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①590/1000

 信用スコアとは個人の信用度合がスコア化されたものである。


 2019年、LIMEがLIMEスコアを開始した。


 LIMEスコアはLIMEが提供する信用スコアであり、様々な要因でポイントが上下する。

 社会的な信用が高い行動をすればするほどポイントが上がると言われている。

 ポイントは100~1000の間で上下し、1000に近ければ近いほどLIMEや協賛企業から様々な特典を受けることが出来る。


 開始当初は信用にポイントをつけることが差別的と批判されたりして流行らなかった。

 特典に関してもLIMEローンでの融資が受けやすくなったり、カーシェアの割引などあまりパッとしないものだった。


 だが大きなきっかけはスマホ料金だった。

 LIMEスコアに対抗するためKODIが「KODIの信用スコアに応じてスマホ料金を安くします」と打ち出したことをきっかけに、LIMEスコア側も様々な特典を用意することになる。


 LIMEスコアが高ければ高いほど生きやすい社会が到来したのだ。


 そうなるとユーザーは、スコアアップ方法を血眼になって探した。

 『絶対上がる信用スコア!』な~んて怪しい情報商材は記録的に売れた。


 ボランティアがスコアアップに良いと噂が広まると、ボランティアがブームとなった。

 2024年に開催されたパリオリンピックにスコアアップのためだけにボランティアにいく猛者まで現れたほどだ。


 各スコア会社が提供するPAYを使えば、信用スコアのアップにつながる。

 そのおかげで、キャッシュレスが瞬く間に進み現金払いはほぼ無くなった。

 一部のド田舎以外で紙幣を使うことは無くなったため、紙幣を使ったことの無い世代も現れている。



****


 2025年6月30日(月)


