モテてモテて仕方の無い男
パンツの右ポケットが小刻みに震える。携帯端末に無料アプリのメッセージが届いているのだろう。その度に音が出るのが鬱陶しくて、いつもマナーモードにしている。
一々確認しない。返信しない。端末もいじらない。今は。
一応、隣に人が居る。
「じゃあ湯川くん、夕方にまた。あたし次講義、教育学部棟だから」
ニコッと手を振り、彼女はガラス張りの教育学部棟へ入っていった。指先に光るトレンドカラーのネイル。きれいに巻いた揺れる茶髪を俺は見送る。
俺は次の講義、マクロ経済だ。
『来週の水曜日、映画楽しみだね』
『昨日はすごい楽しかった』
『ねえ明日空いてる?』
『また遊んでよ』
『何で返事くれないの?もう3日たってんですけど』
『私たち、別れよ』
ポケットから携帯を抜いてチラッと見ると、画面を新着のメッセージが埋め尽くしている。違う女の子達からだ。最後のやつは誰だろう。付き合っている子はいないんだけど。
「京介!やっほー」
「角一…」
日本人男性の平均より少し低い背の男が小走りで近づいてくる。寝癖なのかパーマなのか分からない黒髪。手入れをしていないハの字眉 、浮腫んだような重たい一重の目。低い鼻にぷっくりとした唇がアンバランスな丸顔の男。同じ学科に通う角一 誠だ。
「さっきの子、すげー可愛いね、誰?」
「三回生の… 名前なんだっけ」
「マジかよ。昨日連れてた子は?」
「さつき…いや、ききょうだったかな」
「これだからモテ期が止まらないヤツは」
そうだ、俺は客観的に見てモテる。一人で街を歩くと声を掛けられることはしょっちゅうで、メッセージアプリの交換を迫られるのは日常茶飯事だ。
流行りの若手俳優に似たスッキリとした顔立ちで、長い手足。
恵まれた持って生まれたものもあるけど、何も努力していないわけじゃない。身だしなみには気を付けている。筋トレやジョギングも欠かさずやって、ジャンクな物は極力避ける。引き締まった体の維持に気を配って、清潔感を重視した服装を心掛ける。ファッション誌を定期的にチェックして、髪型から足先までシルエットがきれいに見えるようにしている。
逆に言うと、外見だけちょっと手入れすれば、女の子が勝手に寄ってくるってだけ。
次々にメッセージが来るけど、面倒だから返信は気が向いた時しかしない。
「塩対応だと嫌われるぞ」
「俺は来る者は拒まないし、去る者も追わないからね。それに俺のこと好きなわけじゃないよ。見た目のいい男を連れておきたいだけだから」
「そんなことないよ。真剣に恋をしてる子もいるよ。虚しい事言わないでよ」
「俺に寄って来る子に真剣な子は居ないよ。付き合ったとしても、適当に付き合って、適当に別れるんだから」
「京介に人の心を説くのは無駄だったわ」
角一が薄目で溜息を吐く。
こんな感じだから、俺は男の連れは殆どいない。女達と遊ぶ時間を優先するから誘いを断るのもあると思う。飲み会も俺が一人モテるから、全く呼ばれなくなった。大学で会っても挨拶する程度の付き合いの奴等ばかり。俺に話しかけてくるのは、学科のオリエンテーションでたまたま隣に座っていたこの角一くらいだ。