9-36 八丈島奪還計画
5月27日、大島総理は加藤防衛大臣らと共に島嶼部奪還計画を立てていた。1ヶ月ほどボルドー軍の占領下に置かれている状況と現在のボルドー軍の戦況を含め、地元住民の安全を最優先にするべくして八丈島奪還計画会議が進められている。
「現在、ボルドー軍の八丈島占領部隊は小型偵察機のpeopleカウントではおよそ5万人と推測されます。また、捕らえられている現地の自衛官もいると思われます」
グローバルホーク改の新要素・peopleカウントには指定した地点にいる人間がどれくらいいるかを計測する機器である。空自から送られてきた映像を元に約5万人規模の部隊が常駐している。
「地元住民の安全は取れているのだろうな?この世界での戦争法には捕虜又は非武装の民間人に対する虐殺又は人道に反する体罰を固く禁じている。そのようなことがあった場合すぐに現地の司令官を拿捕か取り調べをせよ」
「了解です。また当作戦計画は国際同盟軍司令部に報告した上で実行可能です」
「分かった。今月中には完成し、来月6月中旬を目処に計画を進めていく」
自衛隊は現在、国際同盟の指揮下に置かれている。それは米軍も同様である。
「それと以前、航空母機を撃墜作戦敢行前に彼らは改良された八丈島空港を補給地点としていたことが判明しました。また、空港周辺が要塞と化しています。仮に奪還作戦が順調に進んでいったとしても空挺付近で籠城される可能性が高いです」
ボルドー軍は八丈島占領以降、八丈島空港を含めた辺り一帯を改築し、軍事要塞化させている。そのため空港内で籠城し時間を費やさせられる可能性も十分考えられる。また、民間人を盾にするかもしれないのである。
「ふむ・・・作戦に投入する人員はどれくらいだ?」
「5万人と相対するのはかなりの苦戦が強いられます。そのため陸上自衛隊第1、第3、第4師団と国際同盟から派遣された第18・19軍団の合計6万7000人規模の部隊を派遣します。また、海上自衛隊の護衛艦を呉と新大湊から出します」
「なるほど・・・海上自衛隊の護衛艦が横須賀から出せないのは何故だ?」
「以前の横須賀近海の海上戦闘において第1海上師団に所属する艦艇134隻のうち、大半が改修中であるため出せる艦が無い他、八丈島占領の際に数隻の護衛艦が鹵獲されたとの情報も入っているからです」
また、米軍の駆逐艦も鹵獲されていることから米軍部隊の派遣も米国政府と話し合われている。さらに上陸予想地点には対空兵器が置かれている可能性がある。そのため航空自衛隊による空爆による安全確保が求められる。
「作戦開始の際、どこの方角から上陸するかは決めているのか?」
加藤防衛相は作戦計画資料を見て話し始める。
「水陸機動団を神湊港と海水浴場付近から2個連隊に分かれて上陸します。また、上陸地点制圧完了後に普通科連隊の部隊を投入、そして第1空挺団を八丈富士に、第2空挺団を鉄壁山司令部壕付近に降下させ八丈島奪還任務に入ります。また、民間人の危険が及ばないようにしなければいけません」
「分かった。町内での戦闘も考えられる訳だな?」
「はい。そうなります」
八丈島市内には数多くのボルドー兵士が警戒活動に当たっている。そのため市内地に降下しようものなら射撃の的になってしまうのである。
「予想される被害の数は?」
「分かりません。ですが双方ともに多数の犠牲者を出すことになるでしょう。ひとつの島で11万人の人間が銃口を向け合うのですから」
「そうだな。それと、奪還が成功した場合と失敗した場合の予想は出来ているのか?」
「既に予想済みです。成功した場合、自衛隊・米軍兵士・第18・19軍団の隊員6万人のうち3万人を警備隊員として配備し、残りの3万人を帰還させます。失敗した場合、鹵獲されないよう撤退等を行います」
決して全員が生き残れる訳ではないが、負傷した隊員が確認された場合は、戦闘終了後に町立八丈病院か自衛隊中央病院などに搬送する。また、戦況が悪化した場合に備えて食料輸送艦の派遣も決まっている。
「それと出港地点から八丈島まで長距離移動が考えられます。そのため八丈島奪還作戦敢行前に三宅島と青ヶ島と御蔵島に寄港し、隊員らの休息ポイントとするため6月のこの3島の住民以外に立ち入り規制を敷く予定です」
「分かった。慎重に頼む」
新大湊から八丈島、呉から八丈島まではかなりの距離があるため数回燃料補給が欠かせなくなる。離島での作戦であるため休息を挟まないと隊員の体調に影響を及ぼすこともある。
「最後にひとつ聞くが加藤防衛相、この作戦に投入する部隊人数は把握できたが、車輌・航空機・艦艇はどれくらいになる?」
「我が国からは水陸両用戦闘車38両、兵員輸送車40両、輸送艦15隻、ホバークラフト揚陸艦40隻、護衛艦20隻、航空機130機を投入します。また、米軍の水陸両用車20両、兵員輸送車13両、食料輸送艦・車30、そして第18,19軍団から水陸両用車20両、兵員輸送車20両、燃料補給艦10隻と計画しています」
少し派遣部隊数が多い気がするが少ないよりは良い。また、通常の戦車も投入されることになっているが水陸両用車中心の機械化部隊となっているため通常戦車投入は数量程度である。
計画会議が進められている中、会議室にて新たな報告が飛び込んできた。
「加藤防衛相、グアムのポラリスポイント潜水艦基地から米軍潜水艦4隻が出港しました。八丈島に向かうものと思われます」
「了解少し早いですが総理、こちらの計画書を国際同盟に提出してきます」
「分かった。よろしく頼むよ」
その後、加藤防衛相は川野外相と林新世界相に計画書を渡し、国際同盟軍の司令部に計画書を提出した。国際同盟はこの計画書を受理し、6月の作戦計画実行が可能となった。
「泥沼化するのだけは避けたい・・・・」
大島総理は八丈島での戦闘が長期戦となることだけは避けてほしいと強く願った。また、新大湊・呉の両基地から八丈島奪還部隊である自衛隊統合任務部隊が準備を進めていた。




