悪戯なサイコロゲーム番外編~素直の先にあるものは~
この物語は、短編「悪戯なサイコロゲーム」の続きのお話です。
気に入って頂けると幸いです。
それでは、物語、スタートです。
外はすっかり、冬景色の12月。
吹く風はますます、寒さを加速させていく。
そんな季節、秋は部活終わりの修司と二人、いつもの屋上へ続く階段の踊り場で過ごしていた。
「…ん…ちょ…」
階段の踊り場の壁際で、秋は座り込んでいた。
そんな秋に覆い被さるように、片方の手を壁につけた修司が呟く。
「なに?」
「だから、…ん!」
何かを言おうとした秋の唇を、修司はまた塞いだ。
修司は目を閉じ、秋の唇の甘さを堪能する。
そんな、修司に対して、秋はなす術もなく、骨抜きにされてしまう。
(ダメだ…体の力が抜ける…。)
修司が与えてくれる、甘いキスに、秋は抵抗できない。
最近の修司は、変わった。
秋が修司に告白してから、秋に対しては、前より喋るようになったし、いつものポーカーフェイスで居ることが、少なくなった。
秋の前では、よく笑顔を見せてくれるし、考え事をしている時も、分かりやすくなった。
そして、何より変わったのは、秋に対して、積極的になった。
修司は、部活が終わると、秋の待つ、屋上の階段の踊り場に急いでくる。
最初は秋と、他愛のない話をしているが、すぐに秋を求めてくる。
音楽を聞いているイヤホンを外され、耳元に修司の手が伸びてくる。
そのまま、耳元をくすぐった手は、秋の頬に触れ、反対の頬に口づけをする。
そして、秋の目を見て、「好き。」と呟く。
それを合図にするように、秋の唇に、長くて甘いキスをする。
秋は、そんな修司も、修司がしてくれるキスも、嫌ではない。
修司が秋の唇に酔っているのをみると、安心する。
ただ、恥ずかしさだけは、どうしようもなかった。
その恥ずかしさの原因も、秋には分かっている。
でも、修司はどうなんだろうと思う。
自分と同じように…。
しかし、そんな考えはいつも、キスの途中で、覆されてしまう…。
秋は、今日こそはと、自分を奮い立たせた。
「…ん…ちょっと…たんま…。」
「…え?」
秋は、キスの途中で、修司の肩を押した。
急にキスを中断された修司は、小さく、驚いている。
秋は、下を向いたまま、今までずっと言いたかった事を口にした。
「お前、ちょっと、がっつきすぎだから。」
そう言われて修司は、一瞬止まってしまった。
しかし、すぐに理解して、クスクスと笑いだした。
「ほんとの事だろ❗オレ、いっつもいっぱいいっぱいなんだからな!」
笑われた事で、秋の照れ隠しが加速して、言わなくても良いことまで、口走ってしまった。
「いつも?」
修司が優しく確認してくる。
それ事態、秋にはもう、恥ずかしい。
「…そうだよ。」
秋はそっぽを向いて、呟くように答える。
「いっぱい、いっぱい?」
「…悪いかよ。」
恥ずかしさに顔を上げられなくなった秋を、修司はぎゅっと抱き締めた。
「すみません。」
修司が優しく、囁く様に言った。
「悪い事、してないのに、謝るな。」
「どっちなんですか?」
修司は、秋を抱き締めたまま、またクスクスと笑った。
秋は、抱き締められる心地よさにしばらく、身を委ねた。
修司は秋の髪を優しく撫でている。
(気持ちいい。)
いつも、修司の腕の中にいると、気が緩んでしまう。
今日も、その例外ではなかった。
秋は、空っぽになった頭のまま、思った事を口にしていた。
「お前はいつも、余裕だよな。」
「…そんな風に見えますか?」
「見えるよ。なんかこう、落ち着いてるって言うか…。」
(このまま、聞いちゃおっかな。)
ずっと、気になっていた。
「お前さ、初めてじゃないよな?」
「え?」
修司の髪を撫でる手が、止まった。
「別にそれが嫌だとかじゃないんだ。ただ…」
秋は顔を上げ、修司を見たが、修司をまっすぐ見ることが出来ず、目線を反らした。
