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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第十章 恋はいつも唐突に
43/50

第93話 浮気の浮気なんて最低

毎日1話 午前3時投稿

 火曜日。

 夕方、いつものように彼とLINEで連絡をしたのだが、「急用ができたので先に帰る」と返事があり、「これから帰るの?」と書いたら「うん。では」と返信されて通信は終わった。私も、今日は仕事が済んだから、机の周りを片付けてカギを掛けて帰路についた。


 校門を出たとき、ふと思い付いて彼との待ち合わせ場所を通ってみた。勿論、彼は既に帰っている筈だし車がないのは分かっているのだけれども、最近は彼の車に乗せて貰ってないなぁと思って懐かしむような気持で覗いてみたのだ。すると、いない筈の彼の車があり、助手席に若い女性が乗り込む瞬間だった。思わず、物陰に隠れて動向をじっと見たら、彼の車が動き出して何処かへ向かっていった。


 驚いて、心臓がパクパクしている。見たらいけないものを見てしまったのかも知れない。あの場所は、私と彼の待ち合わせ場所じゃないの。違う人と、そこで待ち合わせるのはないでしょ。そもそも、あの女の人は誰? 学生だったら、もう学校にはいない時間帯だから、学校勤務の人なんだろうか? 後ろ姿だったから、ちょっと分からないし、想像も付かない。


 誰だか分からないけれども、兎に角、あの場所は誰にでも教える筈のない場所だと思う。私との関係みたいに隠さないといけない人ならいざ知らず、普通は、あそこでの待ち合わせをしない筈。学校の駐車場で乗せて、堂々と校門を出たらいい。ということは、人に知られたくない関係だということになるわよね。


 私がこうして目撃する可能性を考えれば、慎重な彼があの場所を指定するとは思えない。でもあの場所は、私の通勤経路から考えると逆方向だから、私は彼との待ち合わせ以外では近寄らない筈だ。つまり、私に目撃される可能性はないと考えたということになる。そして、今度は私との待ち合わせをするときに、その人に目撃される可能性も高くなる。拙いでしょ。


 落ち着いて考えてみよう。取り敢えず、帰宅経路に戻って歩きながら考えた。最近は彼とのデートが激減しているのも、そのせいかも知れない。つまり、彼が浮気して――そもそも浮気相手の私が言うのもおかしいかも知れないけれども――、それでデートの回数が減っているのだと考えると辻褄が合う。この前、結心さんが半分冗談で言ってたことが当たってたのだろうか。


