9-29 自治区解放作戦
航空母機撃墜はボルドー国にとって大損害となった。そのため一部の地域ではこの戦争は負けると悟り、独立を促す運動が各地で発生した。
ボルドー国南西部 ザールラン自治区
ここザールラン自治区では長年政府から奴隷のような扱いを受けている。男女ともに厳しい労働を課せられている。しかし、航空母機の墜落とボルドー国の劣勢の報を聞き、バイ自治区長は夜に区民400人を集めて集会をした。
「現在我々は残虐的かつ人道上に反する扱いを受けている。これは由々しき事態であり、我々が黙っていれば一生このままだろう。また、国際同盟軍はこの国のコーデュロという地方を占領中である。我々は今後彼らと接触を試みる予定である。全員でこの苦境から脱しようではないか!」
「そうだそうだ!」
「みんなで武器を持って戦おう!」
「だがどうやって彼らと接触するんだ?」
ザールラン自治区からコーデュロまでの距離は日本で言うと東京ー名古屋の距離である。徒歩でいくにしてもタイムロスが発生するため航空手段や車両手段が最善であるかもしれない。また、ザールラン自治区には区警署がある。
「この区警署を襲撃するんだ!武器を奪うんだ!」
「しかし彼らは小銃を保持している。我々では対処できまい」
「じゃあどうすれば!」
区民は困窮に立たされている。一個でも多くの打開策がほしいが案が思い浮かばない。
「おい、何だあの光は!」
沿岸部に位置しているザールラン自治区から見えたのは5隻の船とそこから出てくる何隻ものの小型船であった。
「もしかして国際同盟軍じゃないのか?」
「そんなはずは・・・あるかもな」
「我々がここにいるというのを知らせよう!」
ザールラン自治区沖にいるのは海上自衛隊の護衛艦「じょうそう」「しもつけ」「あわじ」、武蔵連邦海軍陸軍輸送艦「騫黴」「些少」であった。国際同盟軍の人権局からザールラン自治区民が非人道的扱いを受けている報告があったため自治区解放任務部隊2600人が編成された。
海上自衛隊護衛艦「じょうそう」陸海上監視室
「目標地点より救難信号を受信!ザールラン自治区で間違いないと思われます」
「了解。ホバークラフトを出港させ、上陸させよ」
護衛艦「じょうそう」艦長・管野猛は連邦海軍陸軍輸送艦から陸自戦闘員と武蔵連邦戦闘員を乗せたホバークラフト20隻が出された。
「ザールラン自治区はインフラは整備されているものの全ての権限は区警が握っている。区警は重装備であるため注意しなければ」
ホバークラフト20隻が出港後、20分程度で上陸に成功した。警戒をしながら第1陣の200人が上陸した。
「自治区解放統合任務部隊長・陸上自衛隊第1団長の桜橋尚輝です!」
「武蔵連邦軍第1副団長のマトキ・カグラです!」
「助けに来てくれたんですか?ありがとうございます!」
救援部隊を目にした自治区民は大粒の涙を流した。それくらい酷使されていた労働を受けていたのだろう。
「先ほど救難信号を確認したため上陸させていただきました。初見ですのでどの地点を制圧すれば良いのか教えてください」
「分かりました。区警署がこの先にあります。しかし武装を施しているため我々だけでは太刀打ち出来ない状況です。何とかしていただけませんか?」
「了解です。総員、戦闘準備!目標地点まで前進せよ!」
「我々にお任せください!」
前進中、桜橋はあることに気がついた。
「なぁマトキ。何か気づかないか?」
「あぁ。インフラが整備され過ぎている。これは結構大変な重労働であっただろうな」
「そうだな。お!見えたぞ!」
森林を移動しながら進むと前方に区警署と記された看板を発見した。
「ここだ。総員、合図と共に攻撃を開始せよ!」
「5,4,3,2,1,攻撃開始!」
攻撃開始の合図と共に携帯型の対物ミサイルを発射し、署の見張りを襲撃した。
「武器を捨て投降せよ!」
「なっ!貴様らは同盟軍!我らに楯突くとはいい度胸だ!」
「しゃべるな!これ以上の抵抗は許さん!」
「くっ」
見張り警備兵は武器を捨て、投降した。
「突入!」
区警署に170人が突入した。17人は規制線を引き、13人は周辺警戒を行った。
「区警署内部に侵入。これより署兵の確保に向かう」
『了解』
順調に進んでいるのが逆に変である。何か嫌な予感がする。すると先頭にいた滝谷隊員が何かを踏んだ。
