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4.惑星U97③

 ◆


 調査団員には一定の調査量ノルマが課されている。


 これはAIによって適切に配分され、"こいつは気に食わないからクソみたいなノルマを課してやろう"という事にはならない。


 そして君は、この惑星U97でのノルマをあらかた片づけていた。しかし君はどうももう少しだけ仕事をしていきたい気分になっていた。


 というのも、見るもの全てが何だかすごかったからだ。


 そう、"なんだか凄い" のだ。


 惑星C66では訳の分からない竜巻群が上空をぶんぶん飛び回ったりしていることもないし、夜間、ずっと空そのものが生きているかのように黒と赤の不気味な雲がうねり狂っていることもない。


 君は周囲を見渡した。


 よくよく注意してみると、何か青い光がそこかしこから漏れている。君は不思議に思い、もっとよく見ようと考えた。


 すると、君の意志に応じて視界がズームされ、"それ"が見えた。


 "それ"とは樹木である。

挿絵(By みてみん)

 光沢のある銀色の葉を持ち、幹はらせん状に捻じれている。そして、葉全体からは青とも青銀ともつかぬような神秘的な光が漏れ出ていた。


 光はまるでキノコの胞子の様に周囲に拡散している。


「樹…なのかなァ。ちょっと近づいてみるか」


 ・

 ・

 ・


 君は歩を進め、樹に近寄っていく


 実の所、この間も一般成人男性がとてもバランスを崩してしまうような強風が吹いており、気温の低さも相まって、ヤワな者なら普通に凍えて死んでしまうような環境下であった。


 しかし君には風も寒気も関係ない。


 樹の近くまでいくと、君はにへらと微笑んだ。


「おー、キレイだなぁ」


 子供のような感想だが、本当にきれいなモノを見た時、人は案外にも "綺麗だなぁ" 以外の言葉が出てこないのかもしれない。


 君という男は深く物事を考えることはないが、ともかくもその美しさには心から感動していた。


 端末を取り出し、その美しい樹の写真を撮影する。


 光が拡散する様子、らせん状の幹、銀色の葉。


 その時ぶわりと一際強い風が吹いた。


 するとなんと、光の粒子が風に煽られて君を包み込むではないか。


 そう、この粒子は正真正銘"胞子"なのだ。


 しかもかなり質が悪い。


 これらの粒子は実は寄生性の発光胞子だった。

挿絵(By みてみん)

 これらの胞子を取り込むと体内で成長し、やがては目や耳、口などの穴から樹が這い出てくる。


 だが幸いなことに、君のサイバネボディには高度な防衛機構が組み込まれていた。


 異物が体内に侵入すると、体内温度が急速に上昇し、その異物を焼却する。


 この機能により君は樹木の寄生から逃れることができた。


 だがまあしかし、君はその辺りの危険には全くの無頓着である。実際、少なくとも君自身には危険がないのだから仕方ないのだが。ちなみに光も有害だ。この樹木は幻覚を誘起する発光パターンで"獲物"を誘引する。


 勿論君には無害だが。

 なぜならば君の半電脳は電子ドラッグの類を速やかに、そして適切に処理出来る。


 幻覚を誘起する発光パターンなどは脳に届く前に情報を改ざんされ、無害なものになってしまう。君が樹木へ近寄って行った原因は、幻覚によるものではなく君自身の好奇心によるものだ。


 いいねいいね等と言いながら端末を向けて映像データを収集する姿からは、ほほえましい無邪気さすら感じられる。


 君はたかってくる胞子を手に取り、収集用カプセルの中にそれを入れた。本来は手に取る事すら危険なのだが、君のボディはまさに金城鉄壁である。軍用ブラスターでさえ破壊できるか、どうか…。


「ふゥん?これは光じゃなくて、なんだか粉??っぽいんだな…。光る粉か。"ミラージュ"みたいで綺麗じゃねえか…」


 "ミラージュ"とは一時期、君の住んでいた区画で広く流行した幻覚性のヤクだ。暗闇の中で幻想的に光る美しいヤクである。この物質は非常に強力な幻覚作用を持っており、使用者を虚構と現実の間の狭間へと誘う。


 このヤクが人気だった理由は幻覚の方向性だ。

 "ミラージュ"はかなり高い確率で性的な幻覚をひきおこす。


 ただ、当然副作用もある。使用者が幻覚の相手に惚れてしまうのだ。


 さらに、幻覚は耐性がつくと見れなくなってしまう。ゆえに、"ミラージュ"のヘビーユーザーたちは深い失恋感情に苛まれ、自殺してしまう者もいるという。


 君はこのヤクが好きでも嫌いでもなかったが、その見た目だけは嫌いではなかった。君という男は生来、美しいものへ強い興味を引かれる気質がある。


 "ミラージュ"自体を試したこともあるが、ハマり込むことはなかった。


 なぜならば信用できないからだ。


 心のどこかで、常に相手を疑っている。

 たとえそれが理想の女の幻覚であってもだ。


 実の母親から燃えるゴミの日に出された君だからこその猜疑心である。


 母から捨てられた君だ。


 例えそれが自身の好みだからといって、見ず知らずの女に心を許す筈があろうか?


 まあ、多少デレる事はあったとしても。




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