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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第六章 ラヴレターの修正
8/50

第58話 土曜日もデート

毎日1話 午前3時投稿

 昨夜帰宅してから、ゆっくりとお風呂に入り、テレビも観ないでボーっと過ごした。

 いつの間にか寝てしまったのは、思ったより疲れていたのかも知れない。気疲れだと思う。楽しかったのは間違いないのだけれど、彼と――もう『彼』と呼んでもいいよね――二人きりで食事したのだから気付かないまま緊張していたはず。初めてのデートだもの緊張して当たり前。


 交際記念日。一昨日、何気なくそんな言葉を口にしたのだが、本当に、昨日がそのスタートの日だ。楽しかった。

 私は、この年齢になるまで、男性との交際なんて考えたこともなかった。それが突然、妻帯者との不倫(まが)いの交際だなんて、自分でも驚いている。

 切っ掛けは彼からの突然のアプローチだったが、結心さんと天野さんの熱愛モードが刺激になったのも大きい。羨ましかったのだ。


 でも、もう今となってはそんな経緯なんか関係ない。彼も真剣に私を愛してくれているみたいだし、誠実に対応してくれている。私としても自分の思うような条件で恋愛できるのだから、こんな幸運はないと思っている。更に、昨日のデートを通して呼び方や言葉遣いなど堅苦しさが段々に減ってきて、デートがこんなに楽しいのかと一大発見をしたような気持ちだ。


 結心さんたちのように一気に燃え上がる恋愛もあるだろうが、私のようにじっくりと愛を温めていくのも有りだと思う。寧ろ、私にとっては、これが最善のパターンだろう。昨夜も、「先生」ではなく「さん」と呼ぶだけで親近感がぐっと高まったし、かなりフランクな言葉で話をするようになって、本当に彼を身近に感じることができた。


 でも、まだ彼のことをあまりよくは知らないのだから、何度かお茶を飲みながら話をしたりしてみるべきだ。そうすれば、もっと親しくなれるし、もっと好きになれると思う。ここまで書いたところで、電話が鳴った。彼からの電話だった。


「昨日はありがとうございました。今、電話いいですか?」

「はい、大丈夫です。こちらこそ、昨夜はご馳走になりありがとうございました」

「昨夜は、詩織さんとゆっくりお話しできて嬉しかったです。凄く身近に感じることができました」

「私も、凄く近藤さんが身近になりました。今も、昨夜のことを考えながらボーっとしてました」


「今、大学に来ているのですけどね。詩織さんのことを考えてしまって仕事が手に付かないから、電話してしまいました」

「あら、嬉しいですけど、お仕事大丈夫ですか?」

「仕事は大丈夫です。これからでも会えないかなぁと思ったりしてるんです」

「あ、本当ですか? 私も会いたいです。どこかでお茶でもしますか?」

「そちらへ車でお迎えに行きます。ここから30分も掛からないと思います」

「今から30分後でいいですか? 着くころになったら電話下さったら、出ていきます」

「じゃ、のちほど」


 急いで、乾いていた洗濯物をしまい、部屋の片付けをしてから髪を整え化粧して服を着替えて彼を待つ。30分なんてあっという間だ。

 電話が鳴ったので、昨夜降ろして貰った辺りで待つように言って、部屋を出た。


 今日は休日なので、彼はラフな格好をしていた。そんな姿も新鮮に思える。私も、今日は少しラフな格好だし、ちょうど良かった。

「すみませんねぇ。突然電話して誘い出してしまって」

「いえ、私も会いたかったから、嬉しい。……って、喋り方が元に戻ってるわよ」

「あはは、まあ徐々に慣れるしかない。今日は、昨日と反対方向のブルーハイウェイで行きます」

「どこかに行くというよりも、ゆっくりお話できたら、どこでもいいわ」

 

