薔薇
「中庭を案内しよう」
昼食を食べ終え、三人でまったりしているとユリシュティが口を開いた。
「あぁ、それは良い。何せ正面であれだけ綺麗なんだ。中庭はさぞ美しいだろう」
「そうですわね、わたくしも見たいですわ!」
想像しているのか目を瞑ったレイフォードと、その横ではしゃぐような声を上げたリュリアーナ。
そんな兄妹を見て、ユリシュティ笑みがこぼれる。
「こっちだ」と案内してくれるユリシュティの後ろをレイフォードとリュリアーナがついて歩く。
三人で他愛もない話をしながら歩いていると、しばらくして美しい彫りのある大きなガラス扉の前にたどり着いた。
ガラス扉の向こうには色とりどりの美しい花が咲き誇っている。
「まぁ!素晴らしいですわね!とても美しいですわ」
リュリアーナがうっとりとした声でそう言うと、レイフォードからも「あぁ、これはすごいな」と称賛の言葉が出る。
「この先に東屋があるんだ。ぜひそこでティータイムにしないか?」
ユリシュティが指差す方向を見ながら二人は賛成する。
ガラス扉を抜けて歩き続けていると薄紫の薔薇が咲き誇る庭園に着いた。
ここまで来る間にも何種類もの色とりどりな花が咲く庭園があった。
東屋に三人で座ると目の前には薄紫の薔薇が見えて、思わずリュリアーナは「癒されますわ」と言葉が漏れる。
魔王邸の侍女が三人分の紅茶を用意してくれるのを見て、リュリアーナもお菓子を取り出す。
今回はいちごタルトにしようっと!
もちろん椅子の陰からバレないように慎重に出した。
幸いにもレイフォードもユリシュティも花に興味を向けて話しているので気付かれなかった。
取り出したいちごタルトを切り分け、侍女が用意してくれたお皿に移す。
「お待たせいたしましたわ!こちらは、いちごタルトというケーキですわ」
「どうぞ召し上がってくださいませ」と男性二人に声をかけると二人の視線がお皿の上のケーキに注がれる。
「すごいな、これは。いちごが宝石のようにも見える。麗しい見た目だ」
ユリシュティがお皿を回していろんな角度からケーキを見ていると「とても美味しい」と声が聞こえてそちらに視線を移す。
「リーナのお菓子は本当に美味しいね」
にこにことリュリアーナに話しかけながらケーキを味わうレイフォード。
それを見てユリシュティもフォークを持つ。
「・・・美味しい!」
ユリシュティが一口食べて思わずこぼれた言葉。
それを聞いたリュリアーナはとても嬉しそうに破顔した。
「お口に合いまして良かったですわ!」
レイフォードも食べる手を止めることはなく、食べ続けていた。
そんな二人を見てさらに嬉しそうに笑うリュリアーナ。
とても和やかな空気のティータイムになった。
「「ご馳走様でした」」
レイフォードとユリシュティの声が重なり、リュリアーナは思わず声をあげて笑ってしまった。
そんなリュリアーナを見て、男二人は顔を見合わせ苦笑した。
「レイ、少しリーナをお借りしても良いだろうか?」
ユリシュティが真面目な面差しで問いかける。
それに対しレイフォードも真面目な顔を作った。
「取り扱いには注意するようにね。たまに突拍子もないことをやるから」
リュリアーナは聞こえてきた言葉に、思わずムッとした顔でレイフォードを見る。
お兄様ったら!
人を取扱注意の危険物扱いするなんて!
酷いじゃないの!
そんなレイフォードの言葉を聞き、リュリアーナの表情を見てクスクスと笑い声が漏れるユリシュティ。
「あぁ、気を付けよう」
「それじゃあ、リーナ。僕に中庭の案内をさせてもらえないだろうか?」
座っているリュリアーナの前に膝をつき右手を差し出すユリシュティに、うっとりとした表情で右手を重ねたリュリアーナ。
なんてこと!
これこそスチル化して欲しいですわ!
ユティ様が美しすぎて目が開きませんわー!
内心が荒れていることは表に出さず、目が開かないと思いつつしっかりと目に焼き付けるように凝視するリュリアーナ。
「喜んでお願いいたしますわ!」
ユティ様と二人で中庭散策・・・。
はっ!これは初デートじゃないかしら!?
やだ!ちょっと!わたくし食べかすとかついていないわよね!?
ユリシュティと繋いでいない方の手で思わず口元に手をやるリュリアーナ。
そんなリュリアーナの顔はすでに赤く染まっている。
何もついてなくて良かった!と安堵していると、ユリシュティが薄紫色の薔薇を一輪、リュリアーナの目の前に差し出した。
「初めて君の目を見たとき、この薔薇が思い浮かんだんだ。リーナの瞳と同じ、薄紫の薔薇」
「案内できて嬉しい」と笑みを浮かべるユリシュティ。
「そ、そんな、この薔薇と同じだなんて。とても嬉しいですわ・・・」
真っ赤な顔で薔薇を受け取るリュリアーナにユリシュティは距離を詰める。
「君からの求婚はとても驚いたけど、それ以上に嬉しかった」
その言葉に薔薇から視線を外しユリシュティを見て後悔した。
ああぁ・・・!
なんって表情なさってるの、ユティ様!
だ、ダメですわ!目に毒すぎますわ!
ユリシュティから目が離せなくなったリュリアーナ。
その視線の先でうっとりと蕩ける笑みを浮かべるユリシュティ。
まるでとても愛しいものを見るかのような視線にリュリアーナは震える。
かっこいいですわ!美しいですわ!
どうしましょう、わたくしこの視線に耐えられるかしら・・・。
それにしても近すぎないかしら!
心臓が持ちませんわー!
内心で歓喜し、震えるリュリアーナの目と鼻の先にユリシュティの顔がある。
これは顔が赤くなっても仕方ない案件ですわね、と思っているとユリシュティが口を開く。
「リーナは今までに誰かと口づけを交わしたことはある?」
あまり頭が働かなくなってるリュリアーナは「ありませんわ!」と即答する。
答えてからなぜ口付け?と疑問が浮かび、少し首を傾げる。
「そうか!それは良かった!僕も初めてなんだ。これからのリーナの初めてを全部僕がもらってもいい?」
これまた頭の働いていないリュリアーナは「もちろんですわ!」と即答する。
「ありがとう!嬉しいよ、とても」
さらにとろけるような笑みを濃くしたユリシュティに、いよいよリュリアーナが倒れそうになる。
ふらっとよろけるリュリアーナの腰を目の前のユリシュティが支える。
「とても大事にするよ。僕のお嫁さん」
そう言ってユリシュティは、リュリアーナに唇にキスをした。