表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/114

22.惑星U101③

 ◆


 それがどういった種のものであれ、ある種の決断を下した時に "良くないな" と感じる事がある。


 はっきりとした理由は無い。無いが、とにかく "良くない" 気がするのだ。


 人はそれを勘と言ったり、虫の知らせだと言う者もいる。


 つまるところ、君が感じているのはまさにそれであった。


 ちなみに、これは君だけが持つ特殊な感知能力というわけではなく、下層居住区民の多くが備えていたりする。


 それでも不幸な末路率が抜群に高いのは、悲しいかな持たざる者の悲哀といった所であろう。


 ・

 ・

 ・


「よし、ドエム。ちょっと掴まってろよ、走るからさ。おっと手足が無かったな、俺が抱きしめてやるから安心して……え? なぜって? まあ何となくだよ。走る為の理由なんかいらないんだ。アレコレコレソレだから走る、なんてちょっとダメだね。魂が雑魚だ。俺たちに必要なのは理由じゃなくて行動だ。理由は人生を変えない。行動が人生を変える」


 などと君は意味不明の供述をする。


 今すぐ走り出さなければならない合理的な理由が見当たらないため、とりあえず適当にべしゃってみましたという感じだった。


 君は両脚に力を込める。


 そして──……走る、走る、走る。


 時速150kmでひた走る。


 率直な話、君もなぜ自分が走っているのかよくわかっていなかった。


 ただ、なるべく距離を取らないといけないと感じたのだ。


 先程聞こえた轟音の出所から。


 ◆


 だだっ広い草原に異物が見える。


 異物とは船だ。


 ただ、真っ当に着陸したようには見えない。


 宇宙船はかろうじて形を留めている程度だ。船体の一部は焼け焦げ、更には穴もあいており内部の配線や機械部品が裸になっている。


 船体の外壁には深いへこみが出来ていて痛々しい。


 大破とは言わないまでも、これでハイパー・ワープドライブに耐えうるかといえば疑問だった。


 そんな船の前で二人の男女が何やら口論をしていた。すぐ離れた所に腹部に青い血をにじませたグレイタイプの外星人が横たわっている。


 息は荒く、大きな瞳の彼は、医療の知識に疎いものでも一目で重傷だと分かる怪我をしていた。


 しかし口論中の二人は少しも怪我人を顧みようとしない。


 この事故の責任は誰にあるかという今この瞬間、全宇宙を見渡しても稀有な程に下らない口論に夢中の様であった。


「お前のせいだ! 船の整備の手配を忘れてたって、ふざけるんじゃねえぞ!」


 青い肌の男が眼前の女に怒鳴りつける。彼の顔は怒りで真っ青だ。このアースタイプに良く似た顔立ちの男は、ペルリスタイプという種の外星人である。肌の色以外はアースタイプに酷似している。


 対して女は「私のせいだって? あんたこそ糞みたいな操縦で着陸を失敗したってのはどういう了見よ! すぐ物にあたって、AIがおかしくなったのはあんたのせいだろ! 何が以前輸送船の操縦士をやっていた……よ、この間抜け!」


 と反撃している。


 女の方はアースタイプで、赤い髪のはすっぱな女だった。


 年は40に届いているかどうかという所だろう。好意的な言い方をすれば大変ふくよかな体型で、少なくとも身長190cmはあろうかというペルリス人の男と力比べをしても力負けしなさそうな力感がある。


 声は刺々しく、攻撃的だ。ペルリスタイプの男の顔色はますます蒼褪め、空気が張り詰めていく。


 こういった責任の押し付け合いには本当に意味がない。


 責任とは、責任が取れる者が責任を取れる状況になければ意味を為さない代物だからだ。


 然して、伏せるグレイタイプの男は論外として、ペルリスタイプの男とアースタイプの女の双方どちらにも責任は取れないし、取れる状況にもないというのは地の自明であった。


 ちなみにこの三人は別に幼い頃からの幼馴染というわけでもはなく、固い絆で結ばれた仲間というわけでもない。勿論姻戚関係なども一切ない。


 ではどんな関係なのかといえば、それは簡単に言えば "やらかした挙句、カニ漁船に送られた犯罪者グループ" といった所だ。一応は同僚と言える。この様に犯罪組織がその構成員……特に、やらかしてしまった者を惑星開拓事業団に送り込む事が多々あるのだ。


 理由は上がりをせしめる為である。


 事業団の仕事は稼ぎが良い。


 まあ100人の新米事業団員が3年後、10人やそこらになってしまっている死傷率の高さが唯一の欠点だろう。


 だから死ねばそれはそれで制裁になるため良しであり、死ななければ上がりを掠められるからそれもそれで良しだ。


 事業団もその辺の事は把握しているが、駒が増えるというのは良い事なので黙認している。


 つまるところ三人はそういった関係であって、三者の内に友情とか絆とか、そういうきらきらしたものは存在しない。それでも群れるのは、一人より三人で任務に臨んだほうが生還率が高いからだ。当然互いに足を引っ張りあって全滅の憂き目に、なんてことも少なくないが、その確率はといえば一人きりでにっちもさっちも行かずに結局犬死にする確率よりは低い。


 ・

 ・

 ・


「とにかく、このままじゃ帰れねえ。修理するか、替わりの船を調達するか……」


 ペルリスタイプの男が言った。


「修理ィ? そんなもの出来るわけないでしょ、調達しかないわ。この星の調査に来ているのは私たちだけじゃないはずよ。他の連中だって来ているはず。そいつらを見つけて乗せてもらいましょうよ」


「乗せるのを嫌がったら?」


「そんなもの、決まってるじゃないの」


 腰元のホルスターに収めたブラスターをぽんと叩いてアースタイプの女が嗤った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
「お手を拝借」

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
「蟲毒のハコ」

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