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★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)  作者: 埴輪庭


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15.惑星K42⑤(了)

 ◆


 君はドMを膝に置き、その丸い金属球ボディを何か妙な手付きで撫でまわしながら星々の大海に目を向けていた。ここは船、"棺桶号"の操縦席だ。君はすでに帰路についている。


 調査の成果はろくにない。精々が数握の黒黴だけ…


 成果はろくにないが、ドエムがいう所では "まぁこんなもんです" との事なので君は特に心配してはいなかった。


 一応努力はしたのだ。


 だがあれから君はあちらこちらを走り回るも、黒黴は君の目の前には姿を見せようとはしなかった。


 ──礼だっていうなら逃げたりせずに、がっつり俺にとっ捕まってくれよな


 そんな事を思いながら、散文的な様子で窓の外を見ていると…


「……お?」


 特に何を見つけようとしていたわけではないが、君は暗黒の虚空の果てに何か光るものを見つけた。一つではない、複数の光点がゆらゆらと揺れ動いている。星ではないし、宇宙船でもない。


「星じゃあないなあ、距離もちょっと遠すぎるか…」


 君がボヤくと、そのボヤキに応じる様に膝元からギゴゴガビガビガという不協和音が響く。


 ドエムが"自分に見せろ"と言うのだ。


 だから君はハイハイとドエムボディを持ち上げ、窓の外を見せてやった。ドエムのキュートなモノアイはちょっとした天体望遠鏡顔負けの倍率を誇るのだ。ドエムは格安ガイドボットだが、惑星の環境調査に必要な最低限の能力は備えている。


 これがもっと高級なモデルとなると戦闘能力を備えていたり、変形し、飛行ユニットとして活用出来たりもするが、ドエムは調査・解析しか出来ない。


 当初君は金にモノを言わせた金満ロボットを…と思っていたのだが、今ではこのままでいいかななどと思っている。金の問題もあるのだが、人とかけ離れた容姿だからこそ上手くやっていけるんじゃないかという思いもあるのだ。


 はっきり言語化できているわけではないが、生来のかんぐり屋である君は、理解をしよう、理解をしてもらおうという気持ちそれ自体が不和の始まりではないかとうっすら考えている。


 ──お袋は俺に遺伝病がある事を"理解"しようとして、できなかった。だから捨てられたんだ


 いつだったか、君は雨の日にそんな事を思いながら安酒を呑んでいたものだった。


 ハナから自分とは違う、だから理解なんてそもそもしようとは思わない。


 素のままキのままでいいではないか、それで合わなければそれまでの話。理解も期待も、自分の理想の押し付けに過ぎないのだ…などという、どこか斜に構えた考えを君は持っている。


