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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第九章 新婚旅行と新婚生活
32/50

第82話 彼の手術は成功

毎日1話 午前3時投稿

 水曜日の午後。彼からLINE電話が入った。

「検査の結果は、安全レベル達成」

 病院を出る前に、知らせたかったんだって。

「おめでとう! 良かったね!」

「きっと昨夜のが効いたんだよ。ありがとう」

「ふふふ。嬉しい」

 

 今週は彼が(うち)に来ないから、結心さんは来られるかな? LINEしてみよう。

「今夜はデート? 別に大した用事ないけど、遊びに来る?」

「今夜は暇だよ。ごはん食べてから行くわね」

「は~い。待ってるわね」


 夕方、彼からLINE電話があった。昼間にLINEで結果を聞いていたけれども、やっぱり嬉しそうな声だった。

「もしもし。良かったわねぇ」

「うん。これで僕のやるべきことが1つ達成できたよ」

「そうだね。お疲れさまでした。……って、言ったら良いのよね?」

「あはは。確かに。毎日、頑張ってたからねぇ」

「詳しくは聞かないけれども、毎日だったら、大変だったと思うわ」

「それもあって、今週は英気を養わないといけない。週末に備える、というのも理由の1つ」

「あ、そういうことか。そうだよね。肝心な時に疲れてたらいけないものね」

「そうなんだよね。って、何の話やら」

「うふふ。ほんと。……今夜は、結心さんが遊びにくるの」

「家に送っていってあげようか? 上がらないけど」

「無理しなくていいわよ。昨夜会ってるんだから」

「毎日でも会いたい」

「じゃ、本当に送ってくれるだけよ」

「分かった! 何時頃帰るの?」

「ぼちぼち、帰るわよ」

「じゃ、10分後に」

「ありがとう」


 こんなに頻繁に会ってたら、その内誰かに見つからないだろうか? いくら、秘密の場所だと言ってもねぇ。せめて、最悪の場合に備えておかなくっちゃ。学校を出てから注意深くマスクを着けて歩き、待ち合わせ場所に到着すると後部座席に座った。

