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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第七章 初めてのキス
13/50

第63話 交際1週間記念

毎日1話 午前3時投稿

 水曜日の午後。

 日課になりつつある秘密のLINE通信。彼から「病院行ってきた」という連絡が入った。え? 私どう反応したらいい?


「お疲れ様です。大丈夫でしたか?」

「大丈夫。来週の今日、することになった」

「頑張ってね」

「ありがとう。また夕方LINEする」

「はい」


 何だか、具体的な単語は使い難い。誰も見てないのは分かっているし、相手が彼だと他人には分からないのに、何故か気を遣う。

 夕方はLINE電話で話をしてみようかな? それよりも、今日も私の部屋に来るのかな? 何だか、もう毎日会わないと寂しいかも。

 昨夜、料理の作り置きをしておいたから、今日は簡単に夕飯の用意ができる。

 

 夕方になってLINEが入った。

「電話できる?」

「できるよ。こちらから掛けてみようか?」

「待ってる」

 昨夜覚えたとおり、LINE電話を掛けたら、直ぐに繋がった。


「こんばんは、大丈夫なの?」

「大丈夫だよ」

「今日も、来る?」

「いいの?」

「うん」

「じゃ、10分後くらいに、あそこで」

「分かった」

 と言って、電話を切った。これくらいなら、LINEの文字でも大して変わらないか、と思わず一人で笑ってしまった。


 車に乗り込みながら、話を始めた。もう慣れたものなのよ。

「今日で6日目のデートだよね。交際開始からだと、ちょうど1週間」

「あ、そうだね。じゃ、ちょっと食事に行かない? 記念日ということで」

「いいわね。帰りに私の家でお茶にしたらいいよね?」

「何がいい? 何も考えてなかったから予約してない」

「何でもいいけど、今日は中華にする?」

「車で行ける店、え~と、あ、児島線にあったな。そこに行ってみよう」

「ああ、知ってるわ。そこでいい」


 そのお店は、結構大きくて外観も素敵。駐車場も広い。高そうに見えるからお客が少ないと思ったら、ほぼ満席だった。二人席はあったので待たずに済んだ。3皿ほどを注文して、ご飯とスープを頼んだ。二人で分け合って食べる。中華料理は、そういうものだ。


「込み入った話は家でするとして、ここではスマホの話をしよう」

「月曜日から今日で3日だけど、スマホは役に立ってるよね?」

「うん。凄く便利」

「職場では、このままで全く困らない。それでも、外とかでは連絡取れないけど」

「うん、困らない。今までも、私自身は困らなかった」

「自分はね」と彼が笑う。

「家は電話があるからスマホ無くてもいい」

「結心さんと連絡取る為だけにクレジットカードのリスクを冒す必然性もない」

「そう。どうしても急ぐときは、彼女の携帯に電話すればいいから」

「そういうわけだから、君のスマホには契約する必要はないよね?」

「はい。それでいいです」


 料理が運ばれてきたので、二人で分けながら食べた。彼はお酒を飲みたかったかも知れないけれど、車だから我慢して貰わないといけない。3皿は少し多かったかも。お腹が一杯になった。


「そうすると、そのスマホにsimを入れて通信できるようにするのは、全く僕が勝手にすることだよね?」

「そうなりますけど、……何を言おうとしているの?」

「昨日simだけ増やすと無料で使える話をしたと思うけど、覚えてる?」

「覚えてるよ」

「それを申し込みしたから、1週間くらいでsimが届くと思う」

「え? そうすると、このスマホに契約してないのに、何処でも使えるようになるの?」

「そう! 正確には、きちんと契約したsimだからね。僕のスマホとデータ使用量を分け合う形」

「分け合う?」

「だから、契約しているデータ通信量を2台で合算して精算する」

「じゃ、無料じゃないでしょ?」

「最低使用量3Gの契約をしているけれど、君と僕の2台を合わせても2G以下で、更にもう一枚simを持つ余裕がある。実際、僕の毎月使用量は1G以下。家と職場はWIFIがあるからね」

「そうか、どうせ余って捨てる余分を私が使うことになるから、無料みたいなものになるのね」

「ご名答! だから、僕も負担はしてないし、君のクレジットカードを使う必要もない」

「凄いわね! よくそんなことを考え付いたわね!」

「格安プロバイダが作っている制度で、家族とかサブ機に利用して節約している人が多い」

「今回なんかは、正にそれだね!」

「大きな写真なんかを送受信するときは、WIFIのあるところでやればいいから」


 スマホ問題は思わぬ形で決着しそうだ。帰りの車の中で、気になっていることを聞いた。


「ねぇ、ちょっと聞いていい?」

「いいよ」

「こうしてLINEでやり取りしてるのを、奥様に見られたら困るでしょ? どうしてるの?」

「パスワードを設定してるから簡単には見られない。詩織さんのにもパスワードあるでしょ?」

「うん」

「僕のスマホに表示される名前は男性の名前にしてるし、微妙な発言は消せばいい」

「発言を削除できるのね?」

「厳密には、サーバーには残るし、他の機種から見ることも可能だけど、普通はそんなにまでして見ないよ」

「他の機械で見られるの?」

「例えばパソコンで見るとかすれば、消してもサーバーのデータを見られるみたい」

「怖いね」

「だから、こういう情報機器では、マル秘の情報交換はしないほうがいい。あくまで連絡用と割り切ればいい」

「そうだね、連絡用。私も古いのは消しておこう」

「僕もそうするよ。安全のためにね」

「うふふ、『密会』ね」

 私も怪しげな単語を持ち出して笑った。


 マンションに着いた。いつものように私が先に上がって、彼は車を置いてから上がってきた。


「今日もまた、ご馳走様でした」

「あっという間の1週間だったね。楽しい1週間だったよ。ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう。なんかもう、毎日会ってるから、会わないと寂しくなりそう」

 つい、私は本音を言ってしまった。

「ホント。でも、このままだと疲れるだろうから、ときどきはお休みしないとね」

 彼が笑いながら言う。そのとおりなのよ。買い物すらできなかったもの。

「まあ、最初はこれでいいよね? 知らないことが一杯あるから」


「そう。凄く身近に感じられるようになってきた」

「私もそう」

「ねえ、こっちにおいでよ」と彼が誘う。

 隣に座ると、抱き締めてくれた。暫くは、お互い無言になって、抱き締め合いながら、じっとしていた。


「あ、それでね、手術は来週の水曜日になった」

「そうなんだ。午前中なの?」

「いや、手術は午後になる。勿論、その日の内に帰るよ。自分で車の運転してね」

「へぇ~、手術しても運転していいの?」

「局部麻酔だそうだから、手術中の声とか音も全部聞こえるらしい」

「『あ、失敗した!』とか聞こえたら怖いよ」

「おいおい、怖いこと言わないでよ」

「ごめんなさい。冗談が過ぎたわね」

 私も彼も笑った。こういう冗談を言える関係になってきた。


「ところで、明日はどうする? また、ここに来る?」

「できたら来たい。来てもいい?」

「いいよ。ごはんの用意もしようか?」

「ありがとう。ここで食べたい」

「毎日外食していいの?」

「大丈夫。元々、外食が多いから」

「奥様、寂しくないのかしら?」

「いないほうが楽みたいよ。どこの家でも『亭主元気で留守がいい』って」

「やっぱり、結婚なんてつまらないじゃない」

「確かに、そうかも知れないなぁ」


 夢も希望もない中年の男と女の会話。だから、私の独身主義は正しいのよ。



読んで頂きましてありがとうございます。


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