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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第十章 恋はいつも唐突に
50/50

第100話 想い出になった初恋

毎日1話 午前3時投稿

 彼と別れ話をしてからも、相変わらず彼がマンションに来て、熱い愛の交歓を楽しんだ。異なるのは、その回数が激減したことだ。回数が減った分だけ、お互いに燃え上がって絶頂感はより深いものへと進歩していた。


 デートの仕方も土曜日辺りにドライヴを兼ねて少し遠くへ行って食事やお茶を楽しむパターン中心に変わった。セックスに偏っていた今までのデートが、恋人同士のデートらしくなったかも知れない。順番が逆なように思えるが、これはこれで新鮮だ。結心さんたちが、こういうデートで満足して楽しいと言ってたことが、今ごろになって分かってきた。


 私の恋が急激に進んだ原因は、早くから自宅に彼を招き入れてしまったことなのは明白。その結果がどうなるかなんて想像出来て当たり前だったろうに、それすら無視して突っ走ってしまった私は未成熟だったのだとつくづく反省する。


 最後には、病院へお見舞いに行くという失態を犯して、自ら別れざるを得ない流れを作ってしまった。でも、これで良かったと思う。修羅場を迎えずに済むなら、怪我の功名みたいなものだ。それに、別れると言っても友達になるのだから、彼とは何時でも会えるしコーヒーを飲みながら話をすることも可能だなんて思うと大したことじゃない。


 セックスに依存していた私の感覚も次第に落ち着いてきた。より深い悦びを知ったお陰で寧ろ時々愛し合うほうがいいとさえ思えるようになった。セックスを楽しむ余裕なのかも知れない。そして、心と身体が一体化した状態から、少しずつだが分離されつつあることに気が付いた。


 どう言ったらいいのだろうか。彼が「友達」みたいになってきたのだ。熱が冷めてきたような感じなのかも知れない。そんな自分に驚くが、でも、エッチの回数を減らしただけで、こんなに意識が変わるなんて想像もできなかった。