「いつもありがとう。お仕事大丈夫なの?」

「大丈夫。今日は嬉しいから特に会いたかったよ」

「本当に、結果が良くて安心したね」

「うん。仮に8回分が残っていたとすると、10回出せば0.875の10乗となって約25%程度に減る」

「難しいのね」

「基準値が約4千万とすると妊娠に必要な1千6百万は約40%に当たる。25%なら余裕で安全圏。10回分の量としても9回で達成できる」

「凄い計算。それ、自分で考えたの?」

「そう。素人の理屈だから、まあ、自己満足の理屈かも知れないけどね」

「あは。貴方らしいわ」

「そもそも精子の有効期間は基本的には3日ほどらしいから、手術後2週間もあれば安心」

「なんだ。じゃ、無理することなかったんじゃない?」

「完全に安全でないと安心できないから、減らした上で検査を受けたわけ。――これが病院の証明だよ」

 検査結果を見せてくれた。絶対安全を確保するって、やっぱり彼の性格がそうさせるのね。

「分かったわ。本当にお疲れさまでした。そして、ありがとう」

 彼の執念のようなものを感じた。きっと、この理屈を私に説明したかったのね。彼は研究者なのだ。


 マンションの傍のいつものところで車から降ろして貰ったら、彼はそのまま帰って行った。


 食事が終わって暫くしたら、結心さんがやってきた。

 コーヒーを飲みながら、ゆっくりと話をする。今日は、結心さん達の進展具合を聞くのだ。私の話は、そんなにないものね。


「貴方たち、その後はどう?」

「どうって、いつも仲良く楽しくデートしてるわよ」

「まあ、言わないだろうとは思うけど、少しは進展してるのよね?」

「うん、それなりに」

「微妙な言い回しというか、思わせ振りな表現をするわねぇ」

「うふふ」

「まあ、そこは、想像しておくわ」

「詩織さんレベルの想像はしないでね」

「もう、なんて言い方するのよ」

「だって、詩織さんたちの話は、私には刺激が強すぎるんじゃが」

「私たちは進展が本当に速かったからねぇ。『これでいいのか?』って悩むことがあるのよ」

「そうじゃろうなぁ。私は、そういう悩みはないんよ」


「話は変わるけど、貴方たちはお互いをどんな風に呼び合ってるの?」

「名前で呼び合ってるわよ。詩織さんは?」

「私は、彼を『あなた』と読んでるわ。私のことは『詩織さん』と呼ばれてる」

「『あなた』って夫婦みたいじゃない?」

「いや、そうじゃなくて、一般的な『あなた』なのよ。最初は『近藤さん』も使ってたけど、最近は『あなた』」

「下の名前で呼ばんの?」

「まだ、呼んでない。ぼちぼちそれも考えるかなぁ。今度の旅行で話し合ってみるわ」

「私たちは、彼が『ゆいちゃん』とか、たまに『ゆい』って言ってくれる」

「前に天野さんが『ちゃん』て言ってたことあったわね」

「あれ? そうだった? 気が付かんかったわ」


「『ゆい』って、呼び捨てはどんな気持ちになる?」

「嬉しいわよ。『ちゃん』て呼ばれるよりも、何か一歩近づいた感じがする」

「そうだよね。結心さんは、何て呼んでるの?」

「私は『ともたかさん』だけど、『ともちゃん』とかもええなぁ」

「『ちゃん』で呼ぶ方が親しみあるよね」

「今度、『ともちゃん』て言ってみようかな」

「そうね。喜んでくれるかもよ」


「詩織さんも『かつのりさん』とかにしたら?」

「私たち、身体の親密さは進んでいるかも知れないけど、名前の呼び方は遅れてるかも」

「あは、変なの」

「だから、心の親密さは少し遅れてるのよ」

「そうよねぇ、デート2日目で家に入れたんじゃもの、吃驚(びっくり)だわ」

「自分でも驚いたわ。そのときは、何も考えてなくて、食事を何回もご馳走になって家まで送って貰ったから、つい言ったみたいな」

「魔が差したの?」

「そんな言い方しないでよ。でも、そうかも知れないわよね」

「だから、数日で抱き締められたんよね」

「そう。でも、家で話をするって、やっぱり落ち着いてしまうのよ」

「そうじゃろうなぁ」


「なぁ詩織さん。彼との交際、後悔しとらん?」

「え? 後悔なんてしてないわよ」

「そう。良かった」

「どうして?」

「この前、付き合い方に疑問持ってたじゃない」

「あゝ、あれね? あのときは、毎回会ったらキスしたりエッチなことに必ずなるものだから、なんかねぇ、エッチが目的で付き合ってる訳じゃないはずなんだけど、どうしてこうなるのかなぁと少し疑問に思ったの。でも、天野さんの話を聞いて納得したから、もう迷わないわよ」

「そうなんだ。解決して良かった」


「結心さんは迷ったりしないの?」

「私は自分で口説いたくらいだから迷うはずないじゃろ」

「自分で口説いたって認識あるんだ」

「まぁ、同時に双方が好きになったみたいだけど、私から先に告白したからなぁ」

「あゝそうだったわね」

「だから、彼が私に求めるものは何でもあげるんよ」

「エッチなことも?」

「そうだよ。全部貰って欲しいってこの前言ったもん」

「大胆よね」

「う~ん、そうかも知れんけど、愛を確かめ合うのだから、何でも嬉しいと思う気がする」

「私も、この前の話で、それが分かったわ」


「そもそも、彼にヴァージンをあげなかったら誰にあげるん? こんなに感性も何もかも合う人なんて滅多に会えんわ。だから、私は天野さんしかおらん」

「そうよね」

「考えてみられぇ、女に生まれて面倒な生理があって、女の悦びを知らずに歳を取っていくん? 悲し過ぎない?」

「確かに」

「彼に全てあげて、何を後悔するん? あげないほうが後悔すると思うわ」


 結心さんの心は最初から少しも揺らいでいない。激しい恋の炎が静かに燃え(たぎ)っているのだ。



読んで頂きましてありがとうございます。


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