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10.発見

11話目です。

『つまり、あのロケット、メイアの言うところの『ツリー』は、植物でありながらその基本構造が極めて固体燃料ロケットに似通っているということです』

 レナーは、そういって聴衆を見回した。

 着陸船のラウンジと調査艇のラウンジに別れたまま会議は始まった。


 着陸後三回目の定例ミーティング。

 スクリーンに着陸船側の三人が平板に表示されている。

 タチアナは鎮静剤を投与されて眠っているらしくて、参加していない。

 まあ、どうせ居ても引っ掻き回すだけだからいらないけど。


 レナーの説明は、メイアから聞いたことを裏付けただけだった。

「つまり何、まったく自然の産物だってそういうことか」

 そう言うアルバートの表情はなんだか怒った雄牛みたいに見えた。

『そうなりますね。操縦装置も付いていないごく単純なものですよ。言ってみれば多少大きめのロケット花火というところですか』

 アルバートの剣幕を気にもしないでレナーは続ける。


「デイビッドはロケット花火に殺られたって言うのか」

『アルバート!』

 テーブルに両の手をたたきつけるように立ち上がって、スクリーン越でレナーを睨むアルバートをイリアが叱りつける。

 顎の筋肉を盛り上げながらそれでもアルバートは大人しく腰を下ろす。

 伏せた瞳の奥には暗い炎がおきのように燃えている。


『それで、そのロケットは何のために空を飛ぶんだ?』

 不承不承ながらアルバートが腰を下ろしたのを見てジュエルが替わって問いかける。

 その疑問にレナーは無言で人の頭ほどの大きさの楕円の塊をテーブルに乗せる。

『これは回収した破片の一部で、ロケットのたねです。多分ロケットは種蒔きをしていたのだと考えられます』

 それもメイアに聞いた。


「じゃあ、最初のロケットは?」

 思わず口を挟む。

「外宇宙へ種蒔きに?」

 これはメイアから聞いた時には浮かばなかった疑問。

 あの時は最初のロケットの事を覚えていなかったから。

『外宇宙を目指していたのかどうかは判りませんが、外惑星などの他の天体を目指していたのではないかと思われますね』


 たねは真空にも耐えられるし、大気圏突入も出来るらしい。

 他の惑星へしゅを広める為に宇宙へ飛び出したというのなら、それは人類のやっている事と同じ。

 植物しか見つかっていないこの星でも宇宙を目指して飛び立つものが居る。

 それは何と言うのか生命の神秘のように思えた。

 人が技術を持たない太古の昔から月や星の世界に想いを馳せ、こうして遥かな惑星まで版図を拡げようとしているように、この星の植物は物理学の知識もなくそれでも持てる能力をフルに使い高みを目指している。

 結局、レナーの報告の結論は、ロケットを打ち上げた異星人は居ないってことだった。



『じゃ、次にあたしからあのメイアって子の事を話させてもらうわ』

 イリアが立ち上がる。今頃、当のメイアは柔らかいベッドで安らかな寝息をたてているだろう。

『現在まで取得できた生理的データからは彼女は地球人類としか思えないわね』

 血液とか、マイクロマシンの集めたデータぐらいしか無いけれど、それでもイリアはそう断定した。


『メイアーその名前から失踪船の乗員名簿を検索して一致したのは一名。メイア・フランクリン。二十年前に消息を絶った移民船マリー=テレーズ号の乗務員クルーの一人娘、当時十歳。あの頃かなり問題になった一連の欠陥船の一隻ね。今のところ彼女はそのマリー=テレーズ号の唯一の生存者って事ね』

 当時、実用化されて間もなかった超光速宇宙船が行方不明になるって事件が何件か発生したらしい。

 結局、行方不明になった船の製造元が倒産して後はうやむやになった。

 ほとんどが民間の移民船で、責任者もみんな船に一緒に乗って行ったから。


「えっと、二十年前に十歳って別人じゃ無いのか?とても三十には見えないけど」

 ジュエルがぼけた発言をする。

「移民船が亜光速で暴走していたのなら体感時間はほんの数か月程度だろう。真っすぐこの星に向かっていたとも思えないしな」

『何があったのか、それは聞けてないのよね?』

「聞いてない」

『丸一日何してたの?』

 若干非難が入ってる。

 けどまあ、仕方ない。


「ーメイアと楽しく過ごしてた」

「どういう事?」

『だって、仕方ないじゃん何にも覚えて無かったんだし』

 投げやりな発言に一同が怪訝な表情をする。

「船の事も、調査の事も覚えて無かった。連絡取らなきゃって思ったのはアルバートが来て無線機から声が聞こえてから。それまで無線機の存在すら忘れてたから」


『それって…』

「そう、あたしがジュエルに言った事聞いてるかな?並みの能力者百人分の力を持った相手が居るって。多分それ、あたしはあのままメイアの遊び相手を一生続ける所だったのかも」

