1. マルガレーテ侯爵令嬢視点
「マルガレーテ・オルブリヒ侯爵令嬢、君との婚約を破棄する」
ベルンハルト第一王子が学園の卒業パーティで宣言した。
ベルンハルト第一王子は金髪碧眼のイケメンで成績優秀、学園の生徒会長もしていて、私の婚約者だ。
そして私はオルブリヒ侯爵の娘だ。12歳の時に殿下の婚約者に決められた。
私の国では庶民あたりは自由恋愛もしているようだが、貴族や有力者の結婚はほとんど親に決められた婚約による。
そして上級貴族となれば悪い虫がつかないように子どものうちに婚約者が決められる。私たちは遅いくらいだ。
だいたい王子妃ならば家庭教師をつけた専用の教育も必要になり、数年単位の準備期間が必要となる。
私も王子妃としての教育を受け、貴族の子弟が半ば以上の学園をきょう卒業する。
婚約破棄について心当たりがある。殿下は2年生になったときから、その年に入学した女子生徒とやたらに親しくなった。
女子生徒の名前はローゼ・シュターデン。平民ながら成績優秀で入学したとのことだ。
やや痩せぎすの短髪で、運動神経がいい。貴族のふつうの好みは子どもを産むのに適した豊満な体で、私もかなり胸は大きいと思う。
そういう女性にばかり囲まれて、殿下は変わった者を求めているのかと疑った。
ローゼは入学すると、あっという間に殿下に近づき、そして殿下のそばに都度都度いるようになった。
ときどき殿下にこっそり耳打ちすると殿下はうなづき、殿下もローゼにこっそり耳打ちしている。
しかもたまにふといなくなって2人で人目につかないところで落ち合っているようだ。
小さな紙片をこっそり王子に渡していたのを目にしたこともある。あんなことは私相手にも全くしたことはない。
真偽はわからないが王宮でもローゼらしき人物を見かけたとの話まである。私でも自由に出入りできるわけではないのに。
あまりの特別扱いに私はどんどん不安になり、王子に問い詰めたこともある。
王子は考え過ぎだとうるさそうにしているし、ローゼも友人の一人に過ぎませんと否定している。
私の友人は王子とローゼは特別な関係にあるとは思えないと言っているが、それは王子が自分とは関係ないと思っているからだろう。
婚約者である私から見れば、2人の関係は異常だ。どう見てもただの友人とは思えない。
まったくあの王子の女好きには困ったものだ。私の前にもどこぞの伯爵令嬢に入れ込んでいたことを父から聞いたことがある。
さすがに私との婚約できちんと片付けられたらしいが、王太子になろうという一国の王子がそれでいいのか。
私の方は未来を見据えて異性・同性問わず、そして爵位や身分にかかわらず多くの生徒と交流している。これも我々夫婦と国の将来を見据えてのことだ。
それを殿下の方は身元もよくわからない一平民に入れ込んで、そういった交流をないがしろにしている。
私たちの婚約は確かに私の父である侯爵が主導したものだが、多くの貴族家からの支持を受けたものである。
それを殿下の一存で破棄するなど許されるのだろうか。これはあるいは廃嫡にもつながるのではないだろうか。
一時の気の迷いで、殿下の人生を決めてしまっていいはずはない。
「殿下、婚約は家と家の契約です。しかも王家の婚約となれば国家の未来にもかかわることです。殿下の一存で決めていいものではありません。
もし強引に押し通せば廃嫡ともなりかねません。悪いことは申しません。今すぐにご冗談であったとおっしゃってください」
わたしは冷静に指摘する。これで目が覚めてくれればいいのだが。