 途中、サービスエリアみたいなところがあって、そこの喫茶店に入った。客は(まば)らだったから静かで、ゆっくり話ができた。


「今度は、僕の環境も話しておきますね」

「はい」

「僕は広島市で生まれて、岡山大学に入学して岡山に来ました。大学院で博士号を取得。僕の両親も詩織さんと同じくもう他界しています。兄が広島に一人います。妻と子供二人です。どちらも男で現在東京と大阪の大学に行っています」

「大学生が二人だと仕送りが大変ですね」

「まあ、アルバイトしてくれてるから何とか大丈夫」


「話は変わるけど、ランニングしてるって言ってたよね? ジョギングとは違うの?」

「まあ、僕のはジョギングみたいなもので、4㎞くらいしか走らないから」

「へぇ~、それって何分くらいで走るの?」

「大体30分くらいかなぁ」

「毎日走ってるの? 雨の日は別にして」

「ときどきサボってる」

「人間らしくていいわ。私は走れない」と私は笑った。


「4㎞って言っても、実際は2㎞を往復だから大して走った感じはしないよ。ほんの近場をジョギングという感じ」

「マラソン大会なんかには出ないの?」

「出ない出ない! あのねぇ、距離も速度も全く別物。マラソンと比べたら、僕のは近所を散歩したみたいなもの」

「あはは、そうなんだ。……考えてみたらそうだよねぇ。2㎞って言ったら、自宅から会社までが2㎞以下だったら通勤定期代貰えない位の距離よね」

「そうそう。2㎞は歩いて20分程度?」


「でも、4㎞でも良い運動になるよね?」

「最低限の運動量だと思ってやってる」

「えらいエライ」

「何か、馬鹿にされてない?」

「してないよ。だって、私は走れないもの」

 お互いに見つめ合って笑った。こういう何気ない会話が楽しい。


「食べ物は好き嫌いないの?」

 別に作ってあげるわけじゃないけどね。

「殆どないと思うけど、嫌いなものでも食べるからね」

「その嫌いなものってなぁに?」

「嫌いじゃないけど、お芋はそれほど好きじゃない」

「女性はお芋好きな人が多いわよね」

「出されたら食べるよ」


「好きな食べ物は?」

「肉とか刺身かなぁ。お寿司も好き」

「私は、豚カツとかも好き。ビフテキも好きよ。昨日の美味しかったわ」

「僕も、豚カツもビフテキも好き」

「ラーメン・焼肉・お好み焼き・カレーライス、まあ、これらを嫌いな人は少ないわよねぇ」


「あ、帰りに日生(ひなせ)漁港でお刺身定食みたいなのを食べていく? ここから近いよ」

「いいわね。うん、そうしましょ。って、私、連日ご馳走食べてると太りそう」

「詩織さんは細いから大丈夫」

「近藤さんと交際すると太るからって、断るかもよ」

「え? そういうの止めてくれませんか?」

「あはは」と二人でまた笑った。


 そんな他愛もない話をしながら、一日が平和に過ぎていく。こんな風にお休みを過ごしたことがないから、大袈裟だけど、生きていて良かった。

 結心さんが、いつも楽しそうにしている理由が分かったわ。これだったのね。私も、もっと早くに彼氏を作っておけば良かったわ。


 喫茶店を出て、またブルーハイウェイに乗って海を渡った。地道に降りて暫く走ると漁港の街。あちこちにお好み焼き店や割烹などがある。ちょっと小奇麗な小料理屋さんの駐車場に車を止めた。

「寿司、握り寿司、刺身定食どれがいい?」

「全部満たしてくれるのは、握り寿司じゃない?」

 と私が言うと「確かに!」と彼は言って、握り寿司二人前を注文した。流石、漁港にあるお店。凄く美味しかった。


 結構遠くまでドライヴしてきたのだけれど、二人で話をしながらだからあっと言う間にマンションの前に戻ってしまった。

「家で、お茶飲んでいきます?」

「いいんですか?」

「裏に来客駐車場があるからどこでもいい。〇△□号室よ。私は先に上がってるわね」

「はい。車を置いて行きます」



読んで頂きましてありがとうございます。


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