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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第十章 恋はいつも唐突に
49/50

第99話 大人の話し合い

毎日1話 午前3時投稿

 天野さんは、私が涙を流さずに別れる方法を考えてくれるというのだ。そんなこと可能なんだろうか?


「これから、その方法を伝授する」

「え? 本当にあるの?」

「そんな手品みたいな簡単な方法はないよ」

「そりゃそうよねぇ」

「まず、彼に伝えることは『奥様が私のことを疑っているかも知れないから、言動に気を付けてね』と言うこと」

「それは、分かった」

「これは、別れるまでの期間を少しでも長くするためのことだからね」

「はい」

「ここで、根本的な話なのだけど、君たちは別れても職場で顔を合わすということは分かっているよね?」

「勿論、分かってるわよ」

「それがどういう意味なのかも?」

「え? 喧嘩別れはできないということでしょ?」

「そういう問題じゃなくて。『別れても仲良くできる』ということ」

「まあ、仲良くしないと拙いでしょ?」


「違うよ。別れても会えるということは、完全に別れてしまうのとは少し違うでしょ?」

「あ、そうか! 会えるのね!」

「表現を変えると『茶飲み友達』かどうかは別として、『お友達』という関係になると言うことなんだよ」

「ということは、別れても寂しくないんだ!」

「ただし、手を握ったりセックスはできないよ。それをしたら別れてないからね」

「だから、心と身体がリンクとか言ってたの?」

「そう。セックスさえ切り離したら、別に問題なくなるじゃんか」

「そうよね! じゃ、セックスしなかったらいいんだ!」

「だから、それを止められるのかと聞いてるんでしょ」

「確かに、それは、今、止められないと思うわ」

「その為に、別れる準備としての期間が必要なのよ。そのセックス中毒の毒を抜く時間ね」

「もう、中毒だなんて、私哀しいわ」

「でも、奥さんに対する罪悪感はセックスが原因でしょ?」

「うん。そうだと思う」


「じゃ、次にすべきことは、セックスの回数を減らすこと。週1回にして、半年掛けて2か月に1回くらいまで減らす。これで依存から脱却できる筈」

「できるかなぁ?」

「あのなぁ、そもそも、あんたたち回数が多すぎるんや。セックス依存の原因はそれよ。普通の夫婦ならマンネリ化して、セックスレスになるのよ」

「それ、寂しいかも」

「それがリンクしてる証拠なの」

「まあ、努力してみる」

「そもそも、詩織の(うち)に来てるからこそ、そうなるのよ」

「だって、秘密にしなくちゃならないもの」

「外でのデートを増やさないと、セックスからの脱却は難しいだろうねぇ」

「そうよねぇ。家だと誰の目もないものねぇ」


「そういう意味で、彼が手術をしたばかりの今がチャンスなのよ」

「チャンスって……」

「さっきも言ったように、奥さんが詩織を疑っているかも知れないから、暫くは家に来させないのが普通の感覚」

「そうかも知れないわねぇ」

「すでにセックスなしで10日くらいは過ごしているじゃろ? ……禁煙みたいな話をしとるなぁ、僕は。少なくとも後10日くらいは体力的にもしないほうがいいかも知れない。そしたら、既に3週間のセックスレス期間を達成できるじゃん」

「そのペースを守れたら、依存症が治るかも知れないの?」

「あはは、自分で依存症って言ってるがな。それでいい」

「もう! でも、そうすれば、別れても会ったり話したりはできるものね。ゼロになるわけじゃない」

「そう。そこに光を見出すしか解決方法はないと思うのよ」

 

 天野さんのアドバイスは、私のことをセックス依存症みたいな言い方だった。失礼だと思ったけど、でも、そうかも知れないと後で思った。


 天野さんが、アドバイスをしてくれたとき、最後に彼と話し合いをしろと進めてくれた。

 こんなタイミングでかと思ったが、彼が退院して落ち着いてからでいいということだった。


「彼にきちんと言っておくべきだと思うのよね」

「何を?」

「『奥様にバレたら別れるって最初に言ったけど、気を付けてね』は、必須事項だよね」

「うん」

「『だから、家に来る回数を減らしたほうがいい』と言う。これが回数を減らすことになる」

「言いたくないけど、考えてみるわ」

「回数を減らすと、もっと大きな絶頂感を味わえるかも知れないよ」

「え? 本当?」

「騙されたと思って、試してご覧」

「分かった」

「もう1つ、彼としっかり話し合って、『分かれる覚悟をしておかなくちゃならないかも知れない』と」

「え? それを言ってしまうの?」

「『今直ぐというわけじゃない』という前提で話したらいい。『嫌いになって別れるよりも、好きな間に別れるほうがいい』こともね」

「いい想い出を残したいものね」

「修羅場を迎える前にね」


「職場も一緒なんだから、挨拶もしないなんてわけにはいかないじゃろ?」

「そりゃそうよ」

「だから、別れるけれども、それは身体の関係をなくすだけで、お茶を飲んだりくらいは構わないという話でいい」

「茶飲み友達になるのね?」

「そう。身体の関係がなければ、奥さんにも悪いと思わないじゃろ?」

「そうよね」

「本当に好きなら、それでいいんじゃない?」

「なんか、騙されて納得させられてる感じみたいな……」

「あほか! あんたを騙して、僕に何の得があるんや」

「ごめんなさい」


 彼が無事退院した。私の家に来たいとLINE電話してきたとき、当分は来ないようにと説得。

「奥様が疑っているかも知れないし、手術のあとは暫く静かにしたほうがいい」

「そうか、確かにそうだよね」


 それから、10日ほどして彼がマンションにやってきて、私たちは激しく燃え上がった。確かに、天野さんが言ってたように、このほうが悦びは大きかったわ。長い間セックスをしていなかったためか、私は凄く敏感になっていたし、乾いた土地に水が吸い込まれるように求め合った。


 満足した私たちはソファに座って、お茶を飲みながら、色々と話をした。奥様に疑いを持たれないように、気を付けることが大事なことは勿論だけど、セックスの回数も減らしたほうがいいと話し合って、順次減らす方向で一致した。ここで会うことがセックスばかりになっている原因なので、もう少し外でお茶を飲んだりしようということにもなった。その上で、私はいずれ別れる積もりだと彼に言った。


「病院で奥様にお会いしてしまったことで、やはり良心の呵責に悩んでる。とても辛いのよね」

「ごめんね。君に辛い思いをさせてしまって申し訳ない」

「だから、いずれ貴方とはお別れしないといけないと決心したの」

「どうしても、そういうことになるのか。だから、僕は最初に身辺整理をしておくべきだった」

「いえ、私のためにされると、私はやっぱり辛いからそれはして欲しくなかったの」

「お見舞いに来ないでって言えば良かった」

「私も、行かなければ良かったと後悔したわ」

「君が別れたいと言ったら、潔く別れると約束したのだから、それは守るよ」

「ありがとう。でも、私は、まだ、今すぐには別れられないわ。少しずつ、距離を開けていくようにしたい」

「分かった。それは詩織さんがタイミングを決めてくれたらいい」

「でもね、茶飲み友達と言うか、友達ではいてよね?」

「勿論! 是非ともそうして欲しい。抱きしめられなくなるだけだから、それは諦めるよ。会えるだけで、僕はいい」

「ありがとう。でも、暫くは、こうして時々は抱いてね」

「うん、こちらこそありがとう。想い出を少しでも増やしておきたい」


 こうして、私たちの別れ話は波風も立たずに静かに決まった。

 

読んで頂きましてありがとうございます。


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