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恋なんて知らなかった 【後編】 R15  作者: 湯川 柴葉
第六章 ラヴレターの修正
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第51話 近藤先生が早速お礼に来た

同名前編からの続きです。

https://ncode.syosetu.com/n8862ib/


毎日1話 午前3時投稿

 月曜日の夕方。院生たちが帰ったあと、ぼちぼち帰ろうとしていたら近藤先生がやってきた。


「矢野先生、先週はありがとうございました」

「あ、近藤先生、こちらこそご馳走になりましてありがとうございました。美味しかったし楽しかったですよ」

「いえ、お礼は私のほうが言うべき立場です。天野さんて、凄い方ですよねぇ。あの講習会だけでアクセスを動かすことができるようになりました」


「よろしかったら、コーヒーでも飲んでいかれますか?」

「いいのですか?」

「もう帰ろうかとしていたところですから大丈夫です。食事のお礼にインスタントコーヒーは失礼かしら?」

 私は笑いながら言った。

「あ、じゃあ、どこか喫茶店でも行きますか?」

「いえ、ここで淹れますので」

「済みません、お手数をお掛けします」

「インスタントですから、味はご存じのとおりですけどね」

「矢野先生の淹れて下さるコーヒーなら、美味いに決まってます」

「お口もお上手なんですねぇ」

「いえ、本音です」


「習ったアクセスを、ご自分でやってみておられるのですか?」

「そうです。基本的な操作を同じように何度もしていると、何となく何をしているのかが分かるようになってきました」

「ああ、そういうの大切ですよねぇ」

「天野さんは、本当に教えるのが上手い方ですよねぇ。院生たちも、みんなすごく分かったって言ってました」

「丁寧でしたしね」

 私も分からないなりに、そう思った。


「私も、おかげさまで、この前のようなパターンなら、もう学生たちに教えられますよ。本当に簡単でした」

「じゃあ、院生たちが分からないと言ってきたら、近藤先生のところへ聞きに行くように言ってもいいですか?」

「勿論そうしてください。喜んで教えます。……今、誰かに教えたくて仕方ない時期です」

 近藤先生が笑う。

「まるで、子供みたいですねぇ」と私も笑った。


「先日は、私たちが帰ったあと、お二人で喫茶店に行かれたのですか?」

「はい、アクセスの特徴とか色々とお聞きしました。ああいうプロの方に、直接お聞きできて幸いでした」

「良かったです」

「矢野先生には、研究会とか講習会とか天野さんを紹介していただいたりと、本当に感謝しています」

「うちの院生たちにもプラスになったことですから、感謝していただくことではありません」


「でも、全て私の我儘な要望に応えて下さって、先生にもお手間を取らせてしまったのは、本当に申し訳ないと思っています」

「まあ、私は大したことしてないですから」

「それらを纏めて、先生への感謝を込めて食事にお誘いしたいのですが、ご迷惑でしょうか?」

「……迷惑だなんてことはありませんが、先日みんなでご馳走になりましたから、もうあれで十分です」

「あれは、天野さんたちへのお礼です。今度は矢野先生へのお礼をしたいのです」

「ありがとうございます。……それじゃぁ、その内、機会があったらということでいいですか?」

「はい! ありがとうございます」

 近藤先生が頭を下げた。


 うん、やっぱり、早速口説きに来たわね。直ぐに乗ってしまうと私が待っていたことになるから、この位の雰囲気でいいかな?

 一応は断ったし、無下にできないから、形式的にだけ了解した雰囲気にしておいた。これなら、受けたわけでもなく断ってもいないから、曖昧で何とでも言い逃れはできる。

 どちらにしても、数日前に食事会をしたばかりなのだから、普通は断るでしょ? 近藤先生としては、断られなかったという事実が大切なのよね、きっと。私、駆け引き上手なんじゃないかな? これから先は、どうやって私を口説いてくるのだろう? わくわくしてしてきた。