 ・

 ・

 ・


 ギギャギャギャギャというような聞くに堪えない音が鳴り響くが、その不協和音は君の


『縺上r縺翫%縺ェ縺?◆繧↑↑』


「はあ、宇宙クラゲ?初めてみるなあ。なんでクラゲが宇宙で生きていけるんだろうな…」


 宇宙クラゲという文学的センスが失調している者が名付けたとしか思えないソレは、恒星間生物の一種だ。


 宇宙空間を海と見立てて漂う生物である。


 彼らの体は透明でゼリー状の質感を持ち、太陽光を受けると幻想的な光を放つ。この生物は大きさに幅があり、小さなものは数メートル、大きなものは惑星大の個体も存在する。


 彼らは恒星間をゆっくりと漂いながら生きており、特に方向性を持たずに動くことが多い。


 宇宙クラゲは主に宇宙線や微細な宇宙塵をエネルギー源として利用していると考えられているが、詳しい事は何もわかっていない。


 これを捕え調べた者もいるのだが、何もわからないのだ。


 分かった事はただ一つ、この生物の肉体組成は普通のクラゲに過ぎないということだ。


 それでなぜ宇宙空間で生存できるか…それは謎である。


「お偉い学者サン連中も色々調べてるらしいけど、分からない事が多すぎて結局放置気味らしいね。なあドエムはどう思う?ああいう妙な生き物はなんなんだろうな」


 君は赤子を持ち上げるようにドエムを持ち上げて尋ねる。


 ドエムがギギゴベゴベゴと答えた。


 これは共通言語に翻訳すれば「さぁ」と言ったところか。


 君はアッソウ…と適当に答えてのんびりとクラゲと思しき光点の群れを見つめ続けた。


 ──クラゲって脳がないんだっけか。じゃああれだけ集まってても誰が誰だか分かってないんだろうな。何となく集まってなんとなく宇宙を泳いでいるわけか


 君はフッと僅かに笑う。


 その何とも頼りないふわふわした生き方と比べて、自分のそれ…というより人のそれは果たしてどうなのか、と思ったのだ。


 上等なオツムを持ちながら宇宙のあちらこちらで陰謀だかなんだかをアレして、そこから生まれる幸福の総量と不幸の総量を比べれば後者のほうがやや上なのではないか?


 君は柄にもなくそんな事を思う。


「あ~、くらげになりてぇー。色々面倒くせえよ、な、ドエム。適当に生きてるだけじゃだめか?」


『縺吶°』


 これを翻訳するなら、"だめかも" と言った所だろう。


 ◆


 宇宙は広大で謎だらけで綺麗なモノが沢山あるが、危険なモノも沢山ある。


 君がはるか遠くに見遣った光点は宇宙クラゲの群れである事に間違いはないが、この幻想的な生物は単一種ではない。


 一般的なクラゲに有害なものと無害なものがあるように、宇宙クラゲにも有害なものと無害なものがあるのだ。


 君が見つけた群れは前者である。


 別名を "船喰い" と呼ばれるこのクラゲは催眠作用のある光を発して、獲物を引き寄せる。

 挿絵(By みてみん)

 その後まんまと寄ってきた宇宙船を取り込む様にまとわりつき、外装を融解させ、船ごと捕食してしまう。


 君も生身ならばこの魔の誘引から逃れる事はできなかっただろうが…今の君にはこの手の精神汚染は通用しない。少なくとも生物由来の催眠発光などは情報として君の目に飛び込んできた瞬間に解析・分析され、無害なものにバラされてしまう。


 君のこの機能は惑星U97…小竜巻が群れをなし、夜間は美しくも恐ろしい寄生樹がそこかしこで胞子を飛ばす最悪な星でも役に立ったが、元はと言えばハニートラップ対策の為のデフォルト機能である。


 権力者の類に差し向けられる超高級セクサロイドはその実践的な技術もさるものながら、薬物や特定の発光パターンその他諸々でインスタントにたぶらかそうとしてくる事もあるのだ。催眠・洗脳対策は権力者の義務とも言える。


 君に施された術式は精神面での致命的な欠陥が無ければ、いわゆる富裕層、支配者層へ施される


「やっぱり遠いなあ、なあドM、写真撮れる?見れるんだろう?俺にはちょっと遠すぎて眼を凝らしても見れないけどさ。もし写真撮れるなら頼むよ、記念にね。パシャってさ。ほら、ぱしゃ~ってさ」


 君がドエムにいうと、ドエムはギャギャギャギャと応じる。


 ぱしゃり。

挿絵(By みてみん)


 シャッター音は君が口で言った。


あっさり目ですけど、黴惑星はおしまいです。

ブクマ、評価してくれてる人ありがとうございまーす。

ブクマしてくれてて評価はまだしてないって人もありがとうございまーす。

両方してくれてない人は…ありがとうございません!嘘です、ありがとうございまーす。

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最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
「お手を拝借」

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
「蟲毒のハコ」

― 新着の感想 ―
[一言] 「宇宙○○」って表現にはノスタルジーを刺激されますなぁ 
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