魔王邸
※レイフォード視点
ユリシュティという少年が家に招待すると言ってくれた。
僕の妹であるリュリアーナは、それはもうとても嬉しそうに「ぜひ行きますわ!」と返事をしていた。
そんな妹を見て苦笑いを浮かべていると、ユリシュティが右手を差し出してきた。
「もうご存知のようだが、名乗り遅れて申し訳ない。魔王の息子であるユリシュティだ。よろしく」
ユリシュティと名乗る少年と握手を交わし「よろしく」と言葉を交わす。
その様子を見ていた妹が「お兄様だけずるいですわ!わたくしもユリシュティ様とお手を繋ぎたいです!」と言っており、ユリシュティと目が合うとお互い苦笑を浮かべた。
内心では、本当に魔王の息子に会えてしまったことと、いきなりプロポーズをしたリュリアーナに驚きっぱなしだ。
「じゃあ僕の家に案内するよ。こっちだ」
先導するために前を歩いてくれるユリシュティの後ろをついて行きながらリュリアーナを見ると、満面の笑みを浮かべてすごく嬉しそうに、楽しそうに歩くリュリアーナがいた。
前を歩くユリシュティに聞こえないようにリュリアーナに話しかける。
「リーナはどこで彼を知ったんだい?」
するとリュリアーナは口に人差し指を当て不敵な笑みを浮かべながら「秘密ですわ」と答えた。
あぁ、我が妹ながら末恐ろしい・・・。
これは外見だけでなく内面も素敵なレディに育つだろうな。
世の男性全てを魅了するかのような素敵なレディに・・・。
兄の欲目もあるかもしれないが、リュリアーナの不敵な笑みを見てそんなことを思ってしまった。
それだけ美しいと感じてしまったのだから仕方がないと思う。
そんなことを考えていると、再び喜色満面なリュリアーナは「ユリシュティ様。わたくしのことは、どうぞリーナとお呼びくださいませ!」とユリシュティに愛称で呼ぶようお願いしていた。
「じゃあ僕のこともレイって呼んでほしいな」
妹に便乗するようにそう言うと、少し悩んだユリシュティが「僕のことはユティって呼んで。家族にはそう呼ばれてる」と小さな声で言った。
そんな会話を続けて少し経った頃、目の前に邸が見えた。
「あれが僕の家だよ」
邸を指差し、そう言ったユリシュティに驚きを隠せなかった。
なぜなら・・・
「あら!とても可愛らしいお家ですのね!素敵ですわ!」
そう、とても"可愛らしい"のだ。
庭には色とりどりの美しい花がたくさん咲いており、建物には薔薇の花が咲き乱れていた。
建物に薔薇の花が巻きついているなんて見たことも聞いたこともなかった。
まさか魔王邸がこんなに可愛らしいなんて・・・。
誰が想像しただろうか。
森の中にあるのだし、もっと木々が鬱蒼と茂った鬱々としたイメージだった。
勝手にそんな想像をしていて申し訳ないが、想像とのあまりの違いに暫く開いた口が塞がらなかった。
「本当に素敵なお家ですわ!そういえばお家にユティ様のお父様とお母様はいらっしゃるのかしら?」
そんな僕の横でリュリアーナが嬉しそうにユリシュティに問いかける。
「あぁ、今日は父様も母様もいるよ」
それを聞きリュリアーナの笑みが深まる。
あぁ、また良からぬことを考えているんじゃないだろうね・・・。
お腹が痛くなってきたような・・・。
「入口はこっちだよ。ついてきて」
ユリシュティの案内で邸の門を潜る。
右をみても左を見ても花が咲き乱れており、花の香りがとても心地良い。
「先に父様と母様に紹介しても良いだろうか?」
素晴らしい景色と香りを堪能していると、ユリシュティが控えめにそう尋ねてきたので「もちろん。こちらからもお願いしたい」と返す。
隣でリュリアーナも「もちろんですわ!お会いしたいですわ!」とユリシュティに答えていた。