「なんだこれは!うわくせえ!」
「あっはは!見事に引っ掛かったようだな!」
現れたのは防護服のようなものを来ていた兵士がいた。兵士は武器を滝谷隊員らに向けた。
「このガスは対人殺傷ガス。防護服を着れば問題ないが無防備だと皮膚が変色する症状が現れる。我が国の保健局化学課によって作られたガスだ!」
「くっそ!体に力が!」
「全員構え!射て!」
防護服を着た区警兵が滝谷隊員ら170人に向けて2階から射撃した。体育館程度の広さであるが逃げ場はない。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」
区警兵の攻撃により身動き取れなくなった170人は全滅した。その姿は地獄と化していた。
「さぁ答えよ!内部の兵士たちの保有兵器を!」
「言わん!」
「言え!」
桜橋は見張り警備兵に尋問していた。しかし一向に答えなかった。何か都合の悪いものでもあるのだろうか。
すると内部から悲鳴や悶絶する声が聞こえてきた。
「何だ!今の声は!内部に何がある!答えろ!」
「ふっふっふっ!この中には大きめの部屋に300人程度入れる部屋がある。そこにはな、対人殺傷ガスがあるんだよ!」
「ガスだと!?」
「今の声からするに奴ら全員今頃死体になってるだろうな!」
桜橋は怒りに震えた。
「お前らはこうしていつも自治区民の命を奪っているのか!許さん!」
「ふん!煮るなり焼くなり好きにしろ。その代わり貴様らも死ぬからな!」
その後、見張り兵士を捕虜として護衛艦に運ばせ、一時撤退した。また、この事を艦長と国際同盟に報告した。
「ありったけの防護服を用意せよ!敵は殺傷ガスを使用する!」
「殺傷ガスだと?!」
一時艦内は混乱していた。また、あとから合流した米海軍救難輸送艦に自治区民を載せ、米本国の軍病院に搬送させた。
「作戦を変更する。防護服着用の上で再上陸する。少しでも被害を防ぐため防弾の防護服を用意してある。全員分ある。直ぐに装備せよ!」
「了解!」
最悪の事態に備えて防弾防護服を1500着用意してあったのが良かったが最悪の事態となってしまった。
「これは最も危険な任務だ。後回しにしても最終的にはここで戦闘を行う。ここで弱気になっているようなやつは艦内に残れ」
ホバークラフトが出る前に話をし、誰も逃げ出すものはいなかった。非常に戦う顔をしている。
「総員、再上陸次第速やかに区警兵を無力化せよ!」
「了解!」
そして再び上陸後、防弾防護服の最終点検を行い、区警署に侵入した。
「これは酷い・・・」
170人がやられた痕跡があった。すると再びガスが噴射される音が聞こえてきて区警兵の声も聞こえてきた。
「懲りもせずまた来やがったか・・・ほう防護服か。さすがに学習しているな」
桜橋は区警兵に先制射撃を開始した。言葉より先に体が動いた。
「総員、無力化開始!ガス噴射官を破壊せよ!」
射撃開始と共に区警兵も応戦した。しかし防弾防護服であるためガスも弾も通らない。
「何故だ!何故当たらない!」
応戦中の区警兵もどんどん無力化されていく。
「貴様ら汚い手を使いやがって!」
「それをこちらの台詞だ!あなた方を非人道的行為の容疑で拘束する!」
桜橋の放った弾丸が区警兵のリーダーの脚部に命中する。
「くそ!ここで終わる訳には・」
「確保!確保!」
そして桜橋らの部隊は何とか区警兵を確保した。また、対人殺傷ガスの粒子が回収され、国際同盟の危険兵器調査委員会に提出した。
「こちら桜橋。作戦終了、作戦終了。敵区警兵の身柄を拘束した。直ちに連行する」
『了解。危険な任務であったがご苦労だった。帰路も警戒して帰艦せよ』
その後、区警兵20人の身柄を国際同盟の調査団船に引き渡し、護衛艦「じょうそう」などに帰還した。しかし、滝谷隊員らの遺体は発見されなかった。
「この殺傷ガスの調査結果が出るのを待たなければならない」
「ですね・・・」
この戦闘によりボルドー側区警兵26人が捕虜、5人死亡。日本側は170人が死亡という結果となった。
「滝谷隊員を含めた170人に黙祷!」
1分間の黙祷後、占領部隊80人を配置しザールラン自治区は多数の犠牲を払いながらも解放された。この自治区は後にザールラン共和国として独立する。