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7

屈んだその時、ベストの胸ポケットに入れていた手鏡が落ちた。手鏡は落ちながら、太陽の光を反射して、三つ向こうの木から飛び降りようとした男の目を攻撃した。


「うわあっ」と声を挙げ、男が怯む。その隙に俺は木から飛び降り、無事着地した。どこも打ってないし、痛くないし、足もしびれてない。そのままゴールへ走る。

速い。速い速い。俺、こんなに足速くない。木を登る時も思ったけど、身体能力が上がってるとしか思えない。痛覚もない。


「おめでとう!星に祝福された者よ!」


司会のおじさんが叫ぶ。群衆が歓声を挙げる。その波をかき分けてマージウが近づいてきた。


「すごいすごい!本当に一番になったわ!さすが私のキョウスケ」


マージウは飛び跳ね、大変興奮した様子でキャーキャー騒いでいる。私の、と言っているが、俺たちは付き合っているんだろうか。


「って、あわわっ 何言ってんだろ、私」


顔を赤くし、慌てるマージウ。…付き合ってる訳ではなさそうだ。

マージウの隣に来た司会のおじさんが、星の実を見せるように俺に言ってきた。ズボンのポケットから星の実を取り、手を開いて見せる。星の実は微かな震動でふわっと割れ、金色に輝く中身が現れた。くすんだ緑色だったのに、これは綺麗だ。


じっと星の実を眺めていると、「これは…!」とおじさんが驚いている。


「星掴み取り祭が始まり数百年、あの言い伝えは事実であったか…!」


言い伝えとは何だろう。星の実は金色じゃないのか。星なんだから。


「星掴み取り祭の歳時記に残る伝承さ。これまで金の星の実をとった奴が出てくる、なんてことはなかったもんで、ワシはてっきりただの伝説なのかと思っていたわい。

『金の星を掴む者、“希望の星”に選ばれし者よ、星の運命(さだめ)を担うべし。諦めぬ限り希望は消えない。向かう先に五つの星が交わるだろう』」


それはつまり…


…どういう事だろうか。具体的に何をするのか教えて欲しい。


「『星の実を神聖神殿の祭壇に収めよ。子の意志を紡げ』と伝わっている。

伝承の大半は何を意味しているかは分からんが、まずは神殿に行ってみるといい。神聖神殿はここから西にある王都・ユーシャングリラの郊外、静寂の森の中にあるよ。まあ、一度村に帰って支度をしてから向かった方がいいだろう」


こうして俺は、希望の星に選ばれた者に渡されることとなっていたという錆びに錆びた古い剣を貰い、観衆の歓声を浴びながら村に帰った。帰る途中で剣を振るってみたが、草も切れなかった。なまくら過ぎる。村の出口に居たおじさんが「魔物出る」って言ってたのに、これで神殿まで行くのか。大丈夫なのか。


家に帰ると朝と同じく、母親しか居なかった。


「あら、お帰りなさい。お祭はどうだった?」


『お祭りのことを話しますか?』


「え?星取りに出たですって?それで金の星を手にして、神聖神殿に?」


祭での事を話すに『はい』を選ぶと、母親は信じられないといった顔をしていたが、俺が古びた剣を持っているのを見て、暫く黙り込んだ。


「………………」


きっと息子が危険な旅に出ることを心配して…


「そう…運命なのね。頑張ってらっしゃい。あなたならできるわ」


そう言いながら路費にと3,000イェンを握らせてきた。物分かりの良い母親である。


「出発は明日ね?準備をしたら今日は早く寝なさい。ああそうだわ。ちゃんと村の皆に挨拶しておくのよ?」


理解力と対応力の高い母親との会話を終えると、村の道具屋で傷やら毒やらに効く薬や食料を買った。どれくらい買って良いか分からなかったから、有り金で買えるだけ買っておいた。でも武器や防具はハージマハリ村には売ってない。このラフな服装となまくら剣1本で行くしかないんだろう。まじか。


「星の実取ったんだって?え?金の星だったって?あの伝説の?」

「そりゃすげーや」

「あんたは英雄様になるかもな」

「村の誇りだ」

「神聖神殿に行くの?いいなー。あそこは魔法使いの聖地だからね」

「王都も近いよね」


村人の大半は俺に羨望の言葉を向ける。特に女子達は王都への憧れがあるのか、テンション高く話しかけてくる。そして思った。


ハージマハリ村、若い子がまあまあ居るじゃないか。


「ねえ、キョウスケ。ちょっと話せないかな?」

 

女子に囲まれていた所に、マージウが来た。オーマ町から帰る間もずっと黙ったままだったのに、何だろうか。取りあえずうなずくと、マージウは俺の腕を引っ張って行く。


「………」


村の外へ来たが、マージウは前を向いて立ち止まったまま、こっちを見ない。何も話さない。そして帰りたくてもこっちは身体が動かなかった。


「キョウスケ、王都へ行っちゃうんだね… 私が星取りに出て、なんて言ったから…」


ようやくボソボソと喋り始めた。正しくは神殿に行くだけだと思ってんだけど。何だかマージウは自分が押して俺を星取りに出したことを後悔している様子だ。


「私、聞いちゃったの。お祭りのおじさんたちが、星の子が現れたら申し出るようにって王様から言われてたから、明日にでも連絡しなきゃって話してるのを。そしたら、キョウスケは王都に行って…王様にお城で働くように言われたりしたら…しばらく帰って来れなくなっちゃったり…王都にはきっと可愛い子がいっぱいいて…

………

………っ!

ねえ、私も一緒に…」


マージウはこちらを向かず、重い雰囲気のまま、何か重いことを口にした。この子と旅をするんだろうか?


「なんてね!冗談!何だかずっと一緒に居たキョウスケが、星に選ばれたって言われて…急に遠くの存在になっちゃった気がしただけ!」


急にこちらを振り向き、マージウは取り繕う様に笑う。

 

「ごめん、疑っちゃって。キョウスケが何処か行くなんて、そんな訳ないのにね。星の使命なんてちゃちゃっと終わらして早く帰ってきてよね。あんまり遅いと私追いかけて行っちゃうんだから!」


俺は似たような感じの言葉とこんな笑顔のセットを、今まで何度も見たことがある。女の子達がよく見せる顔だ。気にしていないと言っているが、ホントはめちゃくちゃ気にしてて、違うよ、大丈夫だよ、そばに居るよって言いながら態度で示して欲しいと思ってる。なんだ…こんなところまでリアルなんだ。


冷めるなーとか思ってたら、ゆっくり景色が暗くなった。


『2時間経過しました。ここまでの歩みを記録しますか?』

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