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決意



———あら?

これってこんな味だったかしら?



ふとそんなことを思い、小さく首を傾げる。

それはシェフが「新作です!」と用意してくれたケーキを食べているときに思った。


もっとフワッとしていて、舌触りが滑らかだったような・・・。

え?シェフは新作だと言っていたわよね?

何故食べたことがあるように感じるのかしら?



———え、なに!?これは誰の記憶!?



小さく傾げていた首をさらに傾げながら考え込んでいた時、”自分のものではない誰か“の記憶が怒涛の勢いで頭の中を駆け巡る。


そうだわ。

”私”は別の人生を別の世界で生きていた。


それは日本で18歳まで生きた記憶。

乙女ゲームが大好きな女の子で、乙女ゲームを買うためにアルバイトを掛け持ちして、徹夜でゲームをしていた日々。

たくさんのゲーム機と乙女ゲームのソフトに囲まれて過ごしていた日々。

終わりはとても呆気なく、徹夜でゲームをしてアルバイトに向かう途中でトラックと衝突して死んでしまった。


あぁ、そういえば、

まだあのゲームやりかけだったんだよなぁ。

徹夜して頑張ったけど終えられなくて。

帰ったら続き!って思ってたのに。


【国立魔法学園で真実の愛を】


略して【国愛(くにあい)

そのゲームの舞台は学園に入学するところから始まる。

ゲーム内では、12歳になると貴族の子供は全員学園に通う義務がある。


ヒロインはミンムート男爵家の一人娘。

透き通るような水色の髪に、金色の目を持つ愛らしい見た目の少女。


その少女が学園に入学し、5人の攻略対象と恋愛していく物語である。

各ルートごとに別の悪役令嬢が登場するのが面白かったことを思い出し、そこでハッとする。


第一王子ルートに登場し、婚約を破棄され国外追放もしくは処刑になる悪役令嬢の名前が”リュリアーナ・シュベルツァ”だったはず。







いまのわたくしじゃないの———!!!!







ちょっと冷静になりましょう。

落ち着いて、わたくし。

情報を整理しましょう。



わたくしは、リュリアーナ・シュベルツァ。

シュベルツァ公爵家の娘であり、家族からはリーナという愛称で呼ばれている。

現在、8歳。

髪は桜のような薄いピンク色。

目は薄い紫色でちょっとつり目。

18歳まで生きた前世の記憶を持っており、この世界は前世でやりかけだった【国愛(くにあい)】に出てくる悪役令嬢の一人が自分にそっくりだということ。

そしてその悪役令嬢が最終的には国外追放か処刑になる。

それが自分かもしれないなんて———。


そう、天使かと見紛うような可愛らしい見た目に反して、ゲームのリュリアーナ・シュベルツァは苛烈な性格をしていた。

自分に逆らうものには暴言を浴びせる。

自分の欲しいものは全て手に入ると思っており、事実、リュリアーナに殊更甘い家族は欲しがるものを何でも与えた。

その結果、ヒロインを虐めた罪で国外追放されるか処刑されることになる。


国外追放も処刑も冗談じゃないわ!

わたくしは今の家族も大好きなのよ!


今世のお父様である、ロイレンド・シュベルツァ。

お母様である、ルチアーナ・シュベルツァ。

お兄さまである、レイフォード・シュベルツァ。


お父様はわたくしをとても愛してくださっているし、お母様は優しい微笑みを絶やすことのないすごく素敵なお母様。

そしてお兄様はとても頭が良くていつもいろんなお話を聞かせてくれる自慢のお兄様。


そんな家族と離れるなんて絶対に嫌!!

しかも前世で18歳で命を落としたのに、今世も18歳で命を落とすかもしれないなんて!

そんな未来絶対に嫌!!変えてみせるわ!!


幸い、今のリュリアーナはまだ8歳。

わがままではあるが、ゲームのリュリアーナほど苛烈な性格には育っていない。

それならまだ修正できるはず!




「・・・、・・・ーナ、リーナ?どうしたの?」




ハッと顔を上げる。

そこには心配そうな顔をしたお母様がいた。


「・・・いえ、なんでもありませんわ。新作のケーキが味わったことのない食感だったもので考え込んでしまいましたわ。」


いけない。

今はお母様とのティータイム中だったわ。

お部屋に戻ったらもう一度整理して作戦を練らなきゃ!


心の中でガッツポーズを決めて、お母様を見る。


「そうなの?それなら良いのだけど・・・。何かあればいつでも相談してね。」


首を傾げながらリーナを見るお母様の目はいつも通り優しく暖かい。


「ありがとうですわ、お母様!今日はやりたいことができたのでお部屋に戻りますわ!またわたくしとティータイムしてくださいませね!」


ルチアーナは急に立ち上がった娘に少し驚きながら、にっこりと微笑むと軽く手を振りながらその背中を見送った。


「あの子ったらあんなに元気の良い子だったのね。子供の成長を感じられるのが嬉しいわ。」



一人残ったルチアーナはティーカップに残っていた紅茶を飲みながら、嬉しそうに微笑んだ。





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