【イラスト付き】婚約破棄にも無関心なおおざっぱな姉だけど、ほんの少し可愛いとこあった!?
XI様主催「男前ねえさん企画」参加作品です。
異世界恋愛ジャンル。
「男前ねえさん」と「テンプレ展開の婚約破棄」を5,000文字でおさめた努力作。
文字数の都合上、本作ではあんまりふざけた人は出てきません。
「全然『男前ねえさん』じゃないじゃん」というご指摘、甘んじてお受けいたします。
たくさんのご感想、誤字脱字報告、いつもありがとうございます!
【ウバクロネ様】から「男前ねえさん」の素晴らしいイラストを賜っております!
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1.
うちの姉は大雑把すぎる。
婚約者が公然と浮気しているのに、少しも気にしない素振りをしているのだから、本当に理解できない。
姉の婚約者のアントン第三王子は、最近はどこの夜会に行ったって、お気に入りのフリージア・マルクス男爵令嬢を侍らせている。
アントン王子が姉をエスコートしている姿なんて、もうこの半年見ていない。
フリージア嬢だってめちゃくちゃだ。
どこの社交界に出ても、アントン王子はもう自分のものだと言わんばかりに腕を絡ませ、もたれかかるようにして歩いている。
男爵家と王家じゃ家柄が釣り合わないのに!
でもそんなアントン王子とフリージア嬢に鉢合わせしたって、姉は一瞥しただけで全然気に留める様子はない。
「お姉さま、アントン王子に一言申し上げた方がいいんじゃありませんか!?」
と私が注進しても、姉は笑うばかりだ。
「気にすることじゃないよ」
「でも、このままお姉さまが婚約を破棄されるようなことがあれば……」
私は心配していた。
王家との婚約には我が家の命運がかかっていたから!
でも、姉は軽く私にウインクをしただけだった。
そりゃ、姉はアントン王子の好みとは違うのかもしれない。
フリージア嬢に比べたら、姉は背がすらっと高かったし、骨太で動作もきびきびとしていた。まあ、武芸を少々嗜んでるしね。
髪の毛だって、フリージア嬢のふわふわピンクブロンドとは似ても似つかぬ、まっすぐ黒髪を腰まで垂らしている。
でも、仮にも家同士が結んだ婚約。
特に王家と公爵家という格式ある家の婚約なのだから、そんないい加減にあしらわれていいわけじゃないでしょう?
そんな風に思っていたら、その日は来てしまった。
心配していたことが本当に起きてしまったのだ。
アントン王子が姉に向かって婚約破棄を宣言したのだ。
それも公衆の面前で!
あのときのことは本当に忘れられない!
アントン王子の誕生日パーティだった。
きれいに生えそろった緑の芝の内庭に、美しい細工のテーブルがいくつも並べられていて、沁み一つない白いテーブルクロスが心地よい風に揺れていた。
例によってアントン王子が姉をエスコートしないので、私はぴったりと姉にくっついていた。
姉が婚約者とかでなければこんな茶会には出ないのに、と心の中で毒づきながら。
そうしたら、急にあのアホ婚約者が姉に向かって、婚約破棄を宣言しやがったのだ。
「こんなに嬉しい誕生日はないかもしれない」
アントン王子は、スピーチを求められると、ニヤニヤしながら話し出した。
「すごく嬉しい誕生日プレゼントだ。なんと皆さまの前で婚約破棄を宣言できるなんてね!」
私は呆気にとられた。
はい? 今、何て言った?
招待客たちもぎょっとして息を呑んだのが分かった。
皆が姉の方をばっと振りかえる。
しかし姉が、わはははっと大声で笑いだしたので、私は余計に驚いてしまった。
姉は、アントン王子に軽く手を挙げて見せた。
「了解! 気にすんな!」
私は姉の言葉に心底びっくりした。
『気にすんな』って、誰が誰に向かって言ってんの!?
私はもう怒りで頭がおかしくなってしまったのかもしれない。
だからアントン王子に向かって声をあげてしまった。
「何を一方的なことを仰っているの!? 婚約を破棄できる理由がどこにあるというのです!?」
姉は私が何か言うとは思っていなかったようで、さすがに驚いたらしい。
私の腕をぱっと掴んだ。
しかし、私の声はもうアントン王子に届いていたから、アントン王子はこちらを睨みつけながら、憎しげに言った。
「おや、私の言葉に異を唱える貴族がいたとは。そりゃそうか、逆賊だものねえ」
アントン王子の横にいたフリージア嬢もニヤニヤし出した。
「あらぁ、元婚約者殿の妹さんかしらぁ? 嫌われ者なのに、さらに嫌われるようなこと言って。本当、姉妹そろって行儀がなっていませんのね」
「行儀?」
私は目の前がくらくらした。
公爵令嬢として様々な社交をこなしてきた私に、行儀のことをいうつもりですか?
