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14.飛翔

15話目です。

 メイアを預けてそのまま部屋に戻った。

 レナーにはああ言ったけど、


 ジュエルとはもう一週間、会話も無い。


 イリアも敢えて二人を組ませようとしない。



 フローラへのこの遠征は三度目の植民惑星の調査遠征になる。

 嬉しくなかったと言えば嘘になる。

 イリアについていけるようになった事が、一人前に見てもらえる事が。


 だけど、それが一体何だろう。

 今もちっとも自由じゃ無い。

 自由に翔ぶことも出来やしない。

 いつだって数時間だけ調査のため。


 能力者は地球へは行けない。

 文明化された初期の植民惑星も。

 けれど、調査船や辺境の開拓惑星では受け入れてもらえ、歓迎すらされる。


 辺境には危険が多い、普通人にはない能力が共同体の生存率を格段に引き上げることは知られている。

 能力者の中にはそうした発展途上の惑星で魔法使い(ウイザード)として科学と迷信の間で危ういバランスを取って暮らす者も居るらしい。

 だけど、迫害の記憶を持つ者にその選択肢は無い。

 一歩間違えればまたあの魔女狩りのシーズンがやってくるのだ。


 死ぬまでこうやって星々を廻り続けるしかないのだ。

 それ以外の選択肢をずっと夢見てた。人っ子独りいない草原で暮らすこと。

 ずっと夢見て、ずっと諦めてた。

 でもここでなら、フォーレなら認めてくれるかもしれない、受け入れてくれるかもしれない。


 ゆっくりと服を脱ぐと下着姿でベッドに座る。

 深い深呼吸を繰り返すと酸素酔いで視界と思考が朦朧となる。

 揺れる身体がベッドに倒れ込む頃には、心は夜空の中に居た。

 この一週間の中途半端な却ってストレスと疲労が溜まるだけの探査ではなく。

 自分だけの為に、自由に、気ままに。


 夜空を翔ぶ。

 月の無いフローラの夜を。

 星明かりだけでは暗すぎて、足元も見えなかったあの晩が嘘のようだった。


 草原が淡い緑に彩られている。生命の発する耀きが見えていた。

 森の木々がまるでイルミネーションを巻きつけた沢山のクリスマスツリーのように輝く。

 色も形も大きさも違う果実マナの飾りをぶら下げて。

 星明かりの下だからこそ、その淡い耀きが美しく映るのかもしれない。


 夜空を翔ぶ。

 高く、低く。

 草原を、森の中を、雲を越えた遥かな高みを。

 一人翔び続けた。




 パパラパッパパー

 控えめな目覚まし(ファンファーレ)が意識を覚醒させる。

 下着姿でベッドに横倒しになったまま目覚めると、すこしガッカリしている自分に気付いた。


 夜間飛行を終えて戻った記憶はなかった。

 先日のようにフォーレがどこか見知らぬ場所へ連れ出してくれるのではないかと、心のどこかで期待していた自分に改めて気付かされる。


 身支度をして、レナーの部屋の前に立つ。

 ノックに返事が無かったので扉を引いてみる。

 案の定、鍵は掛かっていなかったらしく、静かに扉が開く。

「メイア迎えに来たんだけどー」


 部屋の中に頭を突っ込んで声を掛けると思いがけない光景に目を丸くする。

 身体を滑らせて部屋に入り後ろ手に扉をしめる。

 薄暗い中、ベッドではなくどういうわけか床で眠る二人に思わず苦笑が漏れてしまう。

 すがり付くように胸元に入り込むメイアの癖は知っていたが、それを後生大事に抱え込むレナーの姿はちょっと予想外だった。

 レナーの腕を避けてメイアの鼻をつまむ。


「ファガ…」

 あまり魅力的とは思えない発声と共にメイアが焦点の定まらない視線をさ迷わせる。

 メイアの動きに、レナーも目を開きうろんな表情を向ける。

 こんな気の抜けた彼を見るのは初めて。


「シャワーに連れていこうと思ったんだけど…、それとも二人で行く?」

 このなつきっぷりなら平気だろうって思ったら案の定メイアは視線をまわしてレナーを見てこっくりと頷く。

「ーちょっと、何言ってんですか。さっさと連れてって下さい」

 残念ながらその提案はレナーには不評なようで早々に却下されてしまう。


「そ、じゃあ行こ」

 まだ呆けたままのメイアの手を引っ張って立たせるとシャワールームへ向かう。

 

 

「…助かった」

 レナーが呟く、だが安堵するのはまだ早かった。

「今晩もまたお願いね」

 閉じたばかりの扉を開いて顔を覗かせた涼子がにこやかにそう言うのをレナーは呆然と聞いていた。




 十日が過ぎ、フォーレは勿論、メイアの船の痕跡すら見つかっていなかった。

 メイアの話を聞く限りそれほど遠くから来たとも思えなかったのだが。

 捜索範囲を以前のさらに100倍に広げ、一千キロ四方の地域を対象とした。

 広がった捜索範囲をカバーする為に、調査艇もドローンも時間と航続距離の許す限りフローラの空を駆け回ったが、どの森にもフォーレも、船の痕跡も発見することは出来なかった。



 十一日目の朝、ラウンジにはいつもの見慣れた顔ぶれが揃っていた。

 あれ以来、涼子は調査艇と自室を行き来してラウンジには寄り付かなくなっていた。

 いつもの通り大量の朝食を片付けると、イリアはキーパッドを叩き、見慣れた鳥瞰図をスクリーンに呼び出した。


 ついで鳥瞰図に探査領域を示した地図が重ねられる。

 全面捜索完了のグリーンに色塗られた地図が出来上がる。

 右隅の捜索完了率はちゃんと100%の表示でなんの問題もない。


 黙って何やら考え込むイリアをアルバートも不審げに見ている。

 すでに涼子が見つかってるのに今更こんなもの呼び出してどうしようというのか?


 クルーが見守る中、イリアはキーパッドから続けて指令を出す。

 スクリーンに縦横二本の輝線が表示される。

 二本の線が交差する辺りでなぜか輝きは薄れ消えている。


「やっぱりね」

 イリアはうっすらと笑みを浮かべると再びキーパッドを叩き何やら指示をする。

 右すみに表示されていた捜索完了率の小数点以下の桁数が増える。

 100.0000…小数点以下六桁目の0が表示されるその瞬間、表示全体が書き換えられる。


 99.999999


 その数字が表示されるとイリアは満足そうに笑みを浮かべた。

 スクリーンに表示された縦横二本の輝線の交差しているはずの場所。

 なぜか、交差しているはずの縦横のゲージラインが消え失せているその場所。


「此処に何があるのか調べてきて」

 イリアの指先がその交差点を示す。

 その指先すら消え失せてみえた。

続きは明日です。

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