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③150/1000 → 320/1000 → 290/1000

「父さん」


『輝彦。うまくいったか?』


 セレブと呼ばれている伊東輝彦は、一宮を車に確保・・し、父親と電話を始めた。


「ああ、一宮は確保した。

 いつも通り、一旦そっちに連れて行って保護することにするよ」


『わかった』


「今回は不法侵入の現行犯もプラスだから、スコアとしてはかなり大きいと思うよ」


 伊東はスマホに保存されている写真を確認し、一宮がミホの家に登って入ろうとしている写真がバッチリとれていることを確かめた。


『よくやった』


「同じ学校にスコア懲罰者がいるなんてラッキーだったけどね。

 そういえばスコアが下がった理由はなんだったの?」


『――殺人だ』


「そりゃあ……また」


『一宮君の父は、会社経営者なんだが、人を殺し今も逃亡中らしい。

 なんでも【スコア詐欺集団】狙われていたらしいぞ』


「へえ」


 スコア詐欺集団は、最近流行っている新手の詐欺集団だ。

 個人に対し集団でスコアを下げるように働きかけ、「スコアを下げられたくなかったら金を払え」と脅す集団だ。


『まあ、一宮君も普通の生活には戻れないだろう。

 一生低スコアを背負って生きていくしかないからな』


「了解。とりあえず連れていくよ」


『わかった』


 父との通話を終えて、伊東は一息ついた。


(世の中スコア次第……ってことだね)


 伊東の父は元々警察官だった。60歳で定年退職したがその後、特殊法人を設立した。 

 低スコアの人物を監視する民間の企業だ。

 国から支援されている業務であり名目上は民間企業だが、裏では警察と繋がっている。


 このような特殊法人は全国にある。


 特殊法人が設立された経緯としては、低スコア者の犯罪が多発したことだ。


 低スコアになると、人は正常な状態を保てなくなる。

 生活費が高くなり、金銭的に苦しくなり、借金が膨らむ。

 そして暴行、窃盗、器物損壊など犯罪行為が多く発生した。


 事態を重く見た政府は低いスコアの人物を監視する企業の設立を支援しだしたのだ。



 実は昨日から伊東は一宮を尾行していた。

 絶対に何か悪事を働くだろうと信じて。


(しかし……一宮君は可哀そうだな)


 そもそもな一宮のスコアは極端に下がったのか?


 スコアが極端に下がる理由としては、やはり犯罪である。

 暴行、傷害、窃盗などはすぐにポイントを下げられる。

 ちなみに未成年の飲酒も犯罪であり、捕まることはレアだが徐々に信用スコアが下がる。


 自身の犯罪歴がスコアに反映されるのは自業自得と言える。

 だが――


(犯罪者の親族もスコアが下がる対象になる。これは今年から施行された)


 一宮のように親族が殺人を犯した場合、通常ジワジワとスコアが下がっていく。

 本来、ゆっくりと下がるはずだったのだ。


 だが今回は運が悪い事に、一宮の父は逃亡してしまった。

 逃亡すると親族に連絡がいく可能性が高いので、親族のスコアを一時的に大きく下げる緊急法の対象となる。

 スコアを一気に下げることで、移動、金銭の授与、連絡などを封じるのが目的だ。


(可哀そうだけど……一宮君。君は普通の生活には戻れない)


 日本は法治国家である。

 よって国家が信用スコアによって国民を区別することは出来ない。

 もしも中国のように国家主導で信用スコアを導入したいのであれば手順を踏む必要がある。


 だが、民間企業が信用スコアが低いユーザーを区別することは何ら問題ない。

 政府はそこに目を付けた。


 犯罪歴がある人物や国益を損なうような人物のスコアが下がるように、水面下で法整備が進められたのだ。


 まず特定条件下で犯罪歴や結婚歴、二親等以内に危険人物がいないかどうかなどを確認できるようになった。

 特定条件下とは、LIMEやKODIのようにスコアサービスを提供する会社が、厳密な情報漏洩対策を行っている場合だ。


 企業としては犯罪者のスコアは下げたい。スコアは信用であり、信用がない人物が高いスコアであることは望ましくないからだ。


 国としても犯罪者のスコアが低いことのほうが望ましい。


 信用スコアが低いと就職も難しくなり、低賃金の仕事しか選べない。

 更に家賃や電気水道ガス。食費も事実上値上がりする。

 結果として、住める場所も限定されていく。

 そして通信や移動が制限されるため、おのずと社会的弱者になる。


 国としては危険分子を社会的弱者に追いやったほうが安心だからだ。


 そして伊東の父のような社会的に信用のある人物に、危険分子の監視役を任せることにより、

 警察以外からも治安を維持するシステムをつくろうとしている。

 国家と民間の板挟みにする計画だ。


 ちなみに一宮の家の電気が止まったのは、

 スコアが下がったために、電気料金の割引が無くなり、

 運悪く6月分の電気料金が未払い扱いになったためだ。


(一宮君はそれほど長く勾留されないだろう。

 不法侵入未遂だけだ。だけど信用スコアは300ぐらいまでしか回復しないだろう)


 伊東は少しだけ胸が痛んだ。


 だが――


(これも俺のスコアのためだ。悪く思わないでくれ)