 俺は一宮亮太いちのみやりょうた

 都内の成明せいめい大学に通う三年生だ。


「よう! リョウタ」

「おお、トモタケ」


 吉祥寺駅から学校に向かう道で友人の向井智丈むかいともたけに声をかけられた。

 大学一年からの友人だ。


「リョウタ~。セサミ(・・・)が日本に進出するって噂聞いたか?」


「え? セサミって中国の信用スコアだろ?」


「そうなんだよ。ずっと噂にはなってたけど、日本進出するらしいぜ?」


「ガセだろ?」


「まじまじ! LIMEスコアもやばいかもな」


 信用スコアは現在、20以上の企業が展開している。

 とは言え、LIMEは日本シェアの五割は担っているらしい。

 LIME、KODIだけで市場の九割だと言われている。ニ強状態だ。


 ただまあ、他のスコアサービスと併用して使うのが一般的な利用法だ。

 LIMEとメルパリのスコアを併用したりね。


「でもまあ、中華系は日本だと厳しいだろ?」


「まあな~。スマホもほぼ完全撤退したし、セサミでも……やっぱ難しいよな」


 トモタケは残念そうだ。


「なんだよ? 入ってきてほしかったのか?」


「ま~ちょっとはな」


「なんでだよ?」


「いや~……乗り換えのタイミングってチャンスっていうじゃん」


「あ~そゆことね」


 どのスコアサービスもメインで使ってくれる人を求めている。

 信用スコアのシェアは企業の売り上げに直結するからだ。


 だから新規参入するスコアは参入ボーナスと呼ばれる様々なキャンペーンを行うことが多い。


 そういえば最近参入したスコアサービスの広告塔に大人気YouTuberを起用してたな。


 誰でもスコアを上げれますよ~ってアピールだろうけど、企業との結託が気持ち悪がられている。

 流石にやりすぎかな。まとめサイトを見ているとかなり叩かれるようだ。


「でもまあ、セサミが入ったとしてもLIMEスコアのシェアを抜くのは難しいだろうな」


「そりゃまあな。あ~あ俺もスコア勝ち組になりてえよ」


「トモタケってスコアいくつだっけ?」


「501! 500から全然上がらねえ! 急行電車に乗れねえのがマジ苦痛」


「あ~」


 2019年、信用スコア開始当初は提供企業の各種サービスの割引や、お得なクーポンを貰えたりするだけだった。

 あとはお金を借りるときの利率が変わったりするだけ。


 だが年々サービスの範囲が増えた。

 特にインパクトが大きかったのはスマホ代の割引。


 次に強烈だったのが家賃の関連だ。

 信用スコアに応じて敷金礼金の免除や保証人無しでもOKなど。

 信用スコアが高い人物は、家賃の滞納したりクレーマーである可能性が低いため大家側も安心なのだ。

 そういう点で信用スコアは非常に相性が良かった。


 どちらも生活に直結するので、多くの人がこぞってスコアアップを目指すようになった。


 最近ではスコアが就職の際に有利になったり、ガスや電気代が安くなったりする。

 それに電車だ。


「急行ってスコア550以上からだっけ?」


「そうだぜ。550なんてムリゲーだわ」


「あ~……確かに50上げるなんて結構しんどいよな」


「マジでスコア差別だぜ」


 各社によって変わるが、電車の急行や特急に乗るにはスコアが連動している。

 俺たちが使っている中央線の場合、急行だと550、それ以上の通勤快速とかは600必要だ。

 乗れないわけではないが、特別料金がかかる。


「まあ、300切ると電車代が倍になるらしいぜ」


「あ~らしいな。でも300なんてありえないだろ?」


「いや……あるらしい」


「うそだろ? ネットでたまに見るけど偽造だろ?」


 トモタケは「へへへ」と笑う。


「ポイントを上げるのは難しいけど、下げる方法は結構あるだろ?」


「ん? ああ~、LIMEで暴言を吐くとか、悪質な情報商材を売り捌くとか?」


「そうそう。悪い事すると信用スコアって下がるんだ」


 信用スコアっていうぐらいだからそれはそうだろうな。


「だからよ……犯罪者って滅茶苦茶スコア低いらしい」


「あ~なるほど。でもさ、LIMEがどうやって犯罪者か判断するんだよ?」


「そりゃあ~…………あれだよ」


 考えてなかったらしい。俺は「ははっ」と鼻で笑った。


「う、うるせえ! あ、あれだ! 国と協力しているじゃねえか!?」


「一企業と国がか? そりゃあ妄想が過ぎるんじゃね?」


「うるせえうるせえ! でもよ! 結婚したらスコアあがるじゃねえか」


「あ~……それはそうらしいな」


 スコアがアップする明確なルールってのは公開されていない。

 上げれば上げるほど、スコアは上げにくくなるのは体感として知っているけれど。


 ただ、結婚や出産は確実にスコアアップする。

 体験した人が多いので間違いないのだ。


「結婚したかどうかなんて国ぐらいしかわかんねえだろ?」


「ん~……そういわれると……そうかもな」


「だろ~?」


 勝ち誇るトモタケ。


「まあ誰かとのチャットとか、写真で判断してるのかもしんね~けどな。

 あ、『結婚しました!』って写真付きで画像アップすればスコア上がるかもしれねえな!」


「まずは彼女つくろうぜ」


「うるせ~」


 トモタケがニヤニヤする横で、俺はスマホを開いた。

 そして自分のスコアをおもむろに確認してみる。

 画面には『590』と表示されている。


 トモタケは501だと言っていたが、俺は590だ。

 俺もトモタケほどではないがスコアがアップすると言われている行動をしてきた。


 買い物はLIMEPAYでしているし、LIME提供のゲームもやっている。

 イイネを押したり、世間で言われている『良い事』っぽい事は結構している。

 借金もしてないし、家賃、電気の払い忘れもしたことが無い。


 だけどなぜトモタケと俺は90も差があるのか。

 原因は俺の予想だと……両親じゃないかと思っている。


 俺の父親は兵庫県で映像関係の製作会社を経営している。

 まあ小さい会社だけど従業員もいる。社会的信用もそこそこある。

 トモタケの両親は普通のサラリーマンだと聞いている。


 その差なんじゃないだろうか?

