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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第七章 初めてのキス
12/50

第62話 簡単な夕飯をご馳走した

毎日1話 午前3時投稿

 火曜日の午後。

 昨日と同じように、午後の手が空いた時、教授室に籠って彼へLINEした。この部屋へは、院生たちもノックなしでは入ってこないから、安心だ。


「こんにちは」

「こんにちは」

 今日は、すぐに返事がきた。ぼちぼち連絡あるかと思って待ってたのだろうか?

「今日は、どうされますか?」

「また、お茶を飲みに行きたいなぁ」

「毎日、大丈夫なの?」

「大丈夫です!」

 即答で返事がきた。


「連日出掛けていたりで、買い物しないといけないから、今日は定時で帰る予定です」

「送りましょうか?」

「いえ、バスで帰ります」

「分かりました」

「簡単な食事をついでにどうですか?」

「え? いいの? じゃご馳走になります」

「定時から2時間もあれば買い物して家にいます。適当なタイミングで電話してね」

「分かりました」


 連続デート記録が伸びるわね。おまけに、私のプライベートルームなんだから、何をされても「合意」になってしまうのだろうか?

 でも、もう少し今のレベルを楽しみたい。正直に言うと、これ以上を期待しているのに、怖いのだ。覚悟しているのに、怖い。

 だって、キスって他人の唇が私の唇に触れるのよ。どうしたらいいのか分からない。

 握手は経験あるけど、手を握られて、汗かいてたりしたら嫌だな? あれ? 手を握られる前に抱き締められたよね? 順番が逆じゃない? 身体に触られたらどうなるのだろう? 気持ち悪くない? くすぐったくない?

 ああ、もう、想像するのは止めにしよう。抱き締められたときだって、予期してなかったけど自然に対応できた。きっと大丈夫。


 夕方、LINEに「これから帰ります」とだけ書いて、既読は付かなかったけれども、教授室に鍵を掛けて出た。

 院生たちがまだ研究室にいたけれど、「今日は帰るわね。鍵を掛けておいてね」と言っておいた。


 スーパーで買い物をしてから、結心さんのお店にパンを買いに寄った。

「いらっしゃいませ~! あ、詩織さん、久しぶりね」

 結心さんがにこやかに迎えてくれた。

「本当に、お久し振りよね。金曜日からずっと毎日デートで忙しくてねぇ」

「凄いねぇ。若者じゃなぁ! コーヒー飲んでいく?」

 結心さんが笑いながら聞く。


「ごめん! 今日も彼がこれから来るの。ご飯作るって言ったから」

「え? もうそんな関係?」

「違うよ、まだ昨夜初めて抱き締められただけ」

「え~?! 私より早いじゃないの」

 結心さんが小声で言った。


「また、今度ゆっくり報告するからね」

「絶対よっ! 今日もぎゅっとして貰えるんじゃ、……ええなぁ」

 結心さんが興味津々な目をして私を見る。

「そんな目で見ないでよ。恥ずかしいじゃない」

「私も、あとで電話してデートしよっ。私もぎゅっとしてって」

「あはは。じゃあね」

 食パンと菓子パンを幾つか買って店を出た。スーパーの買い物と合わせると結構重い。いつもより少し速足でマンションに戻った。


 夕食の献立は、時間がないから「鶏肉の野菜炒め」。これに、コンソメスープくらいでいいかな? 取り敢えず、水に浸して置いたご飯をセットしてスイッチを入れた。初めて彼にご馳走するのだけど、でも急なことだし手の込んだ料理は無理だから、これで良しとしよう。作り置きもなくなってるし仕方ない。


