第68話 結心さんとの話は尽きない
毎日1話 午前3時投稿
私の、初めてのキスの話。
話している私も、だんだん思い出して興奮してきた。結心さんも、お菓子を食べるのを忘れて、話の先を促す。
「抱き締めたり、キスしたりしながら、彼は耳元で『愛してる』って囁くの」
「わぁ~! ロマンチック!」
「そんな雰囲気なのに突然、彼の舌が中に入ってきたから、もう吃驚した」
「いよいよ本格的になったんじゃなぁ。一気に」
「驚いて、身体を離そうとしたけど強く抱き締められてるし、口も塞がってるから何も言えない」
「ディープキスなら、そりゃ何も言えないわよね」
「だって、ロマンチックな初めてのキスの後だよ。まだ、初めての余韻に浸っていたいときだったのに、もうディープなんて」
「乙女心が分かってないねぇ」
「でも、そうしている内に、何だか興奮してきて気持ち良くなったから、私も彼の舌に絡んでしまった」
「おお! とても初めてとは思えない大胆さじゃなぁ!」
「え? そうなん? だって、されるままにしてるって失礼じゃない?」
「あはは、そこで失礼だなんて考える余裕があったのか!」
「いや、そのときは、そんなこと考える余裕はなかったわ。もう夢中になってしまったもの」
「そうよねぇ。何だか夢の中みたいじゃよなぁ」
「なんて言ったらいいのかなぁ、……私の口の中に外から何やら動くものが入っているんだよ? 不思議な感覚」
「分かる! 何やらじゃなくて彼の舌だけどな」
結心さんが訂正して笑う。
「確かに。……って、そういう問題じゃなくて、要するに活きたどぜうが暴れてるみたいな」
「え? どぜうなの?」
結心さんは、声を上げて笑う。
「だって、……なんて表現したらいいのよ?」
「知らん」
結心さんが突き放す。
「まあ、その例えは何でもいいから置いといて、とにかく私の口の中を刺激してくるのよ」
「あぁ、聞いてるだけで興奮しそう」
結心さんがまた茶化す。
「ぼーっとした頭の中で、ふと浮かんだのだけどね」
「余裕があるなぁ……」
「余裕なんてないけど、でも、ふと思ったの。これって、セックスと同じなんじゃないかって」
「ん? セックスと同じ? ……なるほどなぁ。仕組みは似ているのか……」
「仕組みって何よ」
私は思わず笑ってしまったけど、確かにそうかも。
「だから、そんな風に感じたっていうか思ってしまったのかもね。流石は大学教授」
結心さんは、感心したように納得していた。
「准教授よ、まだ」
「口の中も身体の内側だから、身体の中から刺激されることになるのか、キスって」
「そう! そんな感覚だったのよ! だから、そういう風に思ったの」
「なるほどなぁ。キスも奥が深いのねぇ。……じゃ、セックスしなくてもいいわね?」
「それは、……やっぱり違うでしょ?」
「あはは、詩織さんはキスだけでは満足できない、とメモメモ」
「これ! そんなメモは要らないの!」
「キスだけでは、物足りなくなるよねぇ? きっと」
「でも、キスだけでぼーっとなって感じてた。そしたら、彼の手が胸をそっと覆うように触ってきたのよ」
「わぁ~! どんどん進む、法華の太鼓」
「茶化さないでよ」
「ごめん! ちょっと興奮して恥ずかしくなってきたからねぇ。で、手を払ったの?」
「ううん。そのままにしてた。だって気持ち良かったんだもの」
「気持ちよかったら、取り敢えずは有り難く頂いておくのよね」
結心さんが笑う。
「というよりも、服の上からだし、ブラも付けてるし」
「そうね、激しくなかったら、それくらいは大目に見るよね、彼氏なんだから」
「他の人だったら払い退けるけど、彼氏だからちょっとくらいはサービスしてあげないとね」
