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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第六章 ラヴレターの修正
3/50

第53話 ラヴレター対策作戦会議

毎日1話 午前3時投稿

 木曜日の夜。

 天野さんと結心さんは別々にご飯を食べてから、二人揃って来てくれた。手紙を、二人揃ってというかくっついて読んでいる。

 もう、遠慮なくいちゃいちゃするのよねぇ、この二人。キスはもうしたのだろうか?

 興味あるのに教えてくれない。


「やはり、無記名のラブレターじゃったなぁ」

 天野さんが口を開いた。

「天野さんの予想どおりだったわねぇ」

 私は天野さんの予測を褒めた。

「それで、この手紙を読んだ感想を聞かせて貰えるかな?」

 天野さんが私に聞く。


「正直に言うとね、もう少し何か淡い表現を期待したのだけど、好きとか愛してるとかはあっても、どちらかというと説明風で少しがっかりしたかも」

「あは、ちょっとそうかもねぇ。まあ、真面目に一生懸命説明してくれた感じかな?」

 結心さんだってそう思うよね。

「でも、身辺整理ってところはびっくりしたわよ。私、生涯を捧げられても困るかも知れない」

 私の本音だ。


「でも、その覚悟を示してくれたのは嬉しいんじゃない?」と天野さん。

「う~ん、愛している人に言われたら嬉しいかも知れないけれど、私はまだそういう気持ちじゃないからねぇ」

「そうだよねぇ。分かる気がする。まだ、そういう嬉しさはないだろうなぁ」

 結心さんも同意してくれた。


「まあ、本気だと言ってくれてるわけだから、1ポイント上げてもいいんじゃない?」

 天野さんがやけに甘いぞ。

「確かに。遊ばれるってのは嫌だものねぇ」

 私も、それは認める。

「誓約書も書いていいって、これはどうするの?」

 結心さんが私に聞く。

「自分からそう言ってるのだから、書いて貰おうかな」

 私はニヤリと笑う。

「そうだね。口先だけじゃないってことを、1つは証明して貰ってもいいかもね」

 結心さんも笑う。


「それで、どちらにしても、申し込みを受け入れるんだよね?」

 天野さんが私に確認する。

「うん、もうそういう気持ちになっているから」

「じゃ、この先に進むための方法論だな。まず、前提となる条件を整理しておこう」

 天野さんが言うと、結心さんが直ぐにメモを取り出す。結心さん、秘書になってしまったねぇ。


「先方から、結婚を前提でもいいと言ってるけど、それは望まないのよね? 後で変更は修羅場になるかもだから、意思確認」

「うん、結婚しないから、離婚してくれないほうがいい」

「結婚は求めない。別れるとき文句言わずに別れてくれるという一筆を書いて貰う?」

「自分でそう書いたのだもの、当然よ」

 私は強気。

「それと、奥さんに知られるとか問題が起きた時、詩織さんには迷惑を掛けずに解決すると約束して貰ったら?」

 結心さんも強気。

「そうだね。それ必要よね」

 私も大きく頭を縦に振った。

「その辺は法律的に有効か否かは微妙かも知れないけどね。ま、無いよりはマシ」

 天野さんが、少し首を(ひね)った。


「他の条件は?」

 結心さんが私を見ながら微笑む。

「条件は考えるわ。それよりも、どうやって進めるかよね。私からは連絡しないの」

「気位の高いお姫様じゃなぁ。彼はどうするつもりなんだろうか?」

 天野さんが肩を(スボ)める。

「頻繁に来ないと言ったのだから、用事を作って、たまには来るんじゃない?」

 私は余裕な顔。


「じゃ、そもそもの基本的な部分から、僕の意見を言うね」

 天野さんが真面目な顔になった。

「はい、お願いします」


「まず一番に言うべきことは、宛名も差出人の名前も記載されていないこと。正当性を説明しているが、これは指摘すべきだと思う」

「天野さんは、書かないと思うって予測してたじゃない」