『その催眠だか何だかが解けたのはどうして?』

「ロケットの爆発。それでデイビッドが死んだからじゃないかな」


 あまりにも直截ちょくさいな言い方にジュエルが表情をかえる。

「あのとき、誰かが物凄く慌ててるのが分かった、狼狽して混乱して後悔してた。ーだから、あたしを救い出してくれたのはデイビッドかもしれない」

『それじゃあ、あのまやかしが解けたのもその所為せいって事…』

 イリアが呟く。涼子の救難信号が受信されていたことや、未捜索範囲が残っていることに気付かなかったらしい。


 システムは正常に動作していたし、救難信号が受信された事も表示していたのに、それを見ているはずの人間には伝わっていなかったらしい。

 ドローンの映像にもしっかりと映っていたのに全く見えていなかった。

 ヘリや調査艇は何故か綺麗にあの原っぱを避けて飛んでいたしね。

 目の前にあるものが見えないなんてどうしようもないよね。


 でも、それも皆あの爆発と共に消え失せた。

『そうすると、電波障害が発生したのも同じ原因なのでしょうか?』

「電波障害って?」

 レナーの言葉に涼子が質問を返す。

『爆発の直後に物凄い磁気嵐が発生したのよ』

 レナーの答えを待たずにイリアが答える。磁気嵐?

『惑星磁場が広範囲で乱れ、通信が途絶したんです。ほんの十分ぐらいでしたけれど。太陽風の影響かと思われたのですが軌道上では変化は観測されていなかったので少し奇妙だなって思っていたんです』


 軌道上の母船には何の影響も無くて、大気圏内でだけ異常が発生していたって事?、

『惑星規模の現象を引き起こす力が有るって言うの?』

 イリアの言葉はかなり懐疑的。そりゃあそうよね、百人くらいの能力者じゃあそんなこと出来っこない。けど…

『ー百人どころじゃ無いって事か』

 ジュエルがぼっそりと呟く。


「…そのとんでもない能力ちからを持った相手ってのはあのメイアって娘なのか?」

 アルバートが暗い瞳のまま訊ねる。

 もしそうなら、全ての黒幕は彼女って事になる。

「ー分からない、メイアはフォーレって名前を出してる。でもあたしはフォーレに会ってないし、メイアも会ったこと無いって言ってる」

「会ってない?」

「そ、フォーレは恥ずかしがりの妖精なんだって」

 少々シリアスな空気が辛くなってきて少しおどけたように話す。

「あの爆発の時のメイアの様子を考えると、メイアとフォーレは別人って気がするけど」

 アルバートは表情を変えずに聞いている。


『少しはっきりさせて置きたいんだけど』

 イリアが改まって口を開く。

『その誰かは涼子に催眠をかけて拉致し、何らかの方法で私たちの視聴覚を騙し捜索を妨害した』

 イリアは的確、簡潔に事象を整理する。

『そして、私たちには対抗手段が見当たらない。前回は偶然回避できたけれど、次もそう旨く行くとは限らない。この現状で調査任務を続けるべきなの?』


「まだ何も分かってないのに尻尾巻いて逃げろってのか?」

 アルバートが唸り声を上げる。

 そりゃあそうだろう、乗務員クルーが一人死んで、それがただの自然現象だと言われ、船長は調査任務の中止を言い始める。

 何も決定的な事は分かっていないのに始まってすらいない任務を放棄して帰還するなんてアルバートが許す筈がない。


『分かってからじゃ遅いかもしれないのよ』

 溜め息をつきながらイリアが答える。

 勿論アルバートが反対するのは分かっている。

 それでもイリアの立場と性格上検討せざるおえないプランなのだろう。


『現時点では任務放棄するには十分な理由とは言えないな。確実な脅威が迫ってるってんならともかく、現時点では危険性についても可能性の域は出てない』

 ジュエルもアルバートと同じ意見のようだ。

『可能性かもしれない、でも私たちはメンバーを一人失ってるのよ』

「あれは事故だって、自然現象だって言ったんじゃなかったか?」

『誰かが、何者かが仕組んだ自然現象かもしれないわ』

「もしそうなら、尚の事帰れるもんか」

 アルバートの言葉にジュエルも頷く。

 パイロット二人に反対されて、それでも船長権限を振りかざすほどイリアにも確証があるわけでもない。

 取り敢えず調査任務は継続されるらしい。


「おまえの心配してることは分かる。また騙されるんじゃないかって事だろ。だが、機械には全部記録されてるんだろ?だったらいっそ警備も防衛発動も全部AIに任せちまえよ」

 乱暴なアルバートの物言いだけど、言ってることは決して間違いじゃない。

 暫くは当直を着陸船側の四人―ここにいない一人が使い物にならなければ、三人―で回さないといけなくなる。

 視覚も聴覚も混乱させられる可能性があるのならそもそも当直なんて居ても無意味。

『機械で検知したって私達が気づかないままって事も考えられるのよ』

「だから、対応も何もかもAIに任せちまえって言ってんだよ。ドンパチ始まってまで気付かないって事も無いだろう」

 そんな説得というか、暴論にしぶしぶながらイリアも同意し、AIに警備行動全般を任せることになった。



 その夜デイビッドの葬儀を行った。無論、隔離中のメンバーは調査艇のラウンジのスクリーン越しでの参加だったけれど。

 棺の中にはデイビッドの私物を入れたらしい。遺体はばらばらでどうしようも無かったそうだ。

 イリアは立派に神父の役を勤めたと思う。

 タチアナは泣いていたみたいだった。

 そんな彼女を少し羨ましく思う。

 泣けるのは誰かが優しい手を差し伸べてくれる事を知っている人間だけだから。

 泣いても、倒れて、血を流しても誰の手助けもない、そんな状況に陥った事も、想像することも無い幸せな人間だけだから。

続きは明日です。

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