 バスに乗ってから、「天娘森矢(てんこもりや)」――結心さんと天野さんのグルーブラインの名前――に『緊急事態発生!』と書き込んだ。直ぐに、結心さんから返信がきた。

「なになに? 何が起きたん?」

「あとでLINE電話する」

「今、どこ?」

「帰宅する途中でバスの中」

「今夜、お宅に行こうか?」

「デートじゃないの?」

「そこでデートするかね」

 と天野さんが、割り込んできた。

「そうだね! ともちゃんと外食してから行こうかな?」

「うんうん」

 天野さんが同意して、話が(まと)まった。

「ありがとう! うちで食事用意できるけど……」

「愛を確かめ合ってから行くから、用意しなくていいよ」

 天野さんが、わざとらしくいちゃついたことを言う。


 バスを降りてから、「天娘森矢(てんこもりや)」にLINE電話したら、二人とも直ぐに出てくれた。

「彼の浮気現場に遭遇したのよ! 新しい女発見!」

「え~?! ほんとに緊急事態じゃが!」

「まだ、確定したわけじゃないのだけどね」

「じゃ、食事は詩織さんとこで食べながらにしようか?」

「そうじゃなぁ。そのほうがええかも知れんなぁ」

「うん。そうして。今、バスを降りて歩いているから、30分後には用意できるよ。ご飯が炊けないかなぁ」

「話をしながら、ご飯が炊けたら食べることでいい」

 天野さんが提案して、結心さんのお店が30分程で閉まるから40分後ということに。


 結心さんたちがやってきた。

「忙しいのに、突然ごめんなさいね」

「そんなことはいいよ。でもショックじゃなぁ」

 結心さんが心配してくれる。

 ご飯のスイッチを入れてから、話をしながら冷凍した作り置きを用意して、レンジで温める用意だけした。

「食事前だから、お茶を淹れるわね」

 結心さんも手伝ってくれるから、あっという間に準備が終わって、食卓に三人で座った。

「現場からのレポートどうぞ」

 と、結心さんが促したので、彼が女性を乗せるところを見た話をした。


「なるほどなぁ。詩織との二人だけの秘密の場所で別の女性を乗せたというのは、限りなく黒だわなぁ」

「絶対黒とは言い切れないかも知れんけど、普通はしない行動じゃわ」

 天野さんも結心さんも、二人とも私と同じ意見。

「それに、忙しいからと最近会いに来なくなったのも怪しいよな。私が心配したとおりじゃが」

「うん。早くも浮気されるなんて思いもしなかったわ」

「う~ん、何年も詩織さんのこと思い詰めて、離婚まですると言ってたのに」

「まだ確定はできないけれども、最近の動向と秘密の場所利用から、黒だと思ったほうがいい」

 天野さんが、私の想像したくない内容を話す。

「詩織には可哀そうだが、先ずは、もし浮気していた場合は別れるのか修復するのか、気持ちを聞いておきたい」

「状況に依るけれども、軽い浮気なら修復するかも。そうでなければ、勿論別れるわよ」

「分かった。じゃ、先ず現状分析をしてみよう。まあ、情報が少ないから推測以外にないけど」

「うん」

「仕事が忙しいのは、本当かどうか」

「普通は、突然忙しくなることはないのよね。研究とか論文なんて、コツコツとだからね」

「なるほど、そうすると、仕事が忙しいという理由は、信じられない可能性が高いことになる」

「うん、今までは信じてたから、疑おうと思わなかったけど、今となれば怪しいと思う」

「そうすると、秘密の場所の件を含めると、やはり黒と思って考えよう」


「次に、詩織としては、彼がそんなにモテそうじゃないと思ってたんだよね?」

「そうなの。どちらかというと目立たない存在だし、学生とは年齢が離れているし」

「だとすると、学校の事務とか教師とかと浮気する可能性は低い筈じゃないの? 詩織に何年も思い続けたくらいだから」

「そうなのよねぇ。その筈なんだけどなぁ……。彼には、私しかいないと自信持ってたのよね」

「まぁ、男というのは、美人を一人口説いたら自信を持つかも知れんなぁ」

「え? ともちゃんも自信持ったの?」

 結心さんが突っ込む。

「僕? 僕は元々自信があったからなぁ……」

「え~? 私、自信なくしそう……」

「これ! 脱線するな!」

 結心さんが、ペロっと舌を出して首を縮めた。

「でも、自信持ったからと言って、次のターゲットを狙うってのもなぁ」

「新しい人を探すって言っても、詩織さんみたいな美人より上なんて簡単に見つからないし、第一簡単には口説けないわよ」

 結心さんが私を褒めてくれる。

「確かに、好みは別として、あんたたち二人は最上級の美人じゃからなぁ」

 天野さんが持ち上げる。

「そうやって考えると、浮気の浮気はあり得ないよなぁ」

 結心さんが黒を白だと言い出した。


「行動は怪しいけれども、詩織以上に美人を探した上で口説けるなんて、余程でないと難しい」

「じゃ、何故?」

「例えば、ボインの女だったとか?」

「あ、後ろ姿だったから、そこまでは分からないけど、ナインで悪かったわね!」

「いや、悪いとは言ってないがな。浮気する理由を考えただけやんか」

「でも、限りなく黒なのに、浮気する理由が見つからないよ?」


 話が振り出しに戻った。



読んで頂きましてありがとうございます。


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