表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/97

35 惑星C66、カスタマイズ

 ◆


 翌日、君は珍しく早起きをしてメーカーのショップへ向かった。


 前回はアロンソと出くわしてしまい、なんだか面倒になってホテルへ引き返したのだ。


 ショッピングモールに到着すると、君はドエムを腕に抱えたまま、メーカーのショップを探し始める。周りは様々な店舗が並び、人々で賑わっている。


 目移りしてしまうがそれでも君の目的は一つ。ドエムのカスタマイズだ。


 目当てのショップを見つけると、君はドアを押し開けて中に入る。店内は静かで、最新の技術がずらりと展示されていた。


 販売員が近づいてきて、「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」と君に尋ねる。


 生身のアースタイプだ。


 この時代は無人販売も珍しくはないのだが、どこもかしこも無人販売で、逆に有人の店がウケる傾向にあった。 "温かみ" を感じる客層を狙っているのだろう。


「ああ、このガイドボットのバッテリー拡張と、翻訳機能の追加を考えているんだ。ジャンキング・ジャンキット社の製品なんだけれど大丈夫だよな?」


 販売員はニコリと笑い、「それならば、こちらへどうぞ」と案内した。


 ただ、目の温度がやや低い。


 ──まあなあ、ジャンキング・ジャンキット社は安売り企業だしな。しかも持ち込んだガイドボットときたら何世代前の製品か分からないときているから仕方ねえか


 君は内心で苦笑しながら、貧乏人扱いを甘んじて受けた。現実として君は余り自由になる金がないのだから当然なのだが。


 生身の体へ戻る為にはバカみたいな額の金が必要だ。余り無駄遣いをしている余裕は無かった。


 オプションの詳細と費用について説明を受けた後、君は頷き、手続きを進める。


 ちなみに取付作業はショップではなく、メーカーに送られて最寄りの作業所などで行われる事になっている。


 ショップの役割は契約を取る事とメーカーと客との仲介だ。


「翻訳機の設定についていくつかご希望を御聞かせください。声の種類や高さ、性別……サンプルなども聴けます」


 販売員はそういって、一枚のタブレットを君に手渡した。


 君はそれを受け取り、「声か……」と考え込む。


 男の声か、女の声か、それとも性別を感じさせない機械的な声がいいのか。


 しかし、最終的には「ドエムが選んでくれよ」とぶんなげた。


 結句、声は少女のものとなった。


 君の趣味ではなく、ドエムの選択によるものだ。


 ◆


「それではお引き取り日時は2日後の正午という事でよろしかったですか?」


 販売員の言葉に君は頷き、僅かな間とはいえドエムと離れる事に少し寂しさを感じる。


 君は別に孤独を好むロンリーウルフというわけではなく、むしろ寂しがりやの部類に属するのだ。生身だった時、恋人がいない時期は独り寝を寂しがる余りに風俗は必ず泊まり込みで予約していた程である。


 セックスに伴う物理的、精神的な生臭さに君は時に辟易とさせられるものの、女体の甘肌が恋しくなることもある。


 泊まり込みとなると勿論金額は跳ね上がるわけだが、そこは小金持ちなどからだまし取った金で十分ペイできる。全く自慢にならない話ではあるが、君には確かな詐欺の才覚があったのだ。


 そんなわけで手続きを終え、販売員からドエムの一時的な預かり証を受け取った後、君はショッピングモールの喧騒を背にしてホテルへと戻る道を歩き始めた。


 帰路につく足取りはセンチメンタル・ウルフのステップを刻んでいる。足跡から哀愁が香るほどに頼りのない歩調だ。


 道中は幸いにも暴漢に絡まれる事はなく、無事にホテルへと辿り着いた。古臭いホテル特有の黴と埃の匂いが君の嗅覚を凌辱しようとするが、しかし直ちにそれらは分解されて無臭化された。


 部屋に戻ると君は寝転がり、煙草を吹かしつつ端末を弄りだす。特に意味も目的もない端末弄りだ。ドエムはおらず、隣室のペイシェンスはどこかに逃亡中で話す相手もいない。


 ──独りきりでこんなモンをいじるくらいなら、チンポでも弄ってたほうがマシだぜ


 君のさみしんぼ根性が精神に孤独の毒を滲ませていく。


「おら、たて!」


 毒に狂った君が下半身に命令を下すと、陽根がむくむくと起き上がり自己主張を始める。


 君の下半身も当然機械化されているのだが、オーダーに応じて臨戦態勢を取る事が可能なのだ。これは君に施されたオペレーションの基本機能の一つである。


 クソの様な機能に思えるかもしれないが、"欲" を満たす事は富裕層にとって非常に重要な事であり、特に性欲についての機能は豊富だったりする。


 しかし肝心の──……


「はあ、何も感じない」


 君は疲れた様に呟き、「萎えろ」と口にだして命令した。するとアレはしおしおとしぼみ、君はなんだかクサクサした気分になって省エネルギーモードへと移行し、動きを停めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
「お手を拝借」

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
「蟲毒のハコ」

― 新着の感想 ―
[気になる点] 気持ちよくないのならそれはもうセンズリじゃないからな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