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求婚

※ユリシュティ視点



「・・・え?」


今なんて言った?

結婚してください?

僕の聞き間違いかな?


無表情を極め込んでいたのに、つい呆けた顔をしてしまった。

目の前にいる桜色の髪をした少女をまじまじと見ていると、リュリアーナと名乗った少女の頬が桃色に染まった。

———不覚にも可愛いと思ってしまった・・・。


「いやですわ。そんなに見られてしまうとお恥ずかしいですわ」

「す、すまない。いや、違う、ちょっと待ってくれ」


頬に手を当て恥ずかしそうに目を逸らす少女を見て額に手を当てる。

頭が痛くなってきた気がする。


「すまないがもう一度言ってもらえないか?僕の聞き間違いかもしれないから」


すると少女は頬が染まったまま、薄紫の瞳をこちらに向け、淑女の礼をしながら言った。


「ユリシュティ様。どうかこのリュリアーナ・シュベルツァと結婚してくださいませ」


開いた口が塞がらないとはこの事か・・・。

少女の隣にいる少年も知らなかったのだろう。

びっくりした表情のまま固まっていた。

そういえばこの少年は誰なんだ?この少女の兄か?


「・・・なぜ?どうして僕なんだ?覚え違いでなければ、僕は君に会ったことがないと思うのだが」


「えぇ。直接お会いしたことはございませんわ。ですがわたくしはユリシュティ様を存じておりました!その夜空を閉じ込めたかのような瞳、艶やかな黒髪、とっっっても素敵ですわ!ユリシュティ様とお話がしたい。その瞳に私を映してほしい。ユリシュティ様のお隣に立てる女性になりたいと思っておりますの!」


薄紫の瞳をキラッキラさせながら少女は僕との距離を詰めてくる。

対する僕はちょっと押され気味で、少女が近づいてくる度に後ろに下がってしまう。

あぁ、でもこの薄紫の瞳に僕が映っているのを見るのは・・・、なんだろう、嬉しい?のか?

胸のあたりがざわざわする。


「そ、そうか・・・。だが僕は君のことを知らない。まずは友達からではダメだろうか?」


引きつった顔で少女に返事をする。

すでに僕の背中は木に当たってしまい、顔の両側には少女の腕がある。

そして目の前にはキラキラの薄紫の瞳。


近い・・・。

明らかに距離がおかしい・・・。


「お友達、ですか」


目の前の少女はしょんぼりと顔を伏せた。

薄紫の瞳が見えなくなり、少し残念だと感じてしまう自分がいた。


なぜ残念だなんて思うんだ!断じて違う!


そんなことを思っていると、目の前の少女が勢いよく顔を上げ再びその瞳に僕を映す。


「ユリシュティ様!お腹が空いてはいませんか?」


「は?」


思わずそんな声が出てしまった僕は悪くないと思う。

なぜ急に空腹の話になるのかと、訳がわからず訝しむような顔をしてしまった。

が、小さくお腹が鳴る音が聞こえた。・・・僕の。


「まぁ!まぁまぁ!ユリシュティ様、よろしければ昼食にとサンドイッチを持ってきておりますの!ご一緒にいかがでしょうか?」


とても嬉しそうに瞳を輝かせている少女からは、悪意や蔑み、揶揄うような気持ちは一切感じられなかった。


「・・・リーナ、僕がいることを忘れてないかい?」


少女と一緒にいた少年が少女に話しかけた。

「あら、お兄様!」という少女の声を聞き、やっぱり兄妹だったか、とホッとする。


———いや、だから!なぜホッとするんだ!会ったばかりの少女だぞ!


「妹が失礼した。僕はリュリアーナの兄、レイフォード・シュベルツァだ。急なことで本当に申し訳ない」


僕に対して頭を下げる少年に「気にしてないから大丈夫だ」と伝え頭を上げてもらう。

本当は頭も心も混乱状態だが。

だからだと思う。

こんなことを言ってしまったのは。

「昼食だが、良ければ僕の家が近い。来るか?」と。

この後、予想だにしない出来事が起こるなど思いもせずに。


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