「うん。曖昧な告白ならね。本気でするならおかしいでしょ。詩織さんに直接手渡すのに、何故リスクがある?」

「あ、そうだよね」

 言われて気が付いた。

「つまり、詩織さんを信用してない? それで覚悟を決めた告白? 失礼じゃない?」

「無記名あり得ると聞いてたから、やっぱりと思ったけど、それを聞いてなかったら『何これ?』と思うわよね」

「だから、これは、はっきりと指摘するべきだと思う」

「どういう風に言えばいい?」


「その前に、どこで話をするかなのだけど、夕方の研究室って、そういう話をできるの? リスクはない?」

 天野さんが気を使ってくれる。

「普通の声で話す限りは、廊下では何を話しているか聞こえないと思う」

「じゃ、頻繁に近藤先生が出入りしない限りは、誰も怪しいとかは思わないのよね?

 そこで少し位ならこの話をできるの?」

「できます」

「では、受け入れる前提で、何をどう言うかを、順に説明しよう。1つずつ言うよ」

「はい」


「まず、1つ目は『手紙を拝見しました。書いて頂いた内容については検討の余地はあるかも知れません。ただ、私の名前も貴方の名前も書かれていないのは、正直に申し上げますと《私を信用していないのかな?》と残念に思いました。きちんと書いて頂いてから、正式なお答えをしたいと思います』これは、彼としては驚くだろうねぇ。理由も書いたのに反論されたのだから。私を甘く見ないでね、というメッセージになる。それと同時に、一筆書いてもらう代わりになるよね」

「言われるとおりだわ」

 流石は天野さん。頼りになる。


「次は、交際方法になるわけだけれど、まだ『交際』と言う言葉は使わない」

「そうよね」

「これを言うかどうかは、先ほどの残念に対する彼の反応次第だけど、『お互いに良くは知らないのですから、ときどきお茶をご一緒したり食事をしたりということでいいのでしょうか? 正式なお付き合いになるかどうかは、そのあとだと思っています』」

「彼が再度書き直すって言ったら、これを言うのね。言わなかったら、そこまでだわ」

「そういうこと。これくらいで彼が面倒だと思うようなら、本気じゃないと言わざるを得ない。どうせ捨てられることになる」

「うん。私は簡単じゃないと覚悟をしておいて貰わないと」


「ま、要するに、折角書いたのだから、きちんと書いてねってことよ。残る問題は、どういう交際になるのかだけど、それはまだ早いよね?」

「そうよね。まだ付き合うかどうかも分からない段階だものね」

 私の本心は付き合う積もりにはなっているけれど、手順を踏まないと私のペースにならないと思うから、ここが踏ん張りどころだ。


「連絡の取り方は、スマホも持ってない詩織さんだから、自分たちで工夫してね」

 天野さんにも突き放された。これは仕方ない。


「あ! 僕のレッスンが1回残ってるわ! それ必要かなぁ?」

 天野さんが思い出したように手を打つ。

「近藤先生は自分でできるのだから、詩織さんから言ったら?」

 結心さんがずばりと言う。

「結心さん、天野さんの為ならはっきり言うわねぇ」

 私は笑いながら言った。

「そりゃ、天野さん優先じゃが。講習の目的は済んだよね?」

 結心さんが念を押す。

「繰り返し復習したなら、あの程度は自分でできるだろう。彼なら本を読めば大丈夫。まあ、困ったら行ってあげるよ」

 天野さんは優しい。

「ありがとう。……って、まだ私の彼氏じゃないのに、私がお礼を言う不思議」

 私は思わず笑った。


「それで、多分、彼はラヴレターを書き直して持ってくるね。諦めが悪そうなタイプだからねぇ」

 天野さんが笑う。

「さっきの話をすればいいよね」

 私は突然不安になる。

「不安なことないでしょ。貴方は高嶺の花なんだからね」

 結心さんが笑顔で言ってくれた。



読んで頂きましてありがとうございます。


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