しかしフリージア嬢は自分が優位に立っているとの自信から、私を堂々と見下ろした。
「あなたのお姉さまのケイトレット様はねぇ? 浮気していらっしゃったのよ! しかも相手は平民。サルヴァ―商店の息子! はしたないったらないわ」
浮気? 姉がするはずないし。
「それを言い出したら、ご自分は?」
と思わず言い返しそうになったが、姉の手がもっと強く私の腕を掴んだので、私は言葉を発する前に姉の顔を見た。
「行くよ」
姉が小声で私に言って、くるりと背を向けて会場を立ち去ろうとした。
「ほら、図星だから言い返さないのよ」
フリージア嬢が執拗に言葉を浴びせかけてくる。
「お姉さま!」
私は姉を追いかけながら呼んだ。
「気にするな」
姉はちょっと私を振り返って、軽く笑った。
「私はサルヴァ―商店の息子なんて知らないし。大方、アントン王子から何かの口約束でももらって、そういうことにしたんだろう。商家なら王家との取引実績は喉から手が出るほど欲しいはずだ」
私は「そういうことじゃない」とむしゃくしゃした。
「お姉さま! きちんと言うべきです! こんな一方的な婚約破棄はありませんわ!」
「そうかな」
姉はふっと笑った。
「そうかな、じゃないですよ!」
私は姉の悠長さにむっとする。
うちの姉は大雑把すぎる。
2.
それからしばらくして、姉が失踪した。
私は愕然とした。
浮気という不名誉なレッテルを貼られて、公衆の面前で婚約を破棄されて、そして何かを反論するでもなく失踪した姉。
世間じゃすっかり、姉が悪いことになっている。
まあもともと嫌われているのだ、うちの家は。
でも、誓って言えるけど、姉は決して浮気なんてしていない!
何より、王家と我が公爵家の縁談という取り決めは!?
我が公爵家の立場は!?
私は人を雇って姉を探させた。でも見つからない……。
何もかも腹が立ったから、せめてサルヴァ―商店の息子とやらをとっちめることにした。
私は身分を隠してサルヴァ―商店とかいう店を訪ねた。
サルヴァ―商店の息子は、そう吹聴しろとでも言われているのか、最初こそ
「僕はケイトレット・ドリスコール公爵令嬢の恋人なんです」
と意気揚々と言っていたが、細かく問い詰めていくと、やっぱり設定が甘い。
あちらこちら話のつじつまが合わなくなってきて、ついには
「すみません、ドリスコール公爵の令嬢とは会ったこともありません」
と涙ながらに白状した。
「誰に頼まれたの。アントン王子?」
と私が聞くと、サルヴァ―商店の息子は縮こまって「はい」と小声で答えた。
「あなた、そんな嘘の片棒を担ぐ真似をして、分かってるんでしょうね?」
私はここんとこずっとイライラしていたので、どんな目に遭わせてやろうかと考えていた。
「アントン王子とはどんな取引をしたの?」
「うちは機能服を取り扱っていますから、商店から軍服を卸させていただくことに……」
私は驚いた。
「軍服? 新調するの? 全兵士の分?」
「はあ……」
サルヴァ―商店の息子は歯切れの悪い言い方をしている。
「すごいムダ金ね!」
私は呆れた。
「ムダ金などと言われますと、私どもの立場がありませんが……」
サルヴァ―商店の息子は汗をかいた。
「まあ、それだけの儲け話を目の前にぶら下げられちゃあ……」
私はため息をついた。
「……まあ、いいわ。じゃあ、軍服卸しなさいよ」
私が急に折れた姿勢を見せたからか、サルヴァ―商店の息子は気味悪そうにこちらを見た。
何を考えているのか探ろうとしている目だ。
だけど私はそのままサルヴァ―商店を大股で出て行った。
その後の話もよく知ってる。
この国の王宮は、王家だけで全て話が決まるわけじゃないのだ。
アントン王子が言い出した軍服の新調が、大臣の反対にあい白紙に戻ったので、サルヴァ―商店の息子は半狂乱になってアントン王子に訴えたらしい。
「軍服の話は白紙ってどういうことですか! もう一小隊分、作ったのですよ!」
アントン王子は苦渋の顔をした。
「すまない、まさかこんなことになるとは……」
「軍服なんて他で売れません、大赤字ですよ!」
サルヴァ―商店の息子は真っ赤な目で怒っている。
「軍服の新調など、本来なら大臣の議題に上がるような内容ではないんだが……」
アントン王子は唇を噛んだ。
元婚約者ケイトレットは……ドリスコール大臣の娘だったな。
これはあの婚約破棄騒動の報復だ!
サルヴァ―商店の名前から話がばれて、ドリスコール大臣の邪魔が入ったのだ!
