回復術師の私は追放される…え?期間限定ですか?
続編『緊急事態なのに師匠が帰って来ないんだけどー!?~見習い錬金術師の奮闘~』
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私はメグリ。ちょっと名の知れたギルドに所属している回復術師。
所属ギルドのマスターは勇者のアレク。勇者自体が珍しく、更にギルドマスターなのは他に例が無い。しかも彼は二十年前の魔王討伐の功労者の一人。
そんな彼を慕って、職業・種族問わず様々な人が所属している。勇者と魔族が共存している良い意味でハチャメチャで、アットホームなギルドだ。
ある日の定例報告会で、私は突然非難の的となった。
「もう無理をしてまで冒険をする必要は無いだろう?」
剣士が宣う。
「そうそう!あたしが超回復のポーションを開発したからね!」
錬金術師が胸を張る。
「お前を守るのは大変なんだ」
重戦士が目を逸らした。
他の仲間も口々に私がこのギルドにいらない理由を溢す。
「と言うことで、そうだな…2年くらい追放な!」
トドメとばかりに勇者が言った。言ったんだけど…何故2年?
私は反論する気力も突っ込みを入れる気力もなく、すごすごと自室に戻った。
みんな、私の事をあんなふうに思ってたんだ。攻撃手段や自衛手段を持たないなりにも迷惑掛けない様に頑張ってた筈だったんだけど。
はぁ。回復以外になんの価値も無い私じゃ切り捨てられても仕方がないか。
少ないながらもそこそこある荷物を空間魔法の掛かった鞄に詰め込む。
最後に首から掛かるギルド証を外そうと思った。でも、これだけでも持っていっても良いかな。みんなとの唯一の繋がりとして。
私はギルドに迷惑を掛けない様にとただのペンダントに見える偽装魔法を掛けた。
早朝、誰にも告げずにギルドを出た。辻馬車を捕まえようと街道を進む。
行く宛の無い私はとりあえず生まれ育った町を目指して歩き出した。まぁ、町に帰った所で生みの親は殺されてるし育ての親も流行り病で他界している。
私が回復術師を目指したのはあの流行り病が発端。病で苦しむ両親を助けたかったから必死に習得した。間に合わなかったけど、間に合わないなりに死の痛みは取り除けたと思う。周りは絶叫するように死んでいったけど、私の両親は眠るように亡くなったから。
これから私は一人っきりで生きていくのか。何故か2年と期限を付けられたけど、たぶん戻る事はないんだろうな。
はぁ、私の様な人見知りがフリーの回復術師としてやっていけるだろうか。
時間にしてどれぐらい歩いただろう。もうすぐ隣町と言う所まで一度も馬車に遭わずにきてしまった。
大人しくギルド前の停留所で待ってた方がよかったかな。でも、それだとみんなに見られただろうから歩くしか選択肢は無かった。
「メグリ!待て!」
私は聞き覚えのありすぎる声に引き止められた。考えないようにしていたのに。
振り返った私の前にはやっぱり弓使いのリック。ギルドからずっと走ってきたのか珍しく息を乱す彼は、膝に手をつき息を整えると私をキッと睨んだ。
「ハァー。やっと追い付いた。お前さ、俺にすら何も言わずに出て行くのか?あの後ずっと待ってたんだぞ」
「…見送りなんて必要無いから」
私は思わず顔を背けた。だって、決心が揺らぎそうだったから。
「ったく。ほら、行くぞ」
彼は私の手をとって歩き出した。
「え?なんで?」
「ばか。一人で行かせるかよ」
困惑しながら繋がれた手と彼の側頭部を交互に見ていたら、ふといつもの様に甘い視線を寄越して言った。
「俺が居るからお前は一人じゃないだろ」
…アナタのその微笑みはずるいと思います。
── side リック ──
やっとギルドに帰ってきた。近頃遠征続きだったから久し振りの我が家だ。
「おい、リック」
早く癒されたいとメグリの部屋に行く途中でアレクに呼び止められた。
「お前、気付いてるか?」
「何に?」
「メグリだ」
「メグリがどうした?」
俺の顔を見てアレクは大きく溜め息を吐いた。失礼な奴だ。
「昨日この前迷宮で出たアイテムを鑑定してたんだが、たまたま俺の視界にメグリが入ったんだ。それで、なんとなく見たら妊娠中だった」
「………はぁあ!?」
あまりの出来事に俺は気が動転してしまった。アレクが何やら言っているが頭に全然入ってこない。
妊娠?メグリが?うそ?本当に!?
