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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第六章 ラヴレターの修正
5/50

第55話 修正されたラヴレター

毎日1話 午前3時投稿

 火曜日の夕方。近藤先生が手紙を持ってやってきた。

 私に手紙を渡すとすぐ帰ろうとしたので、「お返事は木曜日の夕方にここでさせていただきますね」と約束した。

 

 教授室の中でゆっくりと読んだ。今度は内容が分かっているから、ドキドキすることはない。

 全文をここに転記する必要もないと思ったのだが、結構変わっていたので改めて全文を記載しておく。


 ―――――――――――― ここから手紙。


 矢野 詩織 様


 一方的にこのような手紙をお渡しすることをお許しください。


 初めて貴方にお会いしたとき、私は身体が震えるような感激に襲われました。生まれて初めて感じた衝撃でした。

 他にも大勢の方がいたのですが、私には貴方の姿がまるでスポットライトを浴びたように輝いていました。

 天使がそこに降臨したのではないかとさえ思いました。


 それ以来、貴方の姿が目に焼き付いてしまい、頭の中から離れることがありません。貴方のことを好きになってしまったのです。

 でも、私は既に結婚しており子供もいます。貴方に交際を申し出る資格がないのです。

 同時に、そもそも私などに貴方が見向きもしてくれないだろうことも分かりますので、最初から諦めていました。


 ときどき擦れ違うことがあるときに、私はどきどきしながら会釈をするのですが、貴方が優しい眼差しで会釈を返してくださると、その日は一日幸せな気持ちになっていました。それだけで満足していたのですが、数年経過した今、男として自分の気持ちを伝えないままでは後悔すると思うようになりました。そこで、可能性はゼロでも兎に角、伝えるだけ伝えて断られれば、それできっぱりと諦めようと決心しました。


 でも、もしも万が一、私の気持ちを受け入れて頂けたときに私はこのままでいいのか、どう対応するのだという壁に当然のことながら突き当たりました。そのとき自分はどうする積もりなのだと自問自答し、その結論に覚悟を固めました。その覚悟とは、貴方に私の全てを捧げるということです。荒唐無稽な空想かも知れませんが、もしも貴方が私を受け入れてくださるならば、私は身辺整理をしてから改めて私の気持ちを伝える積もりです。


 そんな重い気持ちは嫌だと思われた場合は、気持ちよく冷たく断ってください。元々、どうせ相手にして貰えないだろうと思っていますから、恨むなんてことはありません。私はストーカーにはなりませんので、ご安心ください。私には、幸い知性と教養があります。嫌われているのに追いかけるなんて無様なことをする積もりは全くありません。


 夢と希望はチャレンジしないと得ることはできません。それが失敗に終わっても、その過程にこそ意味があるのだと思っています。

 だから、こうして無謀とも思える告白をしています。万が一のチャンスでも、1つは可能性があるのですから。

 ただ、断られた場合でも、擦れ違うときの挨拶くらいはお許し下さいますようお願い致します。


 最後に、万が一私とお付き合いをして戴けることになった時、約束をさせて頂く誓約内容を記載しますので、ぜひ私にチャンスを頂けますようお願いいたします。私の一方的な申し出ではありますが、貴方にご迷惑を掛けないことを前提として書かせて頂きました。

 

 【誓約書】内容的に不適切または不快な部分がありましたら、修正させて頂きます。


 矢野 詩織 様


 1.結婚を前提とした交際に限る場合は、あらかじめ離婚して身辺整理を致します。

 2.結婚を求められていない場合、結婚を迫ることはしません。

 3.結婚を求めず、離婚等の身辺整理も求めない場合は、いつでも要望に応えられるよう努力します。

 4.もし法的な問題が発生した場合は、私が全責任を負って解決し、貴方には金銭面を含め一切のご迷惑が及ばないようにします。

 5.交際後、私との関係を清算して別れたい場合は潔く別れることとし、その後の迷惑が一切ないようにします。

 6.金銭等の貸借の要望などは一切しません。また、交際に伴う費用等の負担を要求することもありません。

 7.貴方の許可なく身体の関係を求めることはしません。仮に身体の関係になった場合は必ず避妊します。希望されれば避妊手術もします。

 8.以上の他、その他の要望があれば、貴方の求めるとおりに追加します。


 私は上記誓約事項を必ず守ることを誓います。

 20〇〇年○○月○○日  (誓約者 自署) 近藤 克矩 

 

 ―――――――――――― ここまで手紙。 (※年月日は伏せています)


 相変わらず硬い手紙だけど、内容的には大差なかった。でも、ラヴレターとかじゃなくて、もう誓約書だね。

 こんなに一杯列挙して、私への想いを態度というか形で表してくれているのは、女として素直に嬉しい。

 それに、これからお付き合いをしていこうと思う時に、何と言っても安心感満載だ。

 今は、色気よりも安心感が優先している私。だって、お付き合いの気持ちにはなっているけれども、まだ恋愛してないから。



 帰宅途中で、結心さんのお店に寄った。ちょうど店仕舞いをするところだったので、お手伝いをして看板の電気を消して中に取り込んだ。

 日曜日にデートしたので今日のデートはないらしい。

 手紙を見せたら、直ぐに天野さんと電話で打ち合わせ、別々に食事してから私の家へ来ることになった。

 この二人は決断が速い。単にデートの理由付けに使われただけの気もするが、私にとっては有り難い。


 二人が仲良くやってきた。いつものように二人がくっついて手紙を見ている。


「大分ラヴレターらしくなってきたねぇ、前半だけは」

 天野さんが安心したような顔で微笑んだ。

「詩織さんは天使だったのね」

 結心さんが私の顔を見ながら笑う。

「もう! そこはいいのよ!」


「捨て身の当たって砕けろ作戦かぁ。凄いよねぇ。美女に野獣の典型的パターンやな」

「その手に、まんまと口説かれた私。……って、それでも、女冥利に尽きるわよ。これだけ書かれると」

 私もまんざらではない気持ち。

「敬服するよ。ここまでは中々書けないと思う。覚悟を見せたね。天晴れ」

 結心さんも感心していた。

 

「誓約内容は、殆ど網羅してくれたんじゃない? 結婚問題にも真正面から取り組んでいるし、トラブルにも責任持って金銭面を含めて迷惑掛けないと。別れ話のときの約束まで触れているのは立派だよ。金銭問題も心配ないしね。この段階で避妊に触れているのは、振られる覚悟している割には本音丸出しかも知れないけど。……まあ法的な効果のほどはさておき、もう覚書とか交わさなくてもいいんじゃない?」

 天野さんが、総括して褒めてくれた。これで私も安心して恋愛をスタートできる。


「私、この申し込みを『受けます』って言っていいよね?」

「うん、覚悟を示してくれたんだから、詩織にとっては十分な内容だと思う」

 天野さんは、内容的にも安心だと言ってくれた。

「私も、詩織さんが一歩踏み出しても大丈夫な気がするわ。でも、性格とかは詩織さんが自分で最終判断してね」

 結心さんも推してくれた。嬉しい。

 

 これで、本当に安心して彼を好きになってもいいと思えてきた。

 ちょっと、普通ではないスタートかも知れないけれども、恋愛が初めての私には、こういう進み方が似合っているのかも知れない。

 何と言っても、私をお姫様のように扱ってくれる理想の恋人になるはずだから。



読んで頂きましてありがとうございます。


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