表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナツと夏  作者: 小織 舞
1/1

雨を連れたひと

 雨を連れているおにーさんがいた。



 8月の真っ青な空を背景に、黒革のロングコートにハイヒールブーツ、もっふもふの黒ファーを首に巻いた、紫髪ポニーテールの外国人。


 お化粧した顔は女の人みたいに見えたけど、なんかガタイがいいんだもん。コートの裾からのぞくズボンも男物に見えるし。



 おにーさんは雨のカーテンの下でご機嫌に空を見上げていた。



「何じゃありゃ」



 あたしは思わず自転車を止めて、マジマジと見てしまった。

 口の中でソーダアイスが溶けてく。やば。垂れる垂れる。



 しゃくしゃく。がじがじ。




 なんの手品か大道芸か。

 でも、そんならどっか他所でやっておくれよな。


 こんな団地でやっても誰も見に来ないしな。

 ばーちゃんたちは喜ぶかもしれないけど、飛んでくるのは小銭じゃなくて飴ちゃんだぜ?



 いや、そんな場合じゃねーや、遅刻する。

 センセに怒られる!


 あたしに気がつかないのか、おにーさんは道の真ん中に突っ立っている。雨は相変わらずおにーさんの上にだけ降る。


 いや、違った。道幅いっぱいは雨の中だ。



「ちょいとそこ行くおにーさん、早くどいてくんない? そこにいられちゃ、あたしが雨に濡れちゃう」



 おにーさんは驚いたようにあたしを見た。



「へぇ。面白い子だね、私にどけと言うの」


「その雨、突っ切ってもいいけど制服が濡れちゃうんだもん。今からガッコーなのにさぁ。ちょっと端っこに寄ってくれたら、雨がかからないかもしれないじゃん?」


「……気にならないの?」


「何が」


「この雨」


「べつに」


「あらそう。ふーん」



 気にはなるけど、今のあたしにそんな時間はない!



「それで、どいてくれんの? くれないの?」


「そうねぇ。ふふ……じゃあ対価をちょうだいよ」


「タイカ?」


「そ。私たちは貪欲なの。気になるものは何でも奪う。モノでも記憶でも心でも……。ケド、アンタは女の子だから要らないわ。その代わり、何か頂戴。何でもいいわ」




 ワケわかんない理屈だな。


 でも、まぁ、いいや。



「じゃあ、これあげる。カサ。さしたら?」



 あたしはペタンコのカバンから、ピンクの水玉もようの折りたたみ傘を出して、おにーさんに向かって投げた。



「あはっ! ナニコレ!」


「だから、カサだってば。カバー外して、パッチン外して、広げるんだよ。これで雨に濡れないでしょ」


「あははっ! あははははっ! アンタやっぱり面白いわね。あははははっ、いいわ、どいてあげる。あはははははっ!」




 おにーさんは水玉もようのカサを開けたり閉じたり楽しそうだ。まぁ、いいや。



「どいてくれてありがとー。んじゃねー」


「待ちなさい、アンタ、名前は?」


「ナツ!」




 あたしは自転車を漕ぎながら振り向いて叫んだ。

 おにーさんの姿はすでに小さくなってた。



 なんかよくわかんないけど、ちょっとだけ涼しかったし、虹が見れてラッキー!



「ひゃっほー!」



 あたしは坂道を自転車でスルスル下った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