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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第六章 ラヴレターの修正
7/50

第57話 初めてのデート

毎日1話 午前3時投稿

 金曜日夕方。今日は初デートの日。

 昨日近藤先生が帰る時に、学生たちや職員に知られ難いと思われる待ち合わせ場所を書いた地図を渡してくれた。

 人目に付きにくい場所があるなんて思いもしなかった。約束の時間に行くと先生の車はもう到着していたので、直ぐに助手席に乗る。

 念のため、私はマスクをして顔が分かり難いようにしておいた。マスクをこんな風に利用するなんて、犯罪者じゃないのにと思った。


「お待たせしました?」

「いえ、ちょっと前ですから。まあ車に乗ったままですから、仮に待っても問題ありません」

「こんな場所を探せるなんて、先生ベテランみたいですねぇ」

「いやいや、前から、こうなった時にどこがいいかと探していたのです」

「流石、用意周到ですねぇ。それで、遠い所なんですか?」

「いや、遠くはないですけど。でもバイパスの方に向かいます」


「こうして、初めて男性とデートで二人だけでなんて、ちょっと緊張してます」

 私は、そう正直に言った。

「いや、私こそ凄く緊張しています。何しろ、憧れの矢野先生との初デートですから」

「そんな、憧れなんて言わないでください。私、中学生レベルの経験値なんですから」

「まあ、お互いに違う種類の緊張ということですよねぇ」

 近藤先生が、面白い言い方をした。あちらは憧れだけど、私は初心者ということか。確かに違うわね。


「先生、緊張しているところに、こうしてお話していて大丈夫ですか?」

「大丈夫です。寧ろ、運転しているから、矢野先生に対する緊張が少し和らぐくらいです」

「じゃ、良かったです。ところで、先生、こうしてお付き合いするなら、先生と言うのは変ですよねぇ?」

「あ、確かにそうですね。こうした喋り方も堅苦しいですよねぇ」

「そうですよね。今から、変えませんか?」

「はい! でも、今は頭が緊張と運転で一杯ですので、考えられません」


「あはは、じゃ、私が一方的に話しますね。こうして二人のときは『さん』ですかね?」

「確かに。学校関係の方がいるときは今までどおりで」

「そうですよね。近藤さん、矢野さんでいいですか?」

「はい。矢野さんの他に詩織さんはだめですか?」

「ああ、院生たちの一部は詩織先生と呼んでますねぇ。詩織さんでもいいですよ。近藤さん」

「何か、ちょっと恥ずかしい感じですねぇ。近藤さんは普通なのに。学校で先生に慣れてるからですよね。詩織さん」

「本当だ。何か近藤さんに詩織さんと言われると少し恥ずかしい感じですねぇ」


 何だか、高校生の会話みたい。恋愛って、若返るのね。

 

「でも、直ぐに慣れると思いますから、今から変更しましょう。ときどき失敗するのは愛嬌で」

 近藤さんは、直ぐに乗り気になって変更した。

「寧ろ、学校で間違えるほうが怖いかも知れないですけどね」

 私が変更を言い出したのに、学校での失敗を心配するなんて、変な私。

「大丈夫ですよ。『さん』で呼ぶのは世間では普通ですから、間違えても知らん顔でいいと思います」

「そうですね」

 私も、そんな細かい心配は止めよう。


 そんな話をしながら、車はバイパスを走っている。車はかなり多いのだが、それなりに流れているので渋滞のような感じではなかった。

「結構、車が多いですねぇ」

「そうですね。この時間帯は、どこを走っても混んでますよ。通勤時間帯なんでしょうね」

「なるほど、そういうことなんですね」


 暫く走ると、ウインカーを左に出して車は坂道を登り始めた。ちょっとした丘に上がると広い駐車場があり、空いた駐車枠に停止した。

 大きな建物で篝火(かがりび)が燃えていて、ちょっと幻想的なレストラン。石段を上がって大きなドアを入るとウェイターさんが迎えてくれた。

「予約している近藤です」と彼が言うと、「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」と言いながら席に案内してくれる。


 グランドピアノからシックな音楽が流れてくる。レンガ造りの壁面が高級感を醸し出していて、明る過ぎず暗過ぎず、落ち着いた佇まいの店内だ。

 座席と座席の感覚も結構広めになっているので、隣の会話が聞こえ難いと思うから、ゆっくりと静かに話ができそう。

「車ですのでお酒は要りません。最後はコーヒーで。詩織さん、パンとご飯のどちらにしますか?」

「パンで」と言うと、ウエイターが「(かしこ)まりました」と言って下がっていった。

 予約時に予め注文をしていたのだろう。ここはステーキハウスだから、まあ、そんなにメニューを見て悩むこともないだろうけど。


「近藤さんは、よくこういうお店に来られるのですか?」

「いや、滅多に来ません。ここは初めてです」と言って苦笑いをしていた。

「それでね、さっき車の中で話してた続きなんですけど」

 私は、もう1つ気になっている点を、最初に済ませておきたかった。


「話し方が堅いですから、二人だけの時はもう少し気楽にしませんか?」

「私もそう思っているのですが、詩織さんと話すと、どうしても緊張してフランクに話せないのです」

「まだ緊張しているのですか?」

「う~ん、緊張しているのかすらも、よく分からないのです」


 スープが運ばれてきた。フランス料理のフルコースじゃないから、この後は、直ぐにメインディッシュになるのだろう。


「あのね、いわゆる友達トークでいいんじゃない? こんなふうに。私は岡山弁をあまり使わないけど」

「同い年の積もりで話せばいいのね?」

「やだ! 私のほうが若いのよ」

「いやいや、大して変わらないじゃない」

「3つも違えば大きいの」


 私が抗議すると、近藤さんは反論してきた。


「で、その差が言葉にどう反映するの?」

「あれ? そうね。……だから、同い年って言うから変になったんじゃない」

「じゃ、対等な立場の言葉遣い、ということで」

「うん、それなら宜しい」

「あはは」と二人で声を出して笑った。何か楽しい。二人で笑ったのも初めて。

「こんな感じの言葉でいいよね。気楽で楽しい」

 私はニコニコ顔。


 ステーキがやってきた。400gくらいので結構大きい。

「ちょっと私には大きいかも知れないわねぇ」

「残ったら、僕が食べますよ」

「あら、それが狙いだった?」

「いやいや、そんな狙いなんて……。足りなかったらいけないと思ったので」

「か弱い乙女だから、少食なの。最初に少し切り取って、近藤さんにあげるわ」

「じゃ、多過ぎる量だけ切り取って、僕のお皿に」

「……はい、たくさん食べてね。……こうしていると、傍目には恋人同士か夫婦同士に見えてるのかなぁ?」

「誰も気にしてないと思うけど……」

 近藤さんはあくまで真面目。


「ところで、今後の連絡方法だけど」

 近藤さんが話を切り替えてきた。

「あ、私の自宅の電話番号ね?」

「いいの?」

「いいわよ。……携帯電話に直接登録するの?」

「はい。ちょっと待ってください。……矢野先生と入力したから、この下に電話番号を打ち込んでくれる?」

「私が入れるの?」

「メモしてくれたら僕が入れるけど……」

 食べながら、こんな話もした。学校では内線電話がある。

 

 食後のコーヒーを飲んだあとも、ゆっくりとたくさん話をした。帰りは喫茶店にも寄らずに、真っ直ぐマンションの前まで送って貰った。


「今日はご馳走様でした。初めてのデート、凄く楽しかった。また誘ってくださいね。ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました。僕も楽しかったです。またお願いします」



読んで頂きましてありがとうございます。


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