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「京介、次マクロ?俺も俺も。これから90分だるいなー。一限が90分て長くない?あ、やばやば…講義中にガールズアーミーアーミーのイベ来るじゃん。つーか今、何時?シン・リケジョの実験クエストやんなきゃ」
角一は携帯を取り出してパタパタと画面をタップし始めた。操作しながら「ああ!」だの「うわ!」だの声を漏らしている。
「リケジョの莉希ちゃんマジで可愛いわ。難解な化学式をスラスラ解く知的なクールさと褒めた時の照れのギャップがたまらん。いくらでも貢いでしまう恋の沼…」
「画面の向こうの女の子を好きになって何の意味があるんだ。虚しくない?」
はーーっと息を吐きながら首を振った角一は、生暖かい目でこっちを見てきた。
「分かんないかな〜、京介は。彼女達への愛しさで溢れるこの心が。画面の向こうってたって、VRゴーグル使えば会ってると同じ!虚しくなんかないさ。課金だってこの子を生み出してくれた創造主への納税だと思えば実質無料…」
「この前は何とかってアニメの美波ちゃんが好きだって言ってたじゃないか」
「アニメが終わったしね〜。 次の俺の嫁は莉希ちゃんかな〜。
ああ〜でも本命はマジファンΣのイーヤちゃんかな〜。ああ〜待ちきれないな〜早く9時にならないかな〜」
「角一が言ってる事は全然分からんわ」
「マジファンやったこと無い?知らない?うわっ希少種すぎて草生える。引く」
「俺はお前に引いてる」
そこから角一はマジファンについて熱く語り出した。思い出すだけで泣けるシーンがあるとか、どっちを嫁にするか究極の選択を迫られて三日三晩悩んだとか、ずっと喋ってる。教室に着いて講義が始まっても喋ってたから、講師に注意された。
講義後、俺は角一から説明しきれなかったと続きを聞かされた。
云く、マジカルファンタジークエストという1人用RPGゲームのタイトルで、略してマジファン。もう30年以上前に初代が発売され、シリーズは20作を超える。主人公はいつも勇者で、魔王を倒して世界を救うというストーリー。勇者が魔王を倒す。その設定一本でよくそんなにシナリオのレパートリーがあるものだ。
「マジファンのファン待望の最新作がマジファンΣなわけ。やっと一ヶ月前にリリースされたのよ。今回!何と言ってもすごいのが、世界初の感覚フルダイブシステムを採用したVRゲームってとこ!しかも家庭用のVRゴーグルでオッケーなのよ。凄くない?ネットでダウンロードして、ゴーグル本体にインストールするだけ。凄くない?ここからちょっと難しくて俺、説明できないんだけど、夢と同期するんだって。超リアルよ。これまでのゲームと一線を画すリアルさよ。ただ、寝てる間しかプレイできないのと、一日のプレイ時間の制限がかかってるから、そこがちょっとね…」
だから夜が待ち遠しい、と角一は笑った。俺はこれまでの人生で電子ゲームをやったことがない。アニメも幼少期に見た顔がパンで出来たヒーローが活躍するやつしか見たことがない。芸能人やアイドルを好きになる気持ちは辛うじて分かるが、ゲームやアニメに登場するキャラクターを好きだというのは理解できない。そんな奴らを正直見下している。
「時間制限が掛かってなかったら、俺マジで一日中プレイして廃人になってると思う。運営側にマジ感謝。女の子が可愛いのもあるけど、ストーリー面白いよ。ゲームやったことないならぜひオススメだよ。やってみてよ。楽しいよ〜。一緒にマジファントークで盛り上がろうよ」
角一はグイグイとマジファンを推してくる。今までアニメやゲームの類をこんな風に強く勧めてきた事がなかったのに。そんなに面白いのか。
適当な返事をして、キャンパス内を歩く。今日はもう取ってる講義はないから、夕方の約束までファッション誌のチェックに本屋に行こう。角一にまた今度、と別れを告げる。
「じゃあ、また明日。マジファン、面白いからさ、マジでやってみてよ!
何か京介、いつもなんとなくつまんなさそうだから」
別れ際の角一の声が、言葉が、心の隅に引っかかった。