第一話 迷宮都市と冒険者登録
「へぇ、お嬢ちゃんは迷宮に挑戦するのかい?」
「はい!ずっと夢だったんです!」
街へ向かう乗合馬車の中、私は話し相手になってくれている中年の女性――ネイさんに元気良く言葉を返す。
私の名前はティナ・オルコス。
綺麗な青色な髪をした今年で成人である15歳になった少女で、小さな頃から夢だった迷宮攻略に挑戦する為に里を出てきてところだった。
迷宮というのは、世界各地に神様が作ったと言われるもので、食料や装備の材料になる魔物やお宝、武具など、人々の生活に役立つものが多く眠る場所のことだ。
その為、迷宮攻略を題材にされた小説なども多くあり、迷宮に憧れを抱く子供も後を絶えない。因みに私もその一人だったりする。
「あれ?お嬢ちゃん剣を持ってるけど、もしかして剣士なのかい?」
「魔法も少しなら使えるんですけど、剣の方が得意なんですよ」
「そうなのかい。女の子が剣士になるのは珍しいからね。怪我をしない様に気を付けるんだよ?」
「はい。頑張ります」
ネイさんは私が剣士だということに驚いた様だったけど、優しい人らしく、殆ど初対面の私のことを心配してくれた。
ネイさんは今向かっている迷宮都市ルインで宿屋をしているらしい。
里の皆がこういう人善人にはあんまり会えないって言ってたから、この出会いを大切にして行こうと思った。
そんなことを考えていると、ネイさんから声が掛かった。
「お嬢ちゃん、迷宮都市が見えて来たよ」
ネイさんにそう言われ、私は乗合馬車の窓から外を見た。
「うわぁ!」
思わず感嘆の声を上げてしまう。
私の視線の先。
そこには天高くそびえる塔型の迷宮と、それを囲むように作られた巨大な都市―――迷宮都市ルインがあった。
私はその光景を見て、これからの迷宮攻略に思いを馳せたのだった。
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「凄い、本当に大きい」
乗合馬車を降り、迷宮都市ルインに入った私は、改めてこの街の迷宮を土産ながらそうぼやいた。
先程も場所の中で見たけど、やはり近く見ると迫力が全く違う。
そんなことを考えながら、私はとある建物に辿り着く。
そこには剣と盾を交差させた看板に『冒険者ギルド』と書かれていた。
迷宮を探索するには、国から特別な許可を貰うか、この冒険者になる必要があるのだ。
「よし!」
そして私は一つ深呼吸をした後、そう意気込んで冒険者ギルドの中に入った。
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冒険者ギルドに入ると、中の視線が一斉に私に集まった。
その視線には奇異や侮り、ねっとりした嫌な感じのものなど、色々なものがあったけど、私はなるべく気にしない様にして空いている受付に向かった。
「冒険者ギルドにようこそ。今回はどのような要件でしょうか?」
「あの、冒険者登録をお願いしたいんですが···」
「冒険者登録ですね。登録には金貨一枚が必要になりますが大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
私は慌てて鞄から金貨を一枚取り出す。
硬貨には銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、虹貨というものがあり、銅貨10枚で大銅貨一枚、大銅貨10枚で銀貨1枚といった様に十倍ずつ価値が上がって行く。
つまり金貨というのはそれなりに大金である。しかし、冒険者になれば街の国や街に入る時に税が免除されたりするので、別段損というわけではないらしい。
そんなことを考えながら、私は受付の人の渡された必要事項を記入していく。
「ティナ・オルコスさん、専門は···剣士ですか?」
「はい。魔法よりもそっちの方が才能があったみたいで」
「そうですか。この街に来たということは迷宮の探索がメインですよね?一番下のFランクですと、迷宮の五階層までしか行くことが出来ませんが大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。ランクを上げるには依頼を達成すれば良いんですよね?」
「そうです。基本的には魔物の討伐や素材の採取です。迷宮外でも依頼はあるので、是非受けてみてください」
私が説明すると、受付嬢の人は詳しく説明してくれた。
ランクというのは冒険者の階級のようなもので、F、E、D、C、B、Aと上がり、その上にSランクという特別なランクがあって、冒険者の強さや受ける依頼の判断に使えるそうだ。
私は登録したばかりなのでFランクとなる。
ランクによる階層の制限はDランクまでらしいので、なるべく早くランクを上げようと思った。
「とりあえず迷宮に入ろうと思っているんですけど、何か簡単な依頼はありますか?」
「低階層には基本的に罠も少ないですし、魔物も素材にならないゴブリンやスライムなどしかいないので、基本的には魔石の納品になります」
「特定の依頼はないんですか?」
「はい。基本的にゴブリンやスライムは常駐依頼です。それぞれ五匹で依頼一つ達成になります」
「分かりました。ありがとうございました」
これでようやく迷宮に入ることが出来る様になった。
迷宮探索に必要な物も事前に準備しているので、買う必要もない。準備万端だ。
そして、私は期待を胸に迷宮に向かったのだった。