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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第八章 恋愛ってこれでいいの?
28/50

第78話 暗くしたら恋人ムード

毎日1話 午前3時投稿

 金曜日。

 帰りにスーパーで買い物をしたあと、結心さんのお店に寄ってパンを買って帰った。今夜は、結心さんが来る約束になっている。

「久し振りに、ウチで食べる?」

「いいの? じゃ、お菓子持っていくね」

「最近は、作り置きをたくさん作っているから、いつでも大丈夫よ」

「それ、彼用でしょ? 私が食べてもいいの?」

「別に彼専用じゃないわよ。元々、作り置きを作る習慣になってるからね」

「確かに、楽だものね」

「うん。じゃ、適当に用意しとくね。急がなくてもいいからね」

「は~い!」


 いつものように、食後はソファでお菓子を食べながらコーヒー。最初は、私の現状報告。


「昨夜、初めて電気を消してからキスしたのよ」

「え~?! ……今まで、明るいところでしとったん?」

「うん。自然に抱き寄せられてキスされてって流れで、電気をわざわざ消すという発想がなかったの」

「なるほど……そうだよねぇ。これからキスするから灯りを消しますって言わないわよなぁ」

「そうなのよ。セックスとか裸になる前提だったら、服を脱ぐとかの準備があるから、灯りも消すって流れあるかもね」

「私、そういう経験ないから、そこまで想像したことなかったわ」

「私もそうよ」

「じゃ、なんで昨日は気が付いたん?」

「彼が、マンションの夜景が綺麗かって聞いたところから」

「ここ、マンション多いから見晴らし良くないじゃろ?」

「そうなの。その流れで、彼が暗くしたら恋人ムードが出るんじゃないかって言いだした」

「それで電気を消したのね?」

「そう。確かにムード出たわよ」


「ムード出たらどうなったの?」

「結論から言うと、感じ易くなった」

「詩織さんは、元々感じ易いタイプなのに、どうなったん?」

「ムードが出ると早く感じるのは、多分集中力が増すからかしらね。それだけのこと」

「あは、微妙じゃなぁ」

「でも、暗くしたものだから、途中で彼が上半身を裸にしようとしたの」

「え~?! ど、どうしたん?」

「だって、もう随分感じてたし暗いから見えないじゃない。いいとは言わなかったけど、抵抗しなかった」

「暗黙の了解かぁ。愛し合ってる途中で言われたら、余程でないと抵抗しにくいかもなぁ」

「元々、もう服の中に手が入って直接触られてたから、それほど抵抗感は無かったのよ」

「そういう下地があったんか。じゃ、灯りを消そうと言う発想は、彼の計画じゃな。少しずつ進展していく熟練の技」

「あ、そういうことか! 偶然の結果じゃなかったのか!」

「偶然じゃないじゃろ。彼は、今まで全て計画どおりにしてきとるが」

「考えてみると、そうだよねぇ」


「それで、どうなったん? 裸になったん?」

「まさか! 彼にも上半身を裸になって貰った上で、私も上半身を彼が脱がしてくれた」

「う~ん、上半身裸かぁ……どういう雰囲気か想像しにくいなぁ」

「想像しなくていいよ」

「服を彼氏に脱がされるって感覚、それどんな気持ちなん?」

「え~? どんな気持ちって……もう思考力ゼロに近かったからなぁ……」

「恥ずかしいとか嬉しいとか嫌だとか、色々とあるじゃろ?」

「そんなこと言われても、覚えてないわ」

「他のことは覚えているのに、それだけ覚えてない?」

「結心さん、突っ込んでくるわねぇ」

「だって、ここは乙女心としては大事な部分じゃろ? 教えてくださいよ、先輩!」

「止めてよ、先輩なんて今更」

「じゃ、おねぇさま!」


「本当に覚えてないというか、よく分からないのよ」

「恥ずかしいって気持ちはあったんよな?」

「それはあったわよ。でも、その時は暗くしてたから、恥ずかしいと思ったのは一瞬だと思う」