 帰りに結心さんのお店に寄った。結心さんは、いつも明るくテキパキと動いて、スタイルもいいし美人で可愛いし、看板娘の(かがみ)みたいだ。

 早速、今日の報告をした。


「コーヒーはさっき飲んで来たから要らないわよ」

「え? もうデートしたの?」

「違うわよ。私の研究室に夕方来られたから、食事のお礼にインスタントコーヒー出したのよ」

 と笑った。

「あはは、ケチな女め」

「研究室には、それしかないの。喫茶店に行こうと誘われたけど、それを断ったのよ」


「まあ、デートに誘うのは、まだ早いわよなぁ、普通は。私は即日だったけど」

 結心さんが笑う。

「そしたら、私の淹れるコーヒーなら何でも美味しいに決まってる、だって」

「あからさまに持ち上げてくるわねぇ」

「だから、『お口もお上手ですね』って言ったら、『本音です』だって」

「あはは、真面目なやりとりだなぁ。おヌシたちには、冗談という言葉はないのか」


「それで、色々と私にも世話になったから、今度は私を食事に誘いたいだって」

「せっかちなんかな?」

 結心さんが頭を捻る。

「分からないけど、……金曜日に行ったばかりなのに、続けて行かないわよねぇ、普通は」

「そう。満腹状態だよねぇ。太ってしまうわ。あ、でも天野さんに誘われたら、私毎日でも行く」

 と結心さんが笑う。

「ま、それは理解できるわ。私と近藤先生とはそうじゃないものねぇ」


「それで、何と言って断ったの?」

「『ありがとうございます。その内機会があったら』って答えた」

「あはは、『その内機会があれば』なんて、女が断る常套句(じょうとうく)じゃない」

 結心さんが笑う。

「あ、そうか! でも、近藤先生は『ありがとうございます』ってお礼を言われたよ」

「言ったほうも言われたほうも、どっちも気が付いてないんだったら、いいんじゃない?」

 結心さんに呆れられた。


「だけど、一気に攻めてくるわよねぇ。……あまり頻繁だと、学校で噂になったら困るわ」

 私は少し不安になってきた。

「そうよなぁ。……研究室で、いつも誰も居なくなった時間帯に二人でコーヒー飲んでたとか」

「それは困る。かと言って、二人で喫茶店に行けば誰が見てるかわからないしねぇ」

「食事もそうだよね。これが社内恋愛の難しいところなのよ」

 経験豊富な結心さん。


「結心さんは、どうしてたの?」

 と先輩にお伺いする。

「そりゃ、ラインとか携帯電話で連絡は頻繁に取れるから、少し離れたお店を数カ所確保していたよ」

 結心さんは胸を張る。

「私、携帯電話とかスマホとか持ってないからねぇ」

「今どき、年寄りでもスマホ持ってるよ」

「でも、私は死ぬまで持たないことにしてるの」

「頑固な年寄りだのぉ」

 結心さんが笑う。

「誰が年寄りよ、失礼な!」

「生きた化石じゃ」

 結心さんは呆れる。

「いいの、何とでも言って」


「そうなると、どうやって連絡とるのかというと、昔ながらの『メモ』しかないじゃん」

「メモをどうやって渡すのよ」

 経験ない私は質問する。

「自分で考えられぇ。だって、私たちは現代社会で生きとるんよ。昔のことは知らぬ」

 結心さんに突き放された。

「哀れな子羊に救いを! アーメン」

「何が子羊よ。自分が頑固なだけじゃない」

 結心さんは冷たく言い放った。


「そうだ! 彼は車だから、どこかの街角で拾って貰えば、行動範囲は広いものねぇ」

「近現代のデート手段ね。デートの日時はどうやって伝えるの?」

「え? 一難去ってまた一難かぁ。それは、彼に工夫して貰おう」

 他力本願な私。

「面倒くさい女を口説く男はいるのかねぇ?」

「失礼な! 文明に汚染されていない純真無垢な高嶺の花なのよ」

「崖の上に咲く危険な()()の花じゃな」


 まあ、付き合うことになってから心配すればいいし、そのときは彼が考えてくれるだろう。



読んで頂きましてありがとうございます。


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