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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第六章 ラヴレターの修正
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第54話 ラヴレターの修正依頼

毎日1話 午前3時投稿

 金曜日の夕方。早くも近藤先生がやってきた。驚きだったが、昨夜天野さんと結心さんたちに来て貰って相談していて良かった。


「昨日に引き続き、連続で申し訳ありません。ちょっと宜しいでしょうか?」

「いいですけど、昨日の件ですか?」

「はい、早すぎるのは分かっているのですけれども、気になってしまって昨夜は寝られなかったものですから」


「コーヒー飲まれますか?」と私はにこやかに椅子を勧めた。

「ありがとうございます! 本当に申し訳ありません」

 近藤先生は例によってハンカチで額を拭って恐縮している。

「昨日も吃驚(びっくり)しましたけれど、昨日の今日ですから、今日も吃驚です」

「済みません! 分かっているのですけれども、居ても立っても居られない気持ちになりました。あんな手紙をお渡ししたので挨拶すらもして貰えなくなるのではないかと不安で不安で、ご迷惑が分かっているのに続けて来てしまいました」


「いえ、大丈夫です。ちゃんと拝見させていただきました。書かれていた内容については全てではありませんが検討の余地はあるかも知れません」

「本当ですか?! 有り難うございます! ご不満な点は修正させていただきます!」

 近藤先生の顔がぱぁ~っと明るくなった。

「まず、私の名前も先生の名前も書かれてない理由を説明しておられますが、正直に申し上げますと『私を信用しておられないのかな?』と残念に思いました」

「え? ……そんな! ……信用してます! 配慮した積もりが逆の不快な気持ちにさせてしまい済みません! ちゃんと書き直してきます」


「私に手渡して下さっているのですから、私に迷惑なことを自分ではしませんよね?」

「仰るとおりです! 残るは私の都合だけですから、先生が漏らすと心配しているように思えてしまいますよね? 申し訳ありません!」

「書き直して下さるなら、それ以上は申しません。正式なお返事をその後させていただきます」

「はい! ありがとうございます! チャンスを頂けて嬉しいです!」

 気のせいか、近藤先生の目が潤んでいるように見えた。


「チャンスと言われても、お互いに良くは知らないわけですから、ときどきお茶をご一緒したりお食事したりということでいいのですよね?」

「はい! それだけで、もう夢のような気持ちです!」

「それだけのことですのに、身辺整理などと大袈裟なことはしないでくださいね。私、誰かを不幸にしてまで自分の幸せを求める気はありませんので」

「はい、肝に銘じておきます。でも、そのくらいの気持ちだということで書かせて頂きました。その気持ちを表す為に、書き直しても書かせて頂きます」

「分かりました。そういうことでしたら、それでも大丈夫です」


 私は、今、このタイミングで、大切なことを確認しておこうと思った。不倫という言葉は使いたくないけれども、そこのところは大切だもの。

「あの、この機会ですから、ちょっと私の気持ちを申し上げて宜しいでしょうか?」

「もちろんです! 他に何かありましたら、どうぞ仰ってください」

「私は男性とお付き合いした経験がないんですよ。それで、妻帯者の方とお付き合いすると、法律的にどうなるのだろうかと不安があるんです」

「それがあって身辺整理と書いたのですが、仮にもしも何某(なにがし)かのトラブルが発生した場合は、私が全責任を持って解決し先生には一切ご迷惑をお掛けしません。それもお約束として書いておきます」

「それで安心しました。何だか、契約書の打ち合わせみたいになりましたねぇ。教授への道も閉ざされたくないですし」

 と私は笑った。

「済みません。私の話し方が、そんなことになってしまうのですよねぇ。でも、お互いの立場を大切にしないといけませんから」


 ラヴレターの修正なんて聞いたことないけど、現にこれから修正されるのだ。


 正式な返事は修正された手紙を受け取ってからだと言いつつも、結局は検討の余地があると伝えたのだから、近藤先生は大喜びだった。

 条件を幾つか考えておこうと思っていたけれども、まさか直ぐに来るとは思わなかったから、間に合わなかった。

 でも、いずれ、本格的に付き合うとなったときには、きちんと誓約書みたいなものを書いて貰えばいい。


 そのタイミングというのは、お茶や食事くらいじゃないから、大人の付き合いになる頃だと思う。それって、キスする頃なんだろうか?

 手を握ったくらいで騒ぐことないものね。男と女の関係って、どのタイミングでそう思うのだろう? 私は、全く想像がつかない。

 でも、キスするってことは、はっきりと性的な関係への入口に違いないのだから、そのタイミングで書いて貰うことにしよう。



 急ぐ必要もないのだけれど、想定外のタイミングで話が進んだので、家に帰ってから天野さんに電話で報告した。


「え! 今回はいつもと動きが違うなぁ! ま、心配で寝られなかった気持ちは分かるわ」

「条件なんかを考える間がなかったけど、それは改めて本格的にお付き合いするときでいいよね?」

「それでいい」


「ねぇ、それって、キスとかをした頃が、本格的なお付き合いということになるの?」

「人によってレベルが違うから一概には言えないけれども、詩織みたいな超初心者だとキスくらいでええと思うよ」

「天野さんと結心さんも、そんな感じだったの?」


「あんた、どさくさに紛れて何を言うんや? 僕らは、詩織と違って純情路線だからねぇ。手を握ったら、もう覚悟せなあかん」

「もう! 貴方たち会った日に手を握ってたじゃない」

「あれは、握手」

「そうやって誤魔化すんだから。まあ別にいいけどね」

「ほんなら聞くな。……それにしても、男性経験が無いって言うの大胆な発言やなぁ」


「そんな言い方してないよ。お付き合いをした経験がないと言っただけだから普通でしょ?」

「確かに。でもそれって処女でございますと宣言したようなもんやろ」

「そう言われると、そうかも知れないけど。……処女って、敬遠されるの?」

「そんなことない。大抵の男は処女が好きだね」


「天野さんも好きなの?」

「そりゃまぁ、好きやな」

「じゃ、結心さんも処女で良かったね」

「そうなん? そうやってカマを掛けてくるん? 知らんで」

「あはは、なかなか天野さんはガードが堅いなぁ」

「あほか! 結心さんに叱られるぞ?」


「いいじゃない。喜んで貰えるなら。でも、なんで処女が好きなの?」

「初物はなんでも嬉しいやろ。自分が『女』にしたって、征服欲みたいなものもあるだろうし」

「ふ~ん、そういう感覚は女には理解できないわね」

「処女だけじゃなくて、ファーストキスだって、同じことやで。嬉しいもんや」

「ファーストキスにしても、処女喪失にしても、女には記念すべき時だよ」


「話が逸れたけど、妻帯者との交際に不安という話は大切なことだから、きちんと言ったのは正解だったでしょ?」

 私は自慢した。

「責任を持って解決して迷惑を一切掛けないというのは大事。あのな、詩織は独身だから、慰謝料を請求される側になる。それを彼が支払ってくれれば、その心配がなくなる。それと、仕事面での教授への道も大切だものねぇ。その辺をちゃんと言って、それへの対応を書いてくれたら安心」

「そうなのよ。このタイミングで言う予定はなかったけど、どこかで伝えるべきことだからね」

「しかし、昨日話し合っておいて良かったなぁ」

「そうなのよ、お陰で焦らなくて済んだわ。ありがとうございました」



読んで頂きましてありがとうございます。


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