 彼がやってきて、今日はソファではなく食卓テーブルに座って貰った。話をしながら食事の準備をする。

「スマホの契約のことだけど、やはりクレジットカードが必要みたい」

「じゃ、このままでいいわ。目的は貴方との連絡だから」

「そうね」

「結心さんとは今までどおりなんだから、別に困らないわよ」


「僕のスマホにsim――通信用のカードのこと――を追加ができるかも知れない。それが一番簡単」

「無理しなくていいよ」

「無理じゃないのよ、sim追加なら毎月の費用は掛からない」

「あら、それいいわね」

「うん、詩織さんが使う程度の量なら全く影響ないからね。今、それを調べてるところ」

「ありがとう」


「それとね、今のままでも、学校でLINE電話はできるんだよ」

「文字じゃなくて? 普通の電話みたいに?」

「そう。あとで、やってみよう」

「ここでも、できるの?」

「僕がいるときはできるの。詳しくは省略するけど」


「へぇ~。ご飯が、ぼちぼちできるわよ。手を洗ってくる?」

「そうだね」

「こっちよ。トイレはあっちのドア」

「ありがとう」


「簡単な料理でごめんなさいね。最近は買い物も行けてなかったから、作り置きもなくなったし、時間もなかったし」

「原因は、僕が毎日逢いたいって言うからだよねぇ。ごめんね」

「ううん。私も楽しんでいるもの」

「美味しいよ。鶏肉の炒め物って美味しいんだねぇ」

「いやいや、手抜きの簡単料理だから褒めないで。恥ずかしいわ」

「本当に美味しいよ。それに、嬉しいし」

 彼が本当に嬉しそうに言ってくれた。


 食べ終わったあと、簡単に後片付けを済ませてソファに移動した。コーヒーとさっき買った菓子パンも出した。私は、もう食べないけどね。


「さっき言ったLINE電話をしてみよう。スマホを出して」

「はい」

「僕のスマホでWIFIを用意するからね。そしたら、ここで使えるようになる」

「あ! WIFIのマークが点いたよ」

「LINEを立ち上げて、この電話機のマークをタップして音声通話」

「ビデオ通話は嫌よって、ここにいるのだから別に恥ずかしくはないか」

 思わず笑ってしまった。

「そうすると呼び出し音が僕のスマホから聞こえてきたよね?」

「ホントだ。……もしもし」

「もしもし、ちょっと離れてみて」

 私がキッチンのほうに行く。普通の電話みたいに話ができたので、切るボタンを押した。


「これ、学校のWIFIで話ができるのね?」

「そう。ただし、LINEで繋がるひとだけだよ。今は僕しか登録ない」

「夕方LINEの文字で確認して、電話しても良かったら、今みたいにすれば話ができるの?」

「文字でやるのと、声で連絡するのと、その時々に応じて使い分けたらいい」

「本当に便利ねぇ」


「ねぇ、詩織さん、こっちのソファに座らない? 抱きしめたいんだけどいいかなぁ?」

「そんなこと言われると何だか恥ずかしい」

 と言いながら、彼の隣に座り直した。

 彼は、私の肩に手を置いて抱き寄せた。私は、彼の肩に倒れ込むような感じで目を閉じた。何だか、幸せ感がじわ~っと押し寄せてきた。

「今日は、抱き締める以外は何もしないから安心してね」

「うん。今は、これだけで私は幸せなの。少しずつ心の準備をしながらだから優しくしてね」

「ありがとう。楽しみにしてるよ」

 と彼は言って、ぎゅ~っと強く抱きしめた。私も彼の背中に手を回して抱き締めた。目はずっと閉じたまま。……幸せ。


 そうして抱き締められたままだったけど、彼の言葉にびっくりして目を開けて彼の顔を見た。

「それでね。明日、病院へ行くことにした」

「えっ?! どこか悪いの?」

「いや、そうじゃなくて、避妊手術の相談に行く」

「本当にするの?」

「早ければ、来週には手術することになる。1時間もあれば帰ってこられるみたい」

「そうなんだ。私、なんだか責任感じそう……」

「詩織さんとは関係なく、僕の意思ですることだから」


 私は何と答えたらいいのか分からない。

 こうして、間違いなく一歩一歩、彼は私の覚悟を迫ってきている。

 私は、自分の意思で飛び込んだのだ。逃げられない恋の世界へ。あの「金曜告白事件」から。



読んで頂きましてありがとうございます。


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