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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第六章 ラヴレターの修正
6/50

第56話 ラヴレターへの正式な回答

毎日1話 午前3時投稿

 木曜日の夕方。

 もう院生たちも帰って誰もいなくなった研究室。その隣の教授室で私は近藤先生がやってくるのを待っていた。

 コンコンとノックされたので、「は~い! 開いてますよ! どうぞ!」と返事したら、近藤先生がのそっと入ってきた。


「こんばんは。お邪魔します」

「どうぞ! コーヒー淹れますね。どうぞお座りください」

「ありがとうございます。失礼します」

 近藤先生は、少しびくびくしながら座った。

 コーヒーを出してから、私も向かいに座って、ゆっくりと話始めた。


「一昨日は、手紙というか誓約書を有り難うございました」

「いえ、あんな形で良かったでしょうか? どんな風に書いたらいいのか分からなかったので」

「たくさん約束事を書いて下さって、先生の人となりが分かったような気がして、私としては安心できました」

「そう言って頂けて嬉しいです」

 近藤先生はまた汗を拭った。汗かきなんだろうか?


「お返事の前に、少し私のことをお話させてくださいね。そして、誓約書のことについても確認させてください」

「はい」


「私の両親は大分前に亡くなっていまして、今は1つ上の姉と二人だけなんです」

「ああ、そうなんですか? お姉さまと一緒に暮らしておられるのですか?」

「いえ、姉は近くに家を新築して一人で暮らしています。私と同じように独身です。私は、マンションで一人暮らしです」

「なるほど、最近はそういう感じが多いですよね」


「父は早くに亡くなりましたが、母は病気がちで10年ほど前に亡くなりましてね、その頃はみんな一緒に住んでたのですよ」

「それは、少し寂しくなりませんでしたか?」

「私は、それほど感じなかったので、私が先に独立したのです」

「自由を求めて、ですか?」

「そうです! 生活のペースが違うので」

「そうなんですね。その気持ちはよく分かります」


「姉は県立普通科の進学高校に進み国立大学を出て、現在、独立行政法人の関連施設で研究者をしています」

「凄いですねぇ」

「私は、付属の女子高からエレベーターでこの大学に進み、そのままここに残って今に至っています」

「はい、それは知っています」


「そんなことで、そもそも男性と出会う機会も少なかった上に、母が病気がちのせいもあって結婚の話がほとんど出ませんでした」

「それは理解できます。お母様も心配はされていたでしょうが、病気だと動けないですしね」

「そうなんです。でも、それだけじゃなくて、私もあまり恋愛とか結婚とかに興味がなかったのです」

「男性に興味がなかったのですか?」

「う~ん、そういうわけでも無かったのですけどね」

「なるほど」


「姉の学生時代は男女共学でしたけど、男性の友達とかもいたのに、独身のままで結婚しませんね」

「お姉さまも、先生と同じように美人なんでしょうに、不思議ですねぇ」

「ふふ、これでも昔は美人姉妹と言われてたんですよ」

「今でも、先生は美人で素敵ですよ!」

「ありがとうございます。嬉しいです」

 何だか、お世辞でも男性に言われると嬉しい。ちょっと頬が染まったように思った。


「そういうわけで、私は、男性とお付き合いしたことがないのです。だから、お付き合いのレベルは中学生くらいだと思います」

「そんなことは関係ありません! 私だって、恋愛経験は殆どないので、似たようなものです。だからラヴレターすら書けない」

「あ、でも前半は、ラヴレターみたいだったですよ」

 と私が笑うと、彼も照れ臭そうに笑った。年甲斐もなく本当に高校生くらいになった気持ちで嬉しい。


「それで、誓約書の部分についてのお話をしたいのですが」

 私の言葉に近藤先生が一瞬緊張した。

「はい、どこか不適切な部分がありましたでしょうか?」

「いえ、そういう話じゃないんです。結婚についてのことなんです」

「はい! 先に離婚してからということですよね?」


「そうじゃなくて、私は先生と結婚したいとは思っていないのです」

「え? どういうことなんですか? 私は結婚前提で話をするのが筋だと考えていました」

「お気持ちは嬉しいのですが、まず、誰かを不幸にするということには抵抗があるのです」

「はい。でも、それは避けては通れないことですし、もう私たち夫婦は惰性だけですから、離婚しても不幸になるとは限らないです」

「元々離婚の話があったのなら別ですが、私が原因での離婚はして欲しくないのです」

「そのお気持ちは分かりますが……」


「それと、私もこの年齢ですので、これから子供を産みたいとは思っていません。そうすると結婚することの意味は半減しますよね?」

「確かに……」

「それに、現時点で、私はまだ先生に恋愛感情を持っているかどうかは分からないのです。だから、今は結婚を考えられないのです」

「そういうことですか。そりゃそうですよね。……でも、そうすると、私が結婚したままだと、不倫になってしまいます」


 近藤先生が困ったような顔をしたので、私の方針を提案をした。

「それで、あの誓約書の2番目~4番目の項目ではだめですか?」

「いつでも要望に応える、という項目ですね?」

「はい。だって、交際が進展せず別れることもありますよね? わざわざ離婚するリスクを負われることはないかと……」

「なるほど、……ご配慮ありがとうございます。先生はそれでいいのですか?」


「良いも悪いも、それしか選択肢は無いように思います。さらに言うと、私は今の独身生活に満足しているのです」

「そうすると、私は離婚せずにこのままで先生とお付き合いするという、男性にとって最も都合のいいパターンになるのですが」

「そうかも知れませんが、私はそれで不満はありません」

「分かりました。それでは、今後交際が深まった時点で対応を考えるということにします」

「私が結婚を求めない限りは、結婚を迫らないということも、含まれていると思っています」

「はい。それらは、誓約書に記載したとおりですから、私からは異存ありません」


「それと7番目の身体の関係については、まだ、今の時点では考えてないのですが、私が先生を凄く好きになってそうなる可能性は否定しません」

「有り難うございます。でも、誓約書としては必要かと思って。……失礼しました」

「いえ、それは怒ってはいませんよ。寧ろ、念のために配慮して書いて下さったのだと思っています」

「勇み足かも知れないと思いながら書いたので、そう言って頂いてほっとしました」

「それは、そういうことになりそうな時お話しすることでいいですか?」

「勿論です!」


「それで、お手紙へのお返事なのですが」

「はい!」

「そんな私の条件でも、先生はいいのですか?」

「勿論です! 私は何ら問題ありません。寧ろ、先生に都合が悪いのではないかと心配しています」

「じゃあ、先生のお申し出を受けさせて頂こうかと思いますので、宜しくお願い致します」

 と言って、頭を下げた。

「ありがとうございます! 夢のようです! こちらこそ宜しくお願い致します!」

 近藤先生は慌てて、頭を下げてお礼を言ってくれた。


「明日は金曜日です。早速ですが、明日、初めてのデートで食事に行きませんか?」

「あ、いいですね。交際記念日ということで」

 私も、初めてのデートは食事がいい。

「肉は大丈夫ですか?」

「はい」

「じゃあ、明日の予約をしておきます」


 待ち合わせの時間と場所を決めて、近藤先生が帰っていった。明日は初めてのデート。凄く楽しみでわくわくしてきた。



読んで頂きましてありがとうございます。


もし宜しければ、「いいね」「★マーク」「ブックマーク」などをして頂けると、嬉しいです。

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