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「だよね!出るって言うと思った!私、応援してるから、頑張ってね」
首を縦に振った途端、マージウに背中を押されて参加者の列の最後尾に付いた。そのまま星の木の前まで係のおじさん達に誘導される。
「勇気ある参加者諸君!いよいよ星掴み取り祭の一番の目玉、星取りの始まりだ!ルールは分かっていると思うが、念のために説明するぞ。
20本並んだ星の木がある。どの木から登り始めるか自由、選ぶのは早い者勝ちだ。鐘の合図で登り始めろ。どんな方法で登ってもいい。運が良けりゃ木の天辺に星の実が生ってるはずだから、それを取って一番早くここへ戻ってきた奴が勝者だ。まあ、精々怪我しないように気を付けるんだな」
説明を終えたおじさんが木を指さす。
「さあ、どの木から登り始めるか決めな」
広場に生える木を見上げる。どの木も幹がまっすぐに伸びてなくて、直角に曲がったり、隣の木と交差したりして、どこから登り始めたらどこの天辺にたどり着くか分からない。それに、ここからでは実があるかなんて見えやしない。
他の参加者は我先に走って行き、これは俺が先に選んだ、いや俺だなど、言い争っている。実がどれに生ってるなんて分かんないんだから、どれでもいいじゃないか。俺は誰も選んでいない、一番右端の木の前に立った。
どの木を選ぶかってのは、あんまり意味が無いんじゃないだろうか。それより、どうやって登るかだ。俺、リアルで木登りしたことないんだけど。
目の前の木の肌に触れてみた。何か本で見た、杉の表面に似てる。木の皮が薄いささくれ状で、摩擦力はありそうだ。
幹の太さは、大人3人が腕を広げた位。手や足を掛けられそうなくぼみや出っ張りはない。これさぁ…普通に引っ付いて登るの無理じゃない?
そして手を見る。めっちゃ素手。
他を見ると、手に太い釘のような物を構えて居る奴や、鎖を持っている奴がいる。
えええええ…道具持参って卑怯な…!
俺も何か道具が欲しい…。俺が持ってるの、鏡だけ。
ふと視線を落とすと、木の裏側にススキのような、細長く丈の長い草が生えている。
ドゥワワワアァァン…
銅鑼に似た鐘が鳴った。やばい、始まった。悩んでいる暇はない。俺は急いで草の根元をひっつかんで、思いっきり引っ張った。草は抵抗なく簡単に抜けた。
草を縒り、両手で2、3回伸ばしてみる。よし、千切れない。中々丈夫そうだ。
草で作った即席縄モドキを幹に渡すと、丁度囲うことができた。太ももで幹を挟み、渡した縄を掴んで体をずり上げていく。前に動画で見た、林業の人が木を登っていく方法だ。
やったことなかったけど、うまく登れてる。
垂直な幹を登り、曲がった所はバランスを取って歩いて、枝から枝へ縄を渡して進んでいく。落ちないかハラハラするが、何か上手いことできてる。現実だったら届かないだろう枝にも飛び移れる。
体が軽い。飛び上がってもふわって感じで降りれる。
周りと下を見ないようにして、上へ上へと目指して、葉が茂る天辺付近へとたどり着く。星の実ってどれだ?
葉っぱの中に体を入れて探す。しまった。星の実ってどんなのか知らないんだけど。黄色っぽいのかな。緑色しか見えない。
運が良ければ生ってるっておじさんが言ってたしな… ここハズレだったのかも。
と、思ったら、葉と同じ緑色の、小さな金平糖のような実が枝先に生っているのを見つけた。きっとこれだ!
手を伸ばしてちぎり、ズボンのポケットに突っ込んで急いで木を降り始める。天辺付近の参加者達は葉っぱの中でまだガサガサやっているが、俺の他にもう1人、降り始めている奴がいた。
ここまできたからには、勝ちたい。
もうほとんど飛び降りてるって感じで急いで降りて、最後の幹が垂直な部分まで来た。高さは5メートルくらい。もう1人の奴も、垂直部分に居る。地面を見てちょっと屈んで…
あれ、飛び降りようとしてない?
…俺も思い切って飛び降りてみようか。