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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第六章 ラヴレターの修正
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第60話 鷲羽山ドライヴデート

毎日1話 午前3時投稿

 日曜日の朝。いつものように洗濯物をベランダに干す。勿論、下着は外に干さない。一人分の洗濯は僅かだから簡単。

 約束の時間に彼の車が来て、鷲羽山へドライヴデート。3日連続のデートだ。



「おはようございます。お疲れじゃないですか?」

「詩織さんとデートできるのだから、疲れなんかないよ」

「あはは、何といえばいいのか……恐縮でございます」


「古いスマホを持ってきたよ。説明は後で」

「ありがとう。……あ、これね。結構小さいのね?」

「アイフォンだから女性に人気の機種」

「ふ~ん、可愛いかも」


「ところで、詩織さんは運転免許証を持ってるの?」

「持ってないわよ。興味ない」

「やはり、そうか。携帯とかにも興味ないって言ってたから、運転もそうかなと」

「そうなの。男性とか恋愛とか結婚とかにも興味なかったし」

「今は、少しは興味あるの?」

「うん、男性と言うか、貴方には興味が湧いてきたみたい」

「おお! 嬉しい!」


「でも、結婚にはまだ興味ないけどね」

「好きになったら、一緒にいたいと思うようになって、結婚とかにならない?」

「あのねぇ、好きな人と一緒にいたいと思うのは理解できるのよ」

「恋愛と結婚は別ということ?」

「う~ん、別というより、恋愛の先に結婚があるとは思わない」


「結婚はどういう意味に捉えているの?」

「結婚て生活でしょ? 子供とか家とか親兄弟がいて祖先もいる」

「当然そういうことになる」

「結婚するって、そういった二人のものが合算されて倍になるわけじゃない」

「全部じゃないけど、確かに増えるのは間違いない」


「極論かも知れないけど、そういうのが面倒なのね、きっと」

「ああ、そういうことか。それは分かる」

「この前も言ったけど、私は自由がいいの。今の生活に満足してるの」

「だから、結婚はしたくないと」

「そう。貴方が嫌いだとかそういうのじゃないの」

「……うん」


「それに、一緒に住んで『生活』すると、その内、新鮮さも消えていくしね」

「まあ、恋愛だって、長くなれば同じかも知れない」

「結婚してなかったら、その時は別れたらいいでしょ?」

「え? 捨てるの?」

「それ、貴方が言う? 私と付き合う為に奥様を捨てようとしたじゃない」

「う、……それを言われると……」

「奥様と別れるって大変よ? 簡単じゃないわ。そのための婚姻なのだから」

「確かに」


「だから、私は結婚する気がないのよ」

「ずっと、そう思ってたの?」

「若いときは単に興味がなかっただけ」

「考えが変わったの?」

「この歳になったから、かも。男に(スガ)って生きていくなんてしたくない」

「まあ、結婚したら通常は男の責任だものね」


「でも、気持ちが変わるかも知れないよ?」

 彼は、私の気持ちを中々理解できないのかも知れない。

「そこなのよね、問題は。人間の心なんて風のようなものよ」

「途中で結婚したいという気持ちになったとき、僕が妻と離婚する原因は詩織さんになってしまうよ」

「だから、私は結婚しないと覚悟した上で、貴方と付き合う決心をしたのよ。貴方の家庭は壊さない。……私の大きな決心なの」


「分かった。……ありがとうって言えばいいのかな?」

「そんな必要はないわ。……貴方が口説いてきたのが原因だけどね」

 と私は笑った。そうよ、それが無かったら、私は普通に今までの生活をしてたのよ。

 ここまで話すと、暫くお互いに無言だった。それぞれの思考を纏めていたのだと思う。別に重苦しい雰囲気ではなかった。


 車は、児島インターで地道に降りて、鷲羽山ハイランドを見上げながら通り過ぎて、まだまだくねくねと山すそを走っていた。

 高速道路を降りたら直ぐに鷲羽山かと思ったら、何だか遠い。最後は海岸沿いみたいなところやら、兎に角くねくねと走った。


 やっと、鷲羽山への入り口を曲がって、山の上に登り始めたけれども運転していない私でも疲れてしまった。岡山県人の私が言うのもなんだけど、観光地なんだから、もう少し道路を整備して欲しいと思ってしまった。自然を大切にしながらって大変かも知れないけれど。


