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うちゅうの友だち ニコとピコ

作者: 奥田 繭


 9才の誕生日に、わたしとニコは出会った。それがどちらの夢の中なのかは、よく分からなかったけれど、わたしたちは会った瞬間に友だちだった。

「あら、こんにちは。あなたはだあれ?」「こんにちは、わたしはニコ。あなたは?」「わたしはピコ。……ニコ、どうしてわたしのお部屋にいるの?」 

 ニコは不思議そうにわたしの部屋をぐるぐると見まわして、分かんない、とだけ言った。 

 でもニコには怖がっている様子もなくて、どちらかと言うと目がキラキラの楽しげな匂いがプーンとした。だからわたしも楽しくなって、ニコにわたしの部屋にあるものーー最近ハマっているゲームや自分で描いた想像上の生き物の絵なんかーーを見せてあげた。 

 でもニコが一番興奮したのは、窓の外を見た時だった。「ねえねえピコ、あのけむりはなあに?」「え? ああ、あれはいつもの海嵐。ニコのお家の近くには海嵐、ないの?」 ニコはしばらく考えてから、こんなのはない、と答えた。「ねえ、ここってサバクなの? それとも海なの? ピコのお家はサバクみたいな海の中にあるの?」 わたしには、「サバク」の意味が分からなかった。なんだかパサパサしたおかしみたいでノドがかわく。「ニコ、あなたはどこから来たの? お家はどこ?」「……だよ」 

 今度はニコの答えの意味が分からなくて困ってしまった。ニコはわたしの様子を見て、それから急になにかに気づいたようにこう言った。「ちきゅう。わたしは地球に住んでいるよ」 それですべてがはっきりした。ワオ! ニコは地球人だったんだ! 

 それからわたしたちは、外に探検に行くことにした。ニコはちょっと小さかったから、わたしのお古の外出キットでピッタリのサイズだった。手を入れて、足を入れて、最後にヘルメットを頭からすっぽりかぶせて完成! ニコは「すーはーふー」と息をすったりはいたりしてから、あははと笑った。すーはーふー、すーはーふー! 二人でいっしょにすーはーふー! 地球人ってちょっとだけ変わってて、楽しい! わたしたちは手をつないで、秘密のトンネルや秘密の穴ぼこや秘密の橋を見に行った。誰かを案内するのは初めてだったから、少しドキドキした。これは夢の中なんだってこと、気づいていたけれどね。 でも全部ほんとうのこと。だから「おとなたちにはナイショだよ」って、約束したんだ。 

 

 次にニコと会ったのは、10才の誕生日の夢の中だった。しかも、今度はわたしがニコのお家に、つまり地球に遊びに行ったんだ! 

 ニコの部屋はわたしの部屋に少し似ていて、かわいいぬいぐるみや本がたくさんあった。ニコはお気に入りの本を見せてくれたけれど、わたしには中の字はさっぱり読めなかった。「多分わたしたち、テレパシーで通じているんだね」とニコが大発見みたいに言った。テレパシー……なんてすてきな言葉なんだろう! 

 今度はニコがわたしを外に案内してくれた。地球では、外出キットなしで外に行ける。だからわたしは初めてヘルメットなしで家から出た。最初は不安だったけど、ニコがいるからすぐに気にならなくなった。というより、地球には不思議がいっぱいで、楽しすぎたから! 

 地球には、(星ずかんで見たことがある)ショクブツがたくさんあって、トリという動物が歌ったりお友だちを呼んだり、忙しそうに空を横切ったりしていた。 ニコはわたしの手をにぎりながら、「あれは雲と太陽。雲が浮いている青い部分は空で、そのもっと先はうちゅうだよ」とか、「あれはイヌであれがネコ。あれはムシだよ」とか、たくさん教えてくれた。ニコ以外にも生き物がたくさんいるってなんかすごい。 

 それに、同じ地球人でも、少し見た目が違ったりしておもしろい。トリやイヌやネコやキやハナやムシが色々なのと一緒で、地球はたくさんの色や音や匂いにあふれているんだね。 


 こんなふうにして、わたしとニコは毎年誕生日になると、夢の中でお互いの星を行き来した。わたしたちが15才になるまで。 

 それからはもう、どれだけテレパシーを送っても、ニコには会えなかった。 

 最後の言葉「また来年!」は、15才のままちゅうぶらりん。 


 やがて16才になり、20才になり、それ以上になり、どんどん時間は流れたけれど、ニコと過ごした地球の思い出は、わたしの夢の中で色あせることはなかった。ニコの温かい手の感触は、わたしの手の奥にずっと残っている。目をつぶれば、ニコが教えてくれたすてきな名前のハナの香りが、私たちのうちゅうを包む。甘くてやさしくてなつかしい夢の香り。 

 そして大きくなったわたしは今、ようやく乗れた船の窓の外から見える、憧れのキラキラ星に向かってつぶやくんだ。ーー待っててねニコ、待っててね地球。ピコが地球に着くまで、あと少しだからね。


【了】


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