 大学生の平均は500~550だって聞くし。



 その証拠に――


「あ、セレブが来やがったぞ?」


 トモタケが憎しみたっぷりな言い方で指をさした。

 セレブとはあだ名である。と言っても俺たちが勝手に呼んでいるあだ名。


 180近い身長で、髪にはかねがかかっているのが見ただけでわかる。

 茶髪だがなんかセレブっぽいのだ。艶がある。

 黒いパンツに赤いシャツを着ているが……似合っている。むかつくが似合っているのだ。


「ダッセ。赤いシャツとか巣鴨のババアかよ。

 まあいいや、じゃあなリョウタ」


「おう」


 トモタケと俺は学校前で別れた。


 俺はセレブをじぃっと見た。セレブはいつも通りタクシーで学校に来たようだ。

 何せセレブは毎日同じタクシーで来ている。専属契約でもしているんだろう。


 タクシーはここ数年でかなり安くなった。

 個人タクシーが解禁されて、価格競争が始まったからだ。


 とはいえ毎日学生が乗れるものではない。

 まあ、セレブは金持ちだろうから払えるのかもしれないが。



 実は……セレブのスコアを知っている。

 飲み会の席で、ゼミの教師がポロっと漏らしたのだ。


 そのスコアはなんと『680』。

 『680』なんて大企業の部長クラスである。

 どうやってそんなスコアをゲットしたのか?

 恐らく彼は何もしていない。多分彼の両親が滅茶苦茶凄い人なんじゃないだろうか。


「……まあいいけどさ」


 確か『650』ポイントを越えると、確かタクシー代は7割引きだ。

 羨ましい限りである。



**


 本日の最終講義を受ける。

 隣には彼女のミホがいる。


「ふあ~、寝みいな」


「田所先生の授業は、お堅いからねえ」


「まあ、単位とりやすいからいいんだけどさ」


 ミホは真面目にメモをとっている。

 タブレット型のPCを使い、静かにタイピングしている様子は中々優雅だ。


「なあ、次の休みはどこいく?」


「ん~。どうしようかな~」


「まあ、てきと~でいいか」


「そうね~」


 付き合ってニ年も経つと、新しくデートに行く場所なんて無くなっていく。

 まあ、後でLIMEすればいいか。


 ん?


 ふと視線を感じたので、出口を見た。

 物凄く……好意的では無い双眸がこちらに向けられていた。

 俺はゾクっとして、目線を外す。


 授業を受けているフリをしながら、視界の端でもう一度出口を見ると、いなくなっていた。


 なんだったんだろうか。



**


 家に帰り、「アレクシ、電気」というと電気がつく。

 蒸し暑いので「アレクシ、冷房、25」というと、25度で冷房が起動した。


 アレクシはスマートスピーカーであり、非常に便利だ。

 一世代前の商品だが、スコアで割引価格だったので購入した。


 さて明日はバイトである。

 バイトといってもインターンシップで働いている映像編集の仕事だ。

 俺の評価は高いので、このまま雇ってもらえそうだ。


 早く寝ることにした。



**


「うお……あちい」


 深夜、蒸し暑くて目覚めた。

 俺は眠りがかなり深いタイプなので朝になる前に目覚めることは殆ど無い。


「あっれ? 冷房は?」


 完全に冷房が止まっている。故障か?


「アレクシ! 冷房!」


 少し怒気の混ざった声でスマートスピーカに話しかける。

 だが応答が無い。


「は? アレクシのほうが壊れたのか??」


 イライラしながらも、冷房のリモコンを操作し冷房をつけて眠りについた。


**


 目を覚まし、スマホをチェックする。


「あっれ?」


 いつもなら天気やニュースが待ち受け画面に表示されるはずである。

 だが今日は何も表示されていない。


「おっかしいな?」


 スマホを起動し、LIMEを起動する。

 だが――


「起動遅いな、どうしたんだこれ?」


 画面には『起動します――』と表示されたまま何も表示されない。

 5Gの超高速インターネット時代だぜ? ありえねえ。


 スマホを再起動して再度LIMEを起動する。

 だが同じだ。


「ちっ、不具合だコレ」


 俺はLIMEを諦めてブラウザを開こうとした。

 ……遅い。どうしたんだ??

 スマホそもそもが壊れたのかもしれない。


 タブレットPCをチェックしてみよう。

 通信速度は…………は?


「100Kbps???」


 信じられない数値だ。これじゃあメールも送れない。

 というかメールなんてレガシーサービス殆ど使った事無いんだけどさ。


 信じられない事態だけど、のんびりしている暇は無い。

 インターンの仕事があるので、準備して出発することにした。



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