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★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)  作者: 埴輪庭


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30.惑星U101⑪

 ◆


 君は無言で指で唇を擦って、まじまじと見てみる。


 指には黒い粒子が付着しており……


 べろりとそれを舐めとった。


 ドエムはビガビガギギギと騒ぎ立てる。


 翻訳するとすれば、「お前何してるの!?」と言った所だろうか。


 だが君はエモを大事にしている男だ。


 それに見栄っ張りでもある。


 謎の黴……いや、女に命を救ってもらった事は確定的に明らかである事だし、そんな女が残していったモノをぺっぺと吐き出すなんてノーサンキューな話であった。


「いいんだよドエム。なんとかなるさ。……ってもなあ、あの女は何だったんだ。いや、あの黒いのだろ?それは分かる。わかるんだけどよ」


 なぜ自分から出てきた!?と言う疑問が君にはあるが、考えても考えても分からない。


「要はくっついてきたんだろう?何でかは知らないけど。それはいいけど、どこに行っちまったんだろうな。チューの後にさ、消えちまっただろ?もしかしてまた俺の体のどこかに潜り込んでいたりするのかね」


 君はツと自分の体に視線を落とすが、何か変化があるようには見えない。


 ドエムからも(りょう)とした答えはない。


「……まあ、もういいか。いいな」


 君は呟き、最後にとばかりに森へ目をくれ、ドエムを抱えてその場を立ち去った。


『知らなければいけない事なら放っておいてもいつかは知る事になる、だから少し考えて分からない事に多くの時間を割く必要はない』──…というのは君の人生哲学だ。


 要するに適当と言う事である。


 ・

 ・

 ・


「次は最後のポイントか」


 君は空を見上げた。


 いつの間にか日が傾いている──…夕暮れだ。


 この星にも雲はある。


 それが君の知る真っ当な雲かどうかは分からないが。


 君は暫し空を見上げたまま固まった。


 故障ではない。


 感動という名の鎖が君の両足を地面に縛り付けている。


 君は無言で空を見上げ続けた。


 水は光を反射する。


 惑星U101──…この星は水の膜で覆われている事から、空にはこの星特有の幻想的な夕焼けが広がっていた。

挿絵(By みてみん)

 それは以前君が見た惑星Pの光夜にも似ている。


 しかし、惑星U101の場合は惑星Pのそれとはまた違って、水膜による光の乱反射の分、空模様の変化に富む。


「おほっ」


 君が気持ち悪い声をあげた。性感帯をジェリー状の触手で刺激された時の様な気味の悪い嬌声だ。


 だが、誰が君を責める事が出来るだろうか。


 それだけ美しい空だったのだ。


 空は見る見る内に様々な色彩が入り混じり、幻想的な景色へと変わっていく。


 夕日のオレンジ、蒼穹の青──…色はめまぐるしく変転し、朝と昼、夕と夜、全ての刻が僅かな間だけ共演した。


 水膜の隙間から垣間見える星々の光に魅せられた君は、感動の余り無意識の内に煙草を取り出す。


 幻想的な光景を肴に一服、二服。


 粗悪な煙草はグロテスクな程健康に悪いが、君の肺はハイスペックなので何の問題もない。


 君は暫し足を止め、周囲を見渡した。

挿絵(By みてみん)

 空からの光で草原が鮮やかに色付いている。


 屈んで一本引き抜こうかと思ったが……


「やめとくか。マナーの悪い観光客みたいだ」


 そう呟き、君は最後のポイントに向かって歩き出した。



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最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
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僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
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ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
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「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

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果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
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「その追放、本当に正しいですか?」

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幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
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ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
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