「あ、そうか! 見えなかったら、今までと大して変わらんのか。嬉しいとか嫌だとかは?」

「嬉しいってことは無かったよ。嫌でも無かったなぁ」

「う~ん。難しいなぁ。私は経験ないから想像できないんよなぁ」

「だから、恥ずかしいと一瞬思ったけど、暗いから大胆になったのかも知れないわね」

「お! 大胆という新しい単語が出てきました!」

「ちょっと、どんな表現してるのよ」

「元々直接触られてたから抵抗感はなかったんよなぁ」

「そうね、抵抗感は確かに少なかったと思う」

「そうすると、もっと気持ちよくなりたいという願望があった?」

「あ、それは否定できないかも。だって、キスされたり触られたりで感じてる最中だったもの」


「なるほど……間もなく旅行で完全な裸になる予定だから、早いか遅いかの違いかぁ?」

「うわぁ~、露骨な表現だけど、考えてみるとそういうことかも知れない。遅かれ早かれそうなるのだものね」

「いずれにせよ通る道の中の何処か、つまり一里塚とか道しるべ程度のことじゃな」

「段々、本筋から離れてきているけど、単に雰囲気の問題ってことだよね」

「凄く勉強になりますわ、お姉さま」

「要するに、元々覚悟していたことだからね」

「そういうことじゃな。でも、脱がされるっていう行為についてはどうなん?」

「あ、それはどきどきしたよ。だって、男の人に――彼氏だけど――脱がされるって、考えてみたら、これも初体験よ!」

「どきどきして、興奮するの?」

「もう興奮してたから、分からない」

「げっ! 居直ってきたか!」

「居直るって、人聞きの悪い表現しないでよ」

「そこはもう疲れたから、良いことにしよう」

「疲れるまで追求しないでよ」


「うふふ。で、裸になって、今までと違うところがあった?」

「そりゃあ大違いよ。――言っとくけど、上半身だけ裸だからね」

「だって、今までだって直接触られてたんじゃろ?」

「そうなんだけど、何と言うか、違うのよ」

「だから、どう違うの?」

 今日の結心さんは、執拗に攻めてくるなぁ。天野さんとのことで参考にしたいのだろうか。

「あのね、先ず一番は、お互いの肌と肌が直接触れ合ってる。これは刺激的よ」

「なるほど、確かに想像できるわねぇ。刺激的なの?」

「だって、考えてみると分かるけど、胸が直接彼の胸とかに触れているのよ。それに敏感な乳首も彼の身体に触れているのよ?」

「あ、そうか! それ凄いことじゃない!」

「次は、手や指が胸に触れるのは経験済みだったけど、唇や舌が直接触るって感触が異次元のものだよ」

「わぁ! 私、聞くだけで興奮しそう!」

「これ! 結心さん、そういう棒読みみたいな反応しないでよ」

「だって、もう私恥ずかしいというか、やっぱり興奮してしまうわよ」

「その恥ずかしいことを説明している私の立場はどうなるの?」

「詩織お姉さまだから、いいのよ」

「それか!?」


「でも考えてみると、セックスするときは、お互い全裸だよねぇ」

「そうだよね、普通は」

「じゃ、今回みたいな反応は、まだそれ以前の段階だからこその刺激なのよね?」

「多分そうなんだと思う。初心者特典みたいな? ビギナーズラックって言うのかな?」

「詩織さん、面白い表現するわね。初心者特典かぁ。天野さんが最初は感じ易いって言ってたよね。そういうことか」

「彼も、新しい刺激に慣れていって深く快感を得られるようになるんだって言ってた」

「なるほど。奥が深いわねぇ」

「だから、前回と違う新しい刺激で、私も凄く感じてしまったのよ」

「毎回、新しい刺激なの?」

「毎回、一歩ずつ進んでいってるのよ。もう性の虜になってしまいそう」

「上半身裸になってしまったものねぇ。凄いことになってきた」


 結心さんの話をする予定だったのに、私の体験談になってしまった。



読んで頂きましてありがとうございます。


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