっそう表情を苦いものとした。


 廃棄区は惑星C66の、いわばダストボックスだ。医療廃棄物、放射性廃棄物、もしかしたらお宝も……ありとあらゆるものが捨てられている(第37話 惑星C66、昔の女②参照)。


 ◆


「ええと、仕事内容はこの小型レーザースライサーでこのきっもちわりィ肉をくりぬいて、保存容器に仕舞う……と」


『はい、それを最低でも250㎏分は確保する必要があります。保存容器の重量は計算に含めません。ケージならば問題なく運べるでしょう。ただし、牽引はお勧めしません。遊星X015の低重力下では牽引している物資が容易に浮き上がってしまい、制御が難しくなります』


 ちなみに君の最大牽引力は約70キロニュートン、つまり大体7トンほど重量を牽引することができる。


「分かったよ、というかさ、この……コレは生きてるんだよな?」


 君は恐る恐る尋ねた。


 見れば地面が僅かに動いているのが分かる。


『その通りです。先に説明した通り遊星X015は火星大の生命体であることが確認されています。しかし遊星X015の生態については現時点でほとんど解明されていません。表面の蠕動といった活動は、地球上で言うところの呼吸や消化に相当するのかもしれませんが、その正確な機能や目的は不明です。我々が知る生命の定義に当てはまるかどうかさえも確かめることは困難です。これまでの観測では遊星X015は外部からの刺激に対して何らかの反応を示すことがあるものの、それが意識的なものなのか、単なる反射なのかすら分かっていません』


「結局何もわからないわけね……ところで、このなんていうのかな、肉……お肉? は何に使うんだ? まさか食ったりするのかな。下層居住区(スラム)ではわけのわからない肉が配給されたりするけど……」


 なんだったら君もその肉を口にした事があるため、実際の用途を知りたい様な知りたくない様な、そんな複雑な気持ちがある。


『不明です』


 しかしミラの返答はそっけない。


「冷たいなぁ」


『不明だから不明なのです。惑星開拓事業団は取得した資源の利用方法について情報公開をしていません。また当機の現在の表面温度は摂氏2℃です。表面温度を上昇させる場合、バッテリーを大きく消耗させますが実行致しますか?』


「実行は致しません」


 君は何となく敬語で返事をし、レーザースライサーを構えて手近な、こんもりともりあがった肉の山へと近づいて行った。


 ────────────────-


 ・惑星開拓事業団支給品 "調査スーツ"

 挿絵(By みてみん)

 耐放射線性や耐極低温性には優れているが、あくまでも宇宙服に毛が生えた程度。ロースペックな部分が目立つ。例えば自動体温調節システムはある日、使用者を暖かく保とうとして逆にサウナ状態を作り出すかもしれない。生体情報のモニタリングと危険自動警告機能に至っては、調子が悪いと小さな異常にもピーピーと音を立て、時にはただの屁で警告が鳴ることも。しかし、下級の開拓団員に支給する物品などこの程度のモノで十分である。


 ・"小型レーザースライサー"

 挿絵(By みてみん)

 アルドメリック社製の小型レーザースライサー。コストパフォーマンスの良さで知られている。特に予算に限りがある開拓事業団や個人研究者たちにとっては有用。基本的な切断作業には十分。ただし、耐久性や安定性に若干の疑問符が残る。安かろう悪かろうとまでは言わないが、信頼できる仕事道具とするには余りにチープすぎる。

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最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

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あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
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しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

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魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

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「その追放、本当に正しいですか?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 屁で警告が出ちゃう調査スーツかぁ…ウケる
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