「とにかく、王宮の決定として軍服は買えなくなった……」
「こんな茶番は許されない! 今回の件は商店の組合で話させてもらいます! あなたの信用は地に落ちるでしょうよ!」
サルヴァ―商店の息子は鬼の形相で捨て台詞を吐くと足早に王宮を出て行った。
さてアントン王子の方は、話をつけなければと思い、ドリスコール大臣を呼び出した。
その呼び出しに私が出向いたので、アントン王子はだいぶ驚いたようだった。
「君は……」
「はい、あなたの元婚約者の妹ですわ。先日は散々な誕生日パーティにお招き下さりどうもありがとう」
私は厭味たっぷりに言った。
アントン王子は顔を顰めた。
「ふん。そのことはどうでもよい。それよりもサルヴァ―商店の件だがね」
「どうでもよい?」
私はアントン王子の話を遮った。
「まさかアントン王子は隣国との休戦協定をお忘れじゃありませんでしょう?」
「おまえ……」
アントン王子は青ざめた。
私が釘を刺しに来たことに気付いたらしい。
「先の隣国との戦で大敗を喫したので、この国に不利な条件で休戦協定が結ばれました」
私は意地悪く言った。
「その時の条件で、隣国がこの国の大臣を数名任命する権利を得ました。戦争を未然に防ぐために。その大臣の一人がうちの父ですよね?」
アントン王子の顔は醜く歪んだ。
「……なんて恥知らずな言い方だ。隣国の犬め! おまえたちドリスコール家に愛国心はないのか!」
「隣国の犬ですって? ドリスコール領は国境に接していますから、もともと戦争反対派です。それなのに戦争をごり押しなさったのは王家ではありませんか!」
私はぴしゃりと言った。
「それを一部の愛国派と称する貴族たちは、うちをまるで敵国の回し者かのように毛嫌いして!」
「実際、回し者のようなものではないか!」
アントン王子は叫んだ。
「いいえ! 王家の独断政治をやめてもらいたいだけです! でもうちもあまりに評判が悪いのは差し支えありますから、王家と縁戚を結ぶのは有りだと思っていました。それを、あなたは一方的に婚約を破棄したのです!」
私はアントン王子を詰った。
そうしたら、急に
「セザンヌ?」
という飄々とした声が聞こえた。
「え!?」
私は思わず振り返った。
そこにいたのは失踪した姉だった。
……軍服を着ている。
私は目を見張った。
「何、お姉さま、その恰好」
確かに姉は武芸を嗜んではいたけれども。
「何って、ちょっと隣国の方へ」
姉はさらっという。
「隣国!?」
私の声は上擦った。
「それより、セザンヌ。そんなにアントン王子を責めるもんじゃないよ」
姉は悪戯っぽく窘めた。
「国王の命令でも隣国の犬のドリスコール家の娘なんかと結婚したくないさ」
「お姉さま、そんな言い方」
私は言い返した。
「それより、お姉さまはいったい何しに隣国へ!?」
「ん? ああ、ちょっと隣国を征服しに」
「は!?」
私があんまり情けない顔をしていたのだろう。
姉は腹を抱えて笑い出した。
「嘘。私、隣国の王家に嫁ぐことになりました。ここへは元婚約者殿に挨拶に」
「隣国の王家に嫁ぐ!? で、軍服!? 意味不明なんですけど」
私が喚いたので姉はまた楽しそうに笑った。
「すまん、先の戦のときこっそり私も前線に出ていてね。そこで隣国の王子を拾ってさ。人質交換でバイバイになった上、急に私に変な婚約者があてがわれて落ち込んでたんだけど。晴れて婚約が破棄されたからさあ」
と言うと、姉は急に照れたように頬をピンク色に染めた。
「ふふ。逆プロポーズしてきた……」
「で、オッケー貰ったってこと!?」
私は絶句した。
「そう。忠犬ハチ公みたいに待っててくれてたみたいだ」
姉はピンクの頬を自分の両手で挟んだ。
アントン王子もポカンとしている。
「ごめんね、ドリスコール家は隣国王家の縁戚ってことで『堂々と敵』になっちゃったけど!」
姉は屈託なく笑った。
そして姉はアントン王子に向かってニカっと笑った。
「いいじゃん、アントン王子! あのふわふわ男爵令嬢。お似合いだって」
私はため息をついた。
うちの姉は大雑把すぎる。
お読みくださいましてありがとうございました!
XI様主催「男前ねえさん企画」参加作品です。
(XI様、企画運営と参加のご快諾、ありがとうございます! この場を借りてお礼申し上げます。)
企画参加は本当に勉強になります。
こちらも、まずは辞書で「男前」という言葉の意味を調べるところからはじめました……(汗)
『男前ねえさん』書けたかな……? 『男前ねえさんもどき』っていう別の生き物かな。
それでも……もしほんの少しでも面白いと思ってくださったら、
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作者の今後の励みになります。
よろしくお願いいたします!