「そんな訳でディープなキスをしながら、ずっと触られていたけど気持ち良かったからそのままにしていたら、だんだん感じてきて吐息とかが出てしまったみたいなの。そしたら、彼の指先が私の胸の先に当たった途端、私はビクッとして『ダメッ』て言って身体を離したんだよ。嫌じゃなかったのだけど、でも、それ以上はまだダメって思った」
「分かるよ。私もそうするかも。それ以上感じてしまったら、どうなるのか怖いわよね」
「そう! ……彼が『ごめん』って謝ってくれた」
「それで、その日は終わったの?」
「ううん。まだ終わらなかったの」
「え~!? 謝ったのに?」
「ちょっと話をしてから、また抱き締められて色んなキスをされた」
「わぉ~! 密室だから際限がないのよねぇ」
「キスの色々なバージョンみたいなことされて、私本当に興奮してしまった」
「そうか……擬似セックスとでも言えばいいのかな?」
「あ、そうかも知れないわね! 気が付いたら、ソファの上で仰向けになって彼が上から覆い被さってた」
「わぁ~! 濃厚だわぁ! 純真無垢な乙女の私には刺激が強すぎる!」
「自分だけ、良い子にならないでね」
「私、良い子だもん」
「何よ、その言い方。子供みたいな言葉を言わないでよね」
「ちょっと、お茶のお替わりしないと、顔が火照るわ」
「お茶がいいの?」
「うん」
「そこまでで、お仕舞い?」
「その日はね。でも、続けて昨日も彼が来た」
「あ、そうか! 10日間連続だったな」
「昨日、結心さんのお店から帰って、料理の作り置きをたくさん作っておいたり、家事を色々としてた」
「デートが続くと、時間が足りなくなるわなぁ」
「そうなのよ。最近は二人分作るから量も増えてるしね」
「冷蔵庫が、いつもより一杯になるよな?」
「まあ、彼が食べると思うと、作るのも楽しいけどね」
「あら! ご馳走様! 私のは作らなくてええからな」
「結心さんのは作ってないから安心して」
「やっぱりそうか」
結心さんが手を叩いて笑う。
「それで夕方、彼は仕事に出てたらしいけど、帰りに自然に車でここまで来たと電話してきた」
「もう、ここに来るのが習慣になってしまったのか」
「あはは、それで、電話切ったらすぐに上がってきた」
「ソファに並んでキスをしたり手を握ったりしながらコーヒーを飲んだ」
「忙しいわねぇ」
「結心さんだって、似たようなもんじゃないの」
「ま、確かに。……って、私たち喫茶店でそんなことできないわよ!」
「あ、そうか! 可哀そうにねぇ」
「あのなぁ、詩織さんに憐れんで貰いたくないわ。私たちは、清く正しく美しくなのよ」
「はいはい」
「それで、昨日は遂に……どうなったん?」
「その『遂に』ってどういう意味よ」
「気にしないでね」
「もう、キスも激しくなってきたし、私もお返しするしで、凄く官能的になってきたのよ」
「男の人って一度クリアしたら、次へと進むのは当然なのね」
「そうなの。もう胸に触るのも当然のようにして、触るというよりも揉んでいるのよ」
「え~! 速いねぇ! 感じた?」
「そっと触ったり揉んだりとか、いろいろと変化しながら、キスも激しいから、私はもう夢中になってしまった」
「そうなるよねぇ……」
「だんだん感じてきて、身体の中から何かが突き上げるような感じがしてきたのよね」
「……」
「訳が分からなくなって、まるで裸で彼に抱かれているような気持になって、『もう好きにして』って思った」
「……」
「そして、突然身体中に快感が駆け抜けて、思わず声を出してしまった」
「……それって」
「うん、彼が『軽くイッたみたい』だって言ってた」
「凄い! ……そんなになるんだ。本当にセックスしたみたいになったんじゃな」
「そう。暫くぼーっとしてた」
本当に、彼氏のいなかったほんの少し前の人生には戻れないと思った。
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