「ただ?」
修司の優しい声に、秋は泣きそうになった。
「悔しいなって。」
そう言って秋は、修司の胸に顔を埋めた。
なんで、ほんとの事を言うのって、こんなに恥ずかしいのかと、秋は思う。
そして、なんでこんなに切なくなるのか。
秋は自分が修司にとって、最初なら良いのにと思っていた。
だが、そんな考えは、キスをする度に消えていく。
秋をリードするように優しくキスをする修司が、初めてじゃない事は、なんとなく想像できてしまっていた。
そして、秋の髪を優しく撫でながら、修司が言う。
「すみません。中学の頃、付き合ってた子がいたんです。向こうから告白されて、初めてだったから、好奇心で付き合って。…キスもして欲しいって言われてしたのが、最初で。でも、オレ、後悔したんです。」
「…なんで?」
秋が小さく聞いてくる。
「本当に好きな人と最初にしたかったなって。」
その言葉に、秋は、顔を上げた。
(本当に…好きな人…。)
そんな秋の顔を修司は、両手で包みながら、言った。
「だから、先輩とは、いっぱい、いっぱい、キスしたくて。たまらなくて。いつも、我慢出来ないんです。」
そう言って、修司は照れたように笑った。
秋は、その修司の言葉と表情に、一気に胸がいっぱいになった。
(なんで、いつも、こんなに、まっすぐなんだよ。)
修司の素直な言葉は、いつも、秋をドキドキさせる。
そして、切なくさせる。
でも、その事を伝えるのは照れ臭くて、秋は、少し意地悪な言い方をした。
「オレ、結構大変なんだけど。」
「…すみません。」
修司は秋の頬を包んでいた手を離し、申し訳無さそうに呟いた。
秋は、修司がほんとに、しょげているように思えた。
そんな修司に秋が言った。
「オレ、お前が初めてだから…。」
「え?」
修司は驚いた顔を見せた。
「付き合うのも、キスすんのも、お前が初めてなの!…だから、余裕なんて、ないんだよ!バカ!」
秋は、言いながら、膝を抱えて、顔を隠した。
(言っちゃった。)
ずっと、言わないつもりだった。
こんな恥ずかしい事。
そして、修司にキスされる度に恥ずかしくてたまらない理由まで、言ってしまった。
「先輩」
膝を抱えて、顔を隠す秋の頭を修司がポンポンとする。
「なんだよ。」
「顔、見せて。」
「やだ。」
まるで子供のような秋に、修司は困ったような顔をしながらも、秋の膝を抱える手にキスをした。
「お前!」
修司の予想外の行動に、秋は思わず、顔を上げた。
秋が顔を上げた隙に、修司は秋の両サイドに手をつき、距離をさらに縮め、秋を覗き込んだ。
「そんな事、言われたら、我慢できなくなるでしょ。」
そう言って、また秋がうつむかない様に、下からすくい上げるように、キスをした。
「ん!」
秋は突然の事に、目をぎゅっと閉じた。
しかし、修司は、それだけですぐに唇を離した。
「え?」
いつもと違う流れに秋は、思わず閉じていた目を開け、声を出してしまった。
そして、修司が言った。
「なるべく先輩が困らないように、ゆっくりするから。先輩も少しずつ、慣れて下さい。」
修司は優しく微笑んだ。
その修司の想いに、秋はまたドキッとさせられた。
(まったく。天然め。)
でも、そんな修司が好きなんだと、再認識させられる。
それがまた、悔しくて、秋は拗ねたように言った。
「子供扱いすんな。」
そんな秋を見て、修司は笑顔で返す。
「すみません。」
「まったく。」
そして、二人で額を合わせて、笑い合った。
秋は思う。
修司になら、どんな自分も見せていける。
二人の恋はまだ、不安定さを持ちつつも、少しずつ前に進んで行く。
読んで頂き、ありがとうございました。
他にも同じく、BL作品で
短編 「悪戯なサイコロゲーム」
「忘れられない彼~君との時間は~」
「忘れられない彼~あなたが知らない僕~」
を投稿しております。
まだの方は、是非、読んでみて下さい。