 危険人物の確保はスコアアップに繋がる。

 伊東の680という非常に高いLIMEスコアを維持するには相応の仕事をしなければならないのだ。


 伊東は車のドアを開けた。


「おお~、遅かったな」


 警戒心がゼロの一宮を見て、伊東は努めて自然な笑顔で応えた。


「そういえば家には入れないのかい?」


「へ? まあそうなんだけど……お前は何でも知ってるんだな~」


「ははは、何でもは知らないよ。知ってることだけさ」


「ふ~ん、まあそうなんだよ。電気も使えないし」


 緊張感から解放されたのか、一宮は非常にフレンドリーだ。

 伊東は、自身に対しての絶大な信頼を感じ取り、少しだけ心が痛んだ。


「一旦、私の父の家に行こうか」


「へ? なんで?」


「私の父は元々警察官でね。今の君を保護するにはうってつけなんだよ」


「へ~、警察か~」


 一宮は警察と聞いて、エリート警察を思い浮かべる。


「まあ、とりあえず行こうか。色々説明しないといけないしね」


「そっか。わかった」



****



 一年後――


 一宮は全てを失った。


 友達はすべて失った。LIMEのフレンド登録者は0になっていた。

 彼女であるミホとも絶縁状態になった。

 学校も退学になった。

 インターンの会社の正式採用も無くなった。

 住んでいた家を失い、路頭に迷った。


 仕事を探そうにも信用スコアが低い人間は、普通の仕事にありつけない。

 低賃金な汚れ仕事以外出来なかった。


 やりたくもない仕事をしながら、生活保護を受給しながら生活する日々。

 LIMEスコアは320だったが、290まで落ちた。


**


 かろうじて東京都の某所。

 ボロアパートの一室に一宮は住んでいた。


 夢も希望も無くなった男は、テレビを見る以外にやることが無い。

 生活保護者向けに支給されているスマホはメールと電話以外使えない。

 LIMEも入ってはいるが、フレンドは誰もいないのだ。


(もう……死ぬか)


 何故生きているのかわからなくなった一宮。

 社会的な信用を完全に失い、仕事も無ければ、友達一人いやしない。


 一宮が生きている理由は、『楽に死ぬ方法』を検索できないからだ。



 ピンポーン!


 一度も鳴ったことが無いチャイムが鳴る。

 一宮は本当に驚き、動悸がした。


(だ、誰だ?)


 恐る恐る一宮はドア越しに話しかける。


「はい」


『あ、一宮さんの家ですか? てかリョウタ?』


「え?」


『あ~、俺だよ。トモタケだよ』


「と……トモタケ!?」


『まあ開けてくれよ~』


 一宮は急いでドアを開けた。

 そこには一年前と全く変わらない向井智丈が立っていた。


 向井は仕事で近くに寄ったので友達である一宮に会いに来たのだ。



(友達がいる)


 一宮は崩れ落ち、そして号泣した。


(俺には友達がいるんだ……!!)


 たった一人。

 それでも一宮亮太を友人だと思ってくれている人がいる。


 その事実だけで一宮は生きている。


****











「それじゃあお願いしますね」


「あ、はい」


 向井智丈むかいともたけは一宮の家の前に来ていた。

 ある男と共に。


「くれぐれも危ないと感じたら逃げてください。情緒不安定ですので」


「わ、わかりました」


「普通に世間話だけで構いません」


「だ、大丈夫っすよ」


 向井は何度も聞いた内容なので、辟易していた。


「可能であれば、この端末でLIME登録だけはしてください」


「それも大丈夫っす」


 向井は渡されたスマホにタッチしてLIMEを起動した。


(うへ~……ほぼ一緒じゃん)


 渡されたスマホは向井のスマホではない。

 とある組織から渡された、向井のスマホそっくりなスマホ。


(俺のプライバシー無いんだな~。まあいいけど)



 一週間前、とある組織から向井に提案があった。


「LIMEスコアを上げるから、一つ頼まれてくれないかな?」


「へ? いや……へ?」


 詐欺としか思えない話。だが場所は警察署だった。


「社会貢献をお願いしたい。ただしここからの話は他言しないと約束してくれるならだが」


「……あの」


「なんだい?」


「スコアはどれぐらい上がるんですか?」


「そうだな。20でどうかな?」


「に、20……やります!」


「はっはっは、いいね」


 向井は迷わず答えた。スコアが20アップするなんて無茶苦茶良い条件だ。

 それも場所は警察署。違法性も無い。


 そして向井は契約した。

 まずは他言しないこと。

 そして一宮に会い会話すること。そしてLIMEの友達登録をする。それだけ。


(よくわかんね~けど……こんな簡単なコトでスコア上がるならなんでもするぜ)


 チャイムを鳴らす。


『はい』


「あ、一宮さんの家ですか? てかリョウタ?」


『え?』


「あ~、俺だよ。トモタケだよ」


『と……トモタケ!?』


 いきなりドアが開き、一宮を見た向井は驚愕した。

 人間が一年でこれほどまでに変わるのかと驚愕した。


 向井はなんとか平常心で任務をこなす。

 日常会話をし、LIMEのフレンド登録をする。

 そして「また来るぜ」と言い残し去っていく。簡単なお仕事。



 久々の旧友との再会。

 一宮は一時間ほど昔に戻ったみたいに楽しい時間を過ごした。

 仕組まれた時間だとも知らずに。


 これは低スコア者の自殺防止プログラム。

 誰かと繋がっている。それだけで自殺は防げるケースが多い。


 一宮は頻繁に向井にLIMEトークを行うようになった。

 返信はそこそこ返ってくる。スタンプも返ってくる。それだけで一宮は嬉しくて明日への活力となった。



 それがAIから自動返信であることなど知る必要は無いのだ。

 


 信用スコアに殺された男 完――

読んでいただきありがとうございました。


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[良い点] 面白かったです 最後の自殺防止が… LINEやメールだけで会ってない友達いますもんね(><)
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