「ぃよっしゃあぁぁぁぁ!!!」
大声を出しすぎて方々からクレームが来たが、普段冷血漢やら氷結王子やらと呼ばれる俺も菩薩降臨中の今はニコニコと対応する。
「──明日は槍でも降るのか?」
「いやいや、リックだから降るのは矢っしょ」
「そりゃちげぇねぇな」
「ガハハハ」
どいつもこいつも失礼だな。だから俺はこう言ってやる。
「明日も荒野は快晴だ!」
メグリが妊娠を自覚していない事が判り、産休を取らせようと皆で流行りの追放劇を演じた。メグリが無理をしなくても俺らはどうにかやっていけるぞと。
何人か悪ノリしていたから精神的に絞めてやった。
俺から種明かしをする予定だったのに、いつまで待ってもメグリは相談に来なかった。
いや、俺から会いに行けば意気消沈させる事もこんなに歩かせる事もなかったのか。気が利かなくてごめんな。
「なぁ、メグリ。約束通り俺の唯一になってくれるよな?」
馬車を待つ間、事の次第を暴露した後にプロポーズをした。
「うん。私でよければ」
目に涙を溜めながらメグリははにかんで受け入れてくれた。
堪らず腕の中にギュッと彼女をとじ込める。あぁ、幸せだなぁ。
ギルドにとんぼ返りした俺らは皆にやいのやいのと言われながらも沢山祝福された。
メグリの笑顔は今までで一番輝いていた。
── side アレク ──
最近、ウチの回復術師であるメグリの妊娠がわかった。
“エルフ”のリックと“魔族”のメグリ。
あの二人は共に子供の出来にくい種族だが、もしも授かれたら結婚すると言っていた。
4年前のあの日、リックはメグリと共に生きると決めた。俺の中ではあの日こそが二人の結ばれた日だと思ってる。奴等には承認されなかったが。
リックは子供が出来れば例え相手が異種族だろうと長老達も文句を言えないと言っていた。だから俺の為に喧嘩を吹っ掛けるなと。
なぁリック。もしも今この結婚に異議を唱える奴がいたら例え誰であろうと、そしてお前に止められようとも俺ら全員が相手になるからな。トップギルドの名は伊達じゃないって証明してやるよ。
最初はメグリにだけ産休をと思ったが、リックもあの様子じゃ開店休業だな。ま、二人ともギルドが家だから運営を手伝って貰えばいいか。
しっかし、あの二人が親か。どちらも恐ろしい程に容姿が整ってるから、生まれてくる子も男女問わず美人なんだろうな。
俺の事は子供になんて伝えるんだろう。まさか俺の生きてる間に出来ると思ってなかったからな。…おじい、いや願望は妄想だけにしておこう。
ハハ。さてと、おっさんは見栄を張った結婚祝いを渡すためにも頑張って仕事をこなすかね。
後日、仲間内でささやかな結婚披露宴を開いたんだが。
ちくしょう!メグリにお父さんて呼ばれて泣くなんざ思わなかったぜ!
リック、絶対にメグリを幸せにしろよな!!
── 人物紹介 ──
メグリ(Age22、魔族)《回復術師》
生みの親とは魔族迫害により物心つく前に死別
回復魔法の適性が高く魔族故の魔力量と並々ならぬ努力もあり今では世界屈指の回復術師に数えられる
本人にその自覚は無い
見た目の良さから愛玩奴隷として売り飛ばされそうだった所をアレクに救われた
リック(Age?、エルフ)《弓使い》
排他的なエルフの生活を厭い冒険者となる
風魔法を操り必中の矢を放つ
魔物の群に襲われ死にかけていた所をアレクに助けられた
メグリ大好き
メグリ以外には基本冷たい
アレク(Age40、人間)《勇者》
トップギルド『荒野は晴れる』のマスター
魔王討伐の功労者の一人
よく死にかけてる人を拾ってくる
メグリが10歳の時から親代わり
『荒野は晴れる』の由来
荒れた野にも晴れる時は必ず来る
魔王討伐隊の合い言葉でもあった
── あの時の心の声 ──
剣士
「もう無理をしてまで冒険をする必要は無いだろう?」
(これからは大人しくリックに養って貰え)
錬金術師
「そうそう!あたしが超回復のポーションを開発したからね!」
(めーっちゃ苦いしメグりんの魔法ほど回復しないけど、みんな諦めてね☆)
重戦士
「お前を守るのは大変なんだ」
(もし傷の一つでも負わせてみろ、俺がリックに殺される…)
最後までお読みいただきありがとうございます。
2019.07.12