season2-34 嘉義の空/内通者 1
9月7日11:00 デングリーヅ連邦台湾地区・嘉義市 連邦総軍司令部 上空
10:30に敵機接近を告げるアラートが鳴り響いて司令部防衛が開始されて30分が経過した。総軍司令部を発見し、攻撃を仕掛けたのはアメリカ軍のFMQ-1 プレデターであった。FMQ-1 プレデターはRQ-1/MQ-1 プレデターの派生型であり、戦闘用無人機として開発された。主な武装はAGM-114 ヘルファイアである。
「隊長、報告通り敵司令部を確認しました。対空攻撃があったため司令部であることに間違いありません。破壊しますか?」
「今は機体保全のための防衛に徹せよ。全機撃墜などという結果は生み出したくないからな。各員、己の手で無人機を操り敵司令部からの攻撃を避けると共に、目標を各自撃破せよ!」
「了解!」
この米軍部隊は高雄市を占領した第8海兵師団第1無人航空中隊である。第1無人航空中隊は第8海兵師団唯一の無人機を扱う部隊であり、人員は60人、作戦機60機。つまり1人1機である。中隊長のアンドリースは空挺部隊が占領した高雄空軍基地(旧高雄国際空港)のモニタールームにて各機各隊員に指示を伝達していた。
米軍によって解放された高雄市には第8海兵師団以外で第173空挺師団、第330空挺旅団、第1〜第3歩兵師団が展開中となっており、デングリーヅ連邦側が定めている最終防衛ラインとしている台南・台東・嘉義を攻略する予定である。
「中隊長!敵司令部からの攻撃が停止しました!」
「分かった!こちらの被害状況を報告せよ!」
「敵側からの攻撃による回避行動により54機が回避成功!6機が撃墜されました!」
「6機か。こちらの無人機を撃墜するとは向こうも中々やるな・・・総員、敵司令部を素材に戻してやれ!」
「イエッサー!」
6機のFMQ-1が撃墜されたものの、残る54機が嘉義市の総軍司令部に対して総攻撃を開始した。AGM-114 ヘルファイアによる攻撃により連邦軍総司令部の建物は崩壊寸前であった。
「敵司令部、まもなく崩壊します!」
「良くやった諸君。台湾解放ももう少しだ。頑張るんだ」
「任せてくださいよ中隊長!」
しかし、1時間ほどして再び無人機に対して対空攻撃が再開されたため攻撃を一旦中止し、回避運動を取った。連邦側からの「絶対に守ってやる!」という強い意志を感じるがなぜ1時間もの間、攻撃を停止していたのかは不明である。また、第1無人航空中隊の隊員はなぜ中隊長が連邦軍の総軍司令部の位置を知っているのか分からなかった。副中隊長のブラックはアンドリースに質問を投げかけた。
「中隊長に質問があります」
「何だ?プライベートの話は後でにしてくれ」
「違いますよ。中隊長はなぜ敵の司令部をこんなにも早く見つけたのですか?高雄市にあって我々の攻撃により撤退したとは聞いているのがどこに行ったのかは分かりませんでした。なぜ中隊長は分かったのですか?」
この質問にアンドリースは言葉を詰まらせた。何か隠しているのかとブラック副中隊長は感じ取った。
「中隊長?」
「お前だけに話すが・・・」
アンドリースはブラックに耳元で小声でゴニョゴニョ話していた。周りの隊員は「こんな大事な時に何やっているのだろうか」という視線を浴びた。
「〈実はだな連邦軍の中に内通者がいてそいつと俺は繋がっているんだ。名前は確か・・・ベルスイと言っていたな〉」
「〈中隊長はどのようにしてそのベルスイと名乗る男と接触したのです?〉」
「〈ベルスイってやつは台湾の防衛局の長官でな、高雄攻略中の夜間に俺のところに来て亡命を希望したらしい。つまりそういうことだ〉
「〈なるほど・・・亡命ですか。面白い展開になってきました。これは台湾解放に一歩近づいた気がしますよ〉」
「あぁ。くれぐれも安易に外部に亡命希望者がいるという情報は流すなよ?向こうにもバレたら厄介だ。今後我々は無人機による総軍司令部破壊後、亡命希望者保護のための作戦行動を開始する」
小声で話していたが聞き耳を立てていた隊員がほとんどであったため仕方無く他の隊員にもこの件を伝えた。60人規模の部隊ではあるものの、負ける気がしない。少数精鋭部隊として亡命希望者救助・保護を目的とした行動が始まるのである。しかし、一つ問題があった。
「さて、ベルスイという男をどのように助け出すかだが・・・プレデター-1。現時点での敵司令部周辺の敵兵は?」
「確認できる範囲ですと・・・300人はいるかと思われます。敵軍の本拠地がある以上、嘉義市に潜入出来たとしても質では勝っても数で負けてしまいます。ここは支援部隊の要請を出さなければ・・・」
連邦軍総軍司令部のある嘉義空軍基地(旧嘉義空港)だけで300人の連邦軍兵士がFMQ-1に取り付けられている探知機で確認された。アンドリースはグラスに嘉義市全体の連邦軍の総兵力の確認を命じた。
「中隊長、今嘉義市には5000人以上の連邦軍兵士がいるかと思われます。1個旅団対1個中隊ではいくら我々の練度が高かろうが装備が強かろうが全滅する可能性が非常に高いです。今高雄市湖内区に展開している第3歩兵師団とかもなく到着する第24歩兵師団に作戦参加要請を申請します」
「頼んだ。そして諸君、自衛隊も台北や花蓮を開放している。我々は遅れを取ってはならない。最低でも1ヶ月でこの台湾解放作戦を完結させるぞ!」
「イエッサー!」
アンドリースら第1無人航空中隊は亡命希望者であるベルスイを要保護者と認定した。閃光弾を打ち上げ、作戦開始の合図を何とかして伝達した。
同刻 嘉義市 連邦軍総軍司令部
「(あの光は・・・遂に始まるんだな・・・さぁ、準備を始めるとしよう)」
「ベルスイ局長、敵占領中の高雄方面より閃光弾が放たれました。我々に対する直接的な被害は確認されませんが・・・一体なんでしょう?」
「そうか。気にする必要はない。今は目の前の事に集中しよう。余計な邪念は捨てるんだ。良いな?」
「はっ!」
ベルスイは何とか誤魔化した。もし仮にバレた場合、命は済まされない。そして亡命するためには何とか生き延びなければならないのであった。
台湾解放編も後半戦に突入です!ベルスイが亡命する理由、日米の今後の作戦、国際同盟の動向、ライジング主席の目的などなど・・・次回もよろしくお願いします!




