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★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)  作者: 埴輪庭


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20.毒も滴るいい男②

 ◆


「やあ、お前がケージかい?」


 そんな問いかけに君は──


「俺か? 俺はジョンだ。ケージなんてキレ味のある名前のイケメンは知らねえな」


 そう、心底面倒くさそうな顔でそう答えた。


 初対面の相手に「お前」呼ばわりされるのは気分が悪い。


 だがそれ以上にこの優男から漂う雰囲気が君の警戒心を刺激していた。


 こいつは関わってはいけない類の人間だ──君の勘がそう告げている。


 だから君はとぼけることにしたのだ。だがその試みはあっさりと打ち砕かれた。青年──ローレンは一瞬目を丸くしたがすぐに口元に皮肉な笑みを浮かべた。そして携帯端末を取り出して宙に向ける。


 するとホログラムが現れ君の顔写真が投影された。


 その横には個人情報が表示されている。


 氏名、年齢、犯罪歴、そして現在の所属。


 惑星開拓事業団ランクC団員。


 ご丁寧に全身サイバネティクス化済みという注釈までついている。


 君は肩をすくめてローレンを見た。


「で、俺に何の用だい?」


 君は尋ねた。


 “お前は誰だ? ”とは尋ねなかった。


 あえて尋ねなかったのだ。


 相手の素性を知らないでいれば、仮に粗相をしたとしてもセーフラインはぐっと下がると見込んでいる。


「知らなかったんです、すみません」で済む話も相手が誰かを知っていればそうはいかない。


 まあ下層居住区ならではのテクニックだ。応用版として問答無用に殺してしまうというものもある。死人に口なしというわけだ。ただ単なる非礼ならともかく、殺害となれば相手の素性を知らなかったとしても罪が不問になる可能性は低いため、余り実用的ではない。


 ローレンは君のそんな思惑を見透かしたかのように笑みを深めた。


「単に顔を見ておこうと思っただけさ。随分と面白い奴の様だから」


「はあ、そりゃどうも」


 君は気のない返事をした。


 面白い奴。


 それは上流階級の人間が下層の人間を見下す時に使う常套句だ。


「お前、随分大した依頼をこなしてきてるじゃないか。身の程を知らないのか、それとも──」


 ローレンが何かを言いかけたその時だった。


「身の程なら知っているぜ!」


 君はローレンの言葉に被せるように堂々と宣言した。


 その声はフロアの喧騒の中でもよく通った。


 君はここで作戦を変更したのだ。


 この男はどう見ても面倒くさそうな奴だ。


 ならばこちらも面倒くさい奴を演じて煙に巻いてやろうと思ったのである。


 君は一息でまくし立てた。


「俺はな、ギャンブルがやめられなくて賭けちゃいけないものまでかけたド低能さ。物を盗んだ事も人をだました事も、人を殺した事もある。あと浮気した事もあるぜ。それも一度や二度じゃない。数え切れないくらいだ。はっきりいっちまえば死んだほうがマシのゴミだね。死んだ方が良いやつなんていない──なんて言うなよな。そんな綺麗事は聞き飽きた。マジで世の中には死んだ方が良い奴もいるんだ。俺を筆頭にな。おい、あんた。人の命は平等って言葉があるだろ? ほら、人権保護団体がよく言うあれだ。あの胡散臭い連中がプラカードに書いてるやつ。あれって本当の事だと思うか? 実は俺は本当の事だっておもってるんだ。俺の命もあんたの命も、このカジノに遊びにきているVIP連中の命も、価値は皆平等だ。そう、基本価格は同じなんだよ。ただそこに金をもってるとか(ツラ)がいいとか頭がいいとかよ、付加価値がついてくる。オプションみてえなもんだ。例えばあんたは面がいい。だからあんたの命の価値は俺のそれよりも高い。それは認めよう。だがそれはあくまでも付加価値だ。本質的な価値は変わらない。俺たちはみんな等しくクソッタレで、いつかはくたばる肉の塊だ。そう思わないか? 俺は自分の身の程を完璧に理解している。だからこそ俺は俺の好きなように生きるんだ。誰の指図も受けねえ。それが俺の生き様だ。文句あるか?」


 君はそこまで言ってようやく息をつき、ローレンの方をチラと見る。どうやらローレンは圧倒されているようだった。


 整った顔が僅かに引き攣っている。


 まあドン引きしていると言い換えてもいいかもしれないが。


 無理もない。初対面の相手にいきなりこんな演説をされたのだから。ちなみに君がべしゃった長文については即興で考えたもので、君自身も自分が話した事の内容をよくわかっていない。まあこういういうのは勢いが大事なのだ。


 そんな君はダメ押しとばかりにずいと一歩ローレンに近づき、耳元で囁いた。


「そういえばあんた、随分とキレイな顔してるじゃねえか」


 そんな事をいいながら自分の唇をべろりと舐めまわす。


 これも策の一つである。


 “やべー奴”を装うシンプルな作戦だがシンプルゆえに堅実な効果がある。


 相手に性的嫌悪感を抱かせ自分から遠ざけようという魂胆である。


 これでこいつも俺に関わるのが嫌になるだろう。


 君はそう確信していた。


 だが──


「ふうん、お前、そっちもイけたのか。ならちょっと試してみるかい?」


 困惑から立ち直ったローレンがそう言った。


 そして彼の細い指が君の股間をさらりと撫でた。


 その手つきは滑らかで躊躇がなかった。


 ──え? 


 君は一瞬何が起こったのか分からなかった。


 まさか逆撃を喰らうとは思っていなかったのだ。


 君のサイバネボディは性的な快感を感じることはない。


 だが触られたという事実は認識できる。


 そしてその事実に君の脳は激しく混乱した。


「ひえっ」


 君は情けない声を上げて飛び退いた。


 その動きはまるで驚いた猫のようだった。


「ちょ、調子にのっちまってすまん。俺はノーマルなんだ……いや、本当にすまん……」


 君は狼狽えながら必死に謝罪した。


 先ほどまでの威勢はどこへやら。


 完全に形勢逆転である。


 ローレンはそんな君の様子を見てクスクスと笑った。


 相手の方が一枚上手だった事を認めた君は、作戦を変更した。


 ドン引きさせて敬遠させるという作戦は捨てる。


「で、挨拶だけしたかったって感じらしいが、あんたはそもそも誰なんだ?」


 ここで初めて君はローレンの素性を聞いた。次なる作戦はこれ──まあ普通に対応しようとおもったわけだ。


 遅きに失した感は否めないが聞かないよりはマシだろう。


 ローレンは依然として笑みを浮かべたまま答えた。


「僕はローレン・ナイツ。惑星開拓事業団、惑星C66管理局の幹部職員だ」


 その言葉に君は息を呑んだ。


 幹部職員。


 それはつまり君の雇い主ということだ。


 そしてこの惑星C66において絶大な権力を持つ存在でもある。


 ──やっちまったな


 君は内心で頭を抱えた。


 額に冷や汗が滲んだ……様な気がした。高性能なサイバネボディが冷や汗をかくなどということはあり得ないはずだが、君は確かにそれを感じたのだった。

ローレンいめージ

挿絵(By みてみん)

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最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
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「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
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幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
「蟲毒のハコ」

― 新着の感想 ―
こんなんBLゲーのパーフェクトコミュニケーションやん
ケージ相手からしたら面白い男すぎるだろ
草草草の草
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