 金曜日の夜。結心さんと天野さんが久し振りに訪ねてきた。相変わらず、この二人は手を握ってくっついている。


「久し振りだけど、どう? 少しは落ち着いてきた?」

「うん! 天野さんて凄いと尊敬してるわよ」

「なんやて? 詩織の台詞とは思えん言い方やなぁ」

「素直に言ってるのよ。天野さんの言うとおりだって、心から信頼してるの」

「気持ち悪いなぁ。結心ちゃん、詩織が狂ったのかも知れんで」

「大丈夫。詩織さんて、何時もこんなもんじゃ」

「ちょっと! 本当に感謝しているんだって!」

「じゃ、もう身体の呪縛は解けたんやな?」

「呪縛だなんて。……多分、もう解けたと思う」

「彼には、別れるつもりって話はもうしてるの?」

「うん。別れてもお友達ではいようねって」

「そう、それでいい。喧嘩別れじゃないから、別れても清々(すがすが)しいじゃろ?」

「まだ別れてないけど、いつ別れても変わらないような気持になった」

「ただ、エッチはできなくなるよ」

「それが少し寂しいのよね」

「それは、新しい男を捕まえないと解決できんなぁ」

「そうかも知れないけど、なんか私が淫乱女みたいに思えてくるから、その言い方は止めて」


「それで、いつ頃別れることにしたの?」

「正直に言うけれど、やっぱり、まだ、時々で良いから抱いて欲しいと思うのよねぇ」

「それは、凄く理解できるよ。身体が覚えてしまっているからねぇ」

「ごめんね。貴方たちには、つい本音で言ってしまうから」

「でもなぁ、女からの別れ話って、急激に男を切り捨てるから心配ない」

「へぇ~、そうなんだ。逆みたいに思うけどね」

「特に、知的職業に就いてる男は、自分から約束を破りたくないと思う傾向が高いから、すっきり別れ易い」

「プライドとかの関係?」

「意気地なしなのよ、男は」

「じゃ、私から最後通告をして、彼が了解したら、もう抱き締めたりしなくなる?」

「多分ね。仮に手を出そうとしても、『もう別れたでしょ?』と言われたら、それ以上は手出しできない」

「なるほど。天野さん詳しいわねぇ。経験から?」

「要らんことを言わないの」

「ごめん」

「詩織さえしっかりしていれば、すっきりと別れられる。そこからは、友達になれる」


「最後の想い出に、何処かへ二人で旅行に行くとかはダメ?」

「絶対にだめ。そんなことすると、お互いにずるずると続けようとしてしまう」

「そうなんだ。辛いね」

「ずるずると続く方が辛いでしょうが」

「そうよね。修羅場を迎える前に別れるのが綺麗よね」

「いい思い出を胸に、同僚とか友達として仲良くできる」

「できるだけ近いうちに、決心したとき宣言するようにしようかな」



 それから、数週間経った金曜日の夜、彼が私の(うち)に来て、久し振りに愛し合った。凄く激しく感じて気の遠くなるような絶頂感を味わうものだから、この悦びを捨てられないと思ってしまう。でも、満足した今だからこそ、言うべき時かも知れない。シャワーで汗を流した後、いつものようにソファに座ってコーヒーを飲みながら、自然な感じで別れ話を伝えた。


「今日も、素敵な時間をありがとう。凄く気持ち良かった」

「こちらこそ、ありがとう。何度しても、いつも新鮮で新しい悦びがやってくるよねぇ」

「そうなのよね。もうこうして5年近くにもなるのにね」

「もうそんなに経ったんだなぁ。詩織の身体は、いつまでも瑞々(みずみず)しいというか、毎回驚くほど気持ち良い」

「そう言ってくれると嬉しいわ」

「正直に言って、手放したくないよ」

「でも、何時までもこのままって訳にはいかないから、恋人関係は今日で終わりにしない? 明日からは仲の良い同僚でお友達になろうよ」

「唐突に今言うかなぁ! でも、前から言われてたことだものね。諦めるしかないか」

「うん。私も辛いのよ。でも、もっと続けたいと思っている今だからこそ、別れるタイミングじゃないかと思う」

「キリがないものねぇ。最初の約束で、潔く別れると言ったから、それは守る」

「貴方に出会えて、男性を好きになることを知って、そして愛することが素敵なんだって理解できた」

「それは、僕も同じ。憧れているだけじゃなくて、思い切って告白できてこんな素敵な恋愛をすることができた。奇跡だと思ってる」

「いっぱい初めての経験をすることもできたわ。神戸での思い出は一生の宝物になる。絶対忘れない」

「僕も、夢のような時間を過ごせて詩織さんに感謝しきれないほど悦びを貰えたよ」

「そうよね、私も夢の中みたいな一夜だったわ。貴方と初めてひとつになったとき、本当に幸せで嬉しかった」

「僕にとっても一生忘れられない思い出をありがとう」


「別れても時々で良いから、誰かを交えて複数でお茶とかしようね。そしたら、疑われない」

「そうだね。食事も複数で行こう。楽しく同僚と過ごすようにしたらいいよね」

「うん。今まで、色々とありがとうございました。貴方に、初めてをあげられて幸せだったわ。今でも、愛しているからね」

「こちらこそ、天使から初めてを貰えて、天にも昇るようだったよ。僕も、ずっと愛しているからね。ありがとう。さよならは言わないよ」


 立ち上がって、二人で最後に抱き合いキスをした。荷物を持って玄関ドアを開ける前に、もう一度手を握り合って、本当に最後のキスをした。


 ドアが閉まって彼の足音が遠ざかっていく。涙が溢れて何も見えない。私はその場に(くずお)れる様に座り込んでしまった。


 ――私の初めての恋は、何ごとも無かったように呆気(あっけ)なく想い出として昇華(しょうか)した。


                                 

【完】

読んで頂きましてありがとうございます。


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