 瀬戸大橋を一望できるレストハウスで、瀬戸内海の素晴らしい景色を眺めながら、蕎麦や点心などのセットされたランチを食べた。お昼は、これで十分お腹が一杯。

 食後、スマホの説明を聞いたあと、ぶらぶらと山頂の展望台まで散歩。流石に山頂の景色は広く、瀬戸大橋もかなり近く見える。ちょっと登るだけでも景色がずいぶん変わることに驚いた。

 天野さんの言ってたとおり、歩きながら彼が手を繋ごうとした。けれど、私は手を繋がずにさりげなく腕を軽く組んであげることにした。それでも彼は嬉しそうだった。これが初めての軽い接触だものね。デートのいい想い出になった。


 瀬戸内海の夜景は綺麗だろうけれど、明日は仕事なので遅くなるのは避け、今度改めて機会を作ることにした。帰りもまた、くねくねとした道を走ったが、今度はボートレース場のほうを通って帰った。


 帰りの車の中で、また結婚しない話の続き。


「そうすると、僕らは『不倫の関係』ってことになるんだよね?」

「今はまだ違うけどね」と私は笑う。

「僕は、離婚してでも詩織さんと結婚したいのが本音」

「また、話を戻さないで。貴方が離婚しても、私は結婚する積もりがないから」

「誓約書に書いたから、結婚は迫らない」

「それなら、離婚してもいいわ。私は知らない。結婚を迫られたら、別れるかも知れない」


「不倫がばれたら?」

「その時は別れるわよ。それは、貴方が責任を持って解決して私には一切負担や迷惑を掛けないって誓約書に書いてくれたじゃない」

「それは、約束する」

「私はそれでいいの」

「分かったよ。寧ろ離婚しないほうが、僕が結婚を迫らない担保になるということなのかなぁ?」

「うん。分かった?」

「微妙だけど、詩織さんの考えを多分理解できたと思う」


「それでね、貴方は私の身体が目的?」

「え? ……そんな、……僕は結婚したいと思ってたけど、それは諦める。でも、貴方は欲しい」

「欲しいって、身体? 私は、ボインじゃないわよ?」

「ボインは関係ない。身体が目的じゃないけど抱き締めたいし、正直に言えばいずれそういう関係になりたいと思ってる」


「そうなるかは今のところ分からないけど、でも結婚しないのだから子供ができたら困るよね?」

「うん。ちゃんと避妊する」

「でも、結婚したいから、敢えて妊娠させるってことしない?」

「しないよ、そんなこと」

 彼が笑って、私も笑った。

「でも、失敗したとき困るよね?」

「……避妊手術をしておこうか? もう、子供を作る必要はないし」

「いいの? 奥様の同意が必要じゃない?」

「それは、大丈夫。寧ろ、避妊手術しておいたほうが安心できるからいいと思う」


「手術したあとに、私とできないまま別れることになっても後悔しない?」

「後悔しないよ。……決めた! 詩織さんとそういう関係になれるか分からないけど、いずれにしても手術する」

「……女の手術よりは楽なの?」

「多分ね。手術したら、証明書を貰って詩織さんに見せるよ」

「あはは、そこまでは必要ないかもだけど、……まあ、そうね。見せて貰うわ」


 まだ、手も握ってない関係の二人が話す内容ではないかも知れないが、私たちの関係はこれでいい。

 ムードないかも知れないが、私の恋は、こうして外堀を埋めて安全を確認してから進むのだ。


 彼はマンションの前で私を降ろすと、すぐに帰っていった。あ、晩ご飯食べ忘れた!



読んで頂きましてありがとうございます。


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