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「キョウスケ、おはよう!支度できてる?」
「マージウちゃん、おはよう。今日は息子をよろしくね。星掴み取り祭はきっと凄い人混みよ」
「おばさん、任せて!家族同然でこの村で育ってきたんですもの。キョウスケを見失う訳ないわ」
「相変わらずの仲良しね。気をつけて行ってらっしゃい!」
2人の会話が自動で進む。赤毛のマージウという子は俺の幼馴染か…と思っていたら、あれよあれよと言う間に家を追い出された。お腹が減ってる訳じゃないけど、何も食べずに行くのか。感覚が妙にリアルだから、現実との違いにいちいち違和感を覚えた。
外は煉瓦作りの小さな家が幾つか並ぶ、平原の中の村だった。西洋の昔の村みたいだ。あ、井戸とかある。
初めて見たなぁ。どうなってんだろう。
「ちょっと、どこ行くの?お祭りの町はあっちだよ」
行手をマージウに阻まれた。祭へ行くまでの2人行動は絶対のようだ。好き勝手色んな方向へ行こうとしたおかげで、何度も同じ台詞を聞く羽目になった。
「お、村長んとこのマージウちゃんじゃねえか。キョウスケとどこ行くんだい?」
「ネットおじさん、おはよう!星掴み取り祭にオーマ町に行くの」
「そうか、気を付けて行けよ。オーマ町は村からの道を真っ直ぐ行けばいいからな。
寄り道すんなよ。このハージマハリ村の辺りは危ない魔物は出ねぇけどな、森や遠くの草原には魔物が出るからな」
村の門前に座るおじさんが、重そうな閂を外す。村の名前、ハージマハリって言うんだ… 魔物って何だ…?俺、丸腰なんだけど。
目的地の町オーマは、村から伸びる一本道を辿って、すぐ到着した。ハージマハリ村と比べてかなり広い。石造りの大きな建物が並び、屋台や街路樹が星の飾りで彩られている。町の真ん中辺りに、モミの木みたいなモサモサしたでっかい木の上あたりが見える。そして見渡す限りの人と犬みたいな動物と白い鳥。
「見て、あれがオーマのシンボル、オーマツリーだよ。
それにしても、星掴み取り祭はやっぱりすごい人だね… そうだ」
俺の服の袖をマージウが軽く掴む。
「これで迷子にならないね」
マージウは微笑みながら言った。彼女は美人じゃないけど、笑った顔はちょっと可愛かった。洒落た服を着て、少し化粧をして垢抜けたらきっと綺麗になるだろう。
その時、広場の中央で男が大きな声を上げる。群衆がざわつく。
「さあ、星掴み取り祭の目玉、星取りに挑戦する奴はいないかい?運と勇気の度胸試し!18才以上なら誰でも参加できるよ!」
星取り?星の形のお菓子を取るのかな。
「あ、キョウスケ!星の木だよ。今年は誰があの天辺にある星の実を、一番早く掴んで戻ってくるんだろ」
マージウが指さす方向に、木が何本も見える。枝や幹が互いに複雑に交差して、形がアミダクジみたいだった。枝には全く葉が付いていなくて、天辺付近に少し生えている程度だ。
オーマツリーより低いけど、結構高くないか?落ちたらヤバいと思う。
「今回は獲得者が出るだろうか」
「怪我人しかいなかった時もあったな」
「ヒヒヒ、泣きながら帰る腰抜けもいるだろうな」
おい、群衆から物騒な事しか聞こえてこない。
「そうだ、あたし達も今年で18才だよ。2人で参加しようよ!すいませーん!おじさん!2人参加します!」
マージウに引っ張られ連れて行かれる。正気か。この危険極まりない催しに。
「ああ、お嬢ちゃん、残念だな。参加できるのはあと1人だ」
「ええ!? じゃあ、キョウスケが出て!一番に星を取って、かっこいいところ見せてよ」
「いいえ」を表すために首を横に振る。
「またまたー。星取りに出たくて、早く18才にならないかって言ってたじゃない」
ゲームだと分かっているが、感覚がリアルな分、どうも落ちたときの事を考えてしまう。何とか回避しようと首を横に振り続けたが、全然マージウが許してくれない。ああ、もう!
マージウの「